ウェブ業界はどこを向いているのか・その2
2008年05月05日 22:27
ウェブ業界に言いたいこと、その2です。考えてもみれば、どの業界であろうとチンピラ営業やヘタレ経営者というのはいるわけで、こういう連中が業界の商習慣や業務フローを牛耳っているようでは、なかなか問題は解決しません。今回は、事業としての「サイト運営・運用」を、企業の中に正しく位置づけるにはどうすればよいかを検討してみます。
事業としてのサイト運用
さて、前回までのように指摘できる色々な問題が生じた経緯を探ってみると、案件の種類によって事情が異なっています。コーポレートサイトを組むとき、ECサイトを組むとき、イントラサイトを組むとき、キャンペーンサイトを組むときといった次第で、それぞれ事情の異なる経緯があるように思います。中でもとりわけ、おおよそ先のエントリーでも述べたように、或る企業のキャンペーンサイトや e-コマースサイトがその企業の事業所に相当するのだという自覚が、発注側の顧客だけでなく受注側の制作会社や開発会社にも抜け落ちているという点は深刻です。
ECサイトやコーポレートサイトが一つの事業所に相当するという見解を大袈裟だと考える方には、次の点を考慮してみていただきたいと思います。まず、ウェブサイトは新聞のチラシではありません。印刷して見せてしまえば終わりというものではなく、その事業や会社が存続しウェブが通信媒体としての価値を持ち続ける限り存続するかもしれません。新聞や雑誌の広告とは異なり、ウェブサイトはブラウザでアクセスできる環境を持っていれば、10年後であっても国会図書館にわざわざ出かけたり大学図書館から取り寄せる必要など無く、稀覯本として閲覧を制限されたりもしません。いつでもアクセスできるということは、逆に言えばきちんとした内容を存続しておかねばならないという(CSRやサービスの範疇ではありますが)業務が企業には発生します。ECサイトや取引先専用サイトを運営したりユーザの個人資産(ないし個人情報)を扱う場合には、それに加えてセキュリティレベルをできるだけ高く維持する責務もあるでしょう。
したがって、本来ウェブサイトの運営には、一つの事業部を維持するのと同じくらいの固定費(運営費やサーバ利用料金)や営業経費(AdSense などリスティングや SEO の対策費)をかけなければ効果は出ません。しかし多くの経営者は、顧客側であろうと受託側であろうと、このような点に殆ど着目しないのです。
放言を承知で率直に言わせてもらえれば、その理由は僕から見れば明白です。つまり、たいがいの発注側担当者には、事業部(である筈のサイト)を構築するスキルや経験のない人があてがわれているからです。大企業になればなるほど、発注側の担当者は、そもそも事業部署を構築するようなスキルも自覚もない(ただネットが好きといっただけの)一般社員ですし、中小企業の場合も事業部署を構築したこともない経営者がたいていは発注者となっているため、もともとウェブサイト(という事業部署)を構築するにあたっての決裁権者や担当者として不適当なのです。
また受託側もたいていはごく普通の制作会社か、ごく普通の開発会社です。しかるに、ビジネスロジックや業務フローあるいは経営戦略を理解できていないか考えたこともない20歳~30歳の人が他社の事業部署を構築するといった、チャレンジングには違いありませんが実際は殆どが失敗に終わる、無謀な業務をしていることになります。その自覚がない限り、この業界はどうしようもないと考えます。お絵描きができる程度で「デザイナー」と言ってみたり、他人の統計を適当にいじくってパワーポイントにまとめる程度で「情報アーキテクト」と言ってみたり、あるいは機械いじりができたりパズルていどのプログラミングができる程度で「エンジニア」とはおこがましい。てめーたちはネットジャンキーかおたく崩れのガキでしかないという自覚をもつべきです。
しかし、いったいどれほどのウェブ制作プロダクションや開発会社が、ウェブサイトを顧客企業の事業計画の中に正しく位置づけて戦略的に設計できたり、顧客のヒューマンリソースを有効にディレクションしたり、サイト運営の経験を蓄積しているというのでしょうか(実際に制作会社がサイトの運営を請け負わなくても、納品物の品質基準として「顧客側での運用を考慮したサイト構築」という項目が盛り込まれてもよいでしょう)。とても単純な話ですが、制作会社や開発会社に入社するまでの学生時代あるいは他業種で勤務していた間に、プライベートでウェブサイトを作ったり運用した経験もない人が(他業種からの転職組には、30歳以上になってもサイトを運用した経験がないというイタいディレクターが山のようにいます)、いきなり顧客対応のメールを適切に書いたり、ウェブサイトの長期的な運用プランを立てられるでしょうか。
多くのウェブ制作プロダクションや受託開発会社に、ウェブサイトの戦略的な位置づけや、長期的な運用体制と手順を提案する力が根本的に欠けていると思える理由は、彼ら自身が自社でウェブサイトを業務として適切に運用し成功させた試しがなく、それゆえウェブサイトを「作って公開」することしかできないからだと言えます。「作って公開」する以前の事業計画やウェブ戦略に加えて、「作って公開」した後の運用も全く経験やスキルがない。したがって、どれほど小規模でもECサイトを運用して顧客とのやりとりを続けていた経験がある人は貴重な存在であり、うまく運用できる人は更に貴重なのですが、たいていの制作プロダクションでは基準がズレています。もちろん、大学で非線形解析をやったとか、16世紀の聖書に見られるタイポグラフィを研究したとか、Ruby でオリジナルのフレームワークを設計したとか、そういったスキルも有用には違いありません(これらと同様、交渉相手にゴネるのが得意だというのも、一部の制作会社にとっては有用なのでしょう)。しかし顧客にとってウェブサイトを運用するという事業が、とりわけビジュアルデザインのあれこれといった些事(!)を積み重ねれば成功へ導かれると唱導するのは、そろそろ一部の広告系業界人が喋っているだけの悪質なプロパガンダだと言っておいてよいでしょう。ここでも断言してよいなら、ビジュアルデザインやタイポグラフィなど視覚的な観点しか考慮されていないグラフィックスや FLASH といった視覚装飾は、単に追加したり細部へ拘るだけならどれもオーバーデザインであり、事業としてのウェブサイトを成功に導くための必要条件でも十分条件でもないのです*4。
*4 ウェブサイトの制作に当たって欠くべからざる切り口として、これまでビジュアルデザインは殆どの制作プロダクションによって唱導されてきました。もちろん、単純に美しいとかクールなデザインという牧歌的なフレーズでデザインを語る恥ずかしい制作プロダクションは減っていますが、かといって「ビジュアル効果」であるとか UX であるとか、心理学「っぽい」利いた風な用語をちりばめてビジュアルデザインへの投資を正当化できるほど、本当に制作プロダクションはビジュアルデザインの設計・実装能力を持っているのでしょうか。この点は、たとえデザインの実務に携わる社員のうち半数以上が美大を出ているなどと言われても、にわかに信用できません。なぜなら、美大では視覚にかかわる心理学や生理学など教えていないからです。例えば槍玉に挙げる意図はありませんが、多摩美術大学の情報デザイン学科のカリキュラムを見れば、一年次からいきなりプログラミングを含む実務系の教科が配されており、あくまでも「表現する方」の側から科目が配されているように見受けます。また、東京芸大のデザイン科を見ても(そもそもこのサイトを見るとウェブのデザインを語る資格などないように思えますが)、表現に介入したり表現に出会う方の側も含めた心理学や生理学のステージを重視しているようには思えません。
また、ビジュアルデザインにこだわりすぎてコーポレートサイトやECサイトの本来の目的を見失ってしまうと、顧客のニーズを十分に満たせなくなります。実際、Google や mixi 、はてなブックマーク、ニコニコ動画、昨年までの Yahoo! JAPAN を見ても、二流デザイナーが競って採り入れていた各時代の流行デザインテイストなど、大して反映してはいませんでした。いまでこそこれらのサイトにも、いわゆる WEB 2.0 テイストは採り入れられていますが、いち早くトレンドを追いかけていた殆どのウェブサイト(99%と言ってもよい)は、これらのサイトを運営する企業に比べて収益は悲惨とも言えるほど圧倒的に少ないのです。ところが、楽天などを見てもお分かりのとおり、収益を上げているウェブサイトの多くは微妙なニュアンスのテイストなど知ったことかと言わんばかりの豪快なレイアウトとビジュアルで運営されています。
もちろん、ビジュアルデザインが不要なのではありません。しかし、商売の目的はまず第一に収益を上げることであって、目を引くだけの画像や FLASH を見せて印象づけることではないのです。そうしたビジュアルがどれほど巧みに作られていようと、結局そうした点でしか目を引かないサイトは、せいぜい同業者が『Web Designing』や『Web Strategy』で眺めるていどのものでしかありません。かつてTVで流行したコラボレーション企画のように、異業種どうしでコマーシャルを制作するとか、全てのコマーシャルがひと繋がりの物語になっているといった単なるパブリシティだけでは、人がものを買おうとする動機付けには至らないのです。
ここでウェブサイトの利用者の動向を見ていると、いっときのホームページブームやブログブームや SNS ブームあるいは広い意味でのコミュニティサイトのブームはすでに過ぎ去った感があります。これから新しいサービスが始まったとしても、Google を越えるようなものでない限り、いま利用しているサービスから移行するような大移動はなかなか難しいでしょう。それは、あと何年経とうと多くの Windows ユーザが Solaris マシンで OpenOffice を使うようにはならないのと同じ事です。それどころか日本の10代を調べた統計では、コンピュータの所有率が2割を切っており、会社以外ではコンピュータを使わなくなる可能性もあります。それゆえITベンチャーの多くは携帯でのサービス構築を目指すわけなのでしょう。いまどき携帯向けのサイト制作やシステム構築もできないITベンチャーは技術的には鎌倉時代の人間みたいなものですが、鎌倉時代から現代にまで伝わる知恵や力量を活かせる、と喩えてもよい業務内容はあって、それが企業の事業計画からウェブでの戦略に落とし込む分析力だったり市場調査の綿密さだったり運用計画やフローの立案なのです。つまり、ウェブに限らずどこの業界でもまともな会社はみんなやっている「プロダクトマネジメント」が、多くのウェブ制作プロダクションやITベンチャーには欠けているのです*5。
*5 アメリカでは4年で約6割のベンチャーが廃業しているという報告も踏まえると、単に技術力や奇抜なアイディアだけで「企業としてのITベンチャーを事業継続させる」のは難しいと言えるでしょう。制作プロダクションや開発会社に置き換えても、納品するものは自社のサービスではありませんが、顧客の事業を失敗に追い込むウェブ構築や開発を繰り返していると信用を失うという点では、プロダクトマネジメントの必要性を同じように指摘できます。
先ほども述べたように、企業が立ち上げるコーポレートサイトやプロモーションサイトあるいはECサイトは、一つの事業所や事業部署に相当すると言えます。したがってウェブでのサービスを展開しているわけでもない5人や10人規模の企業が、効果的な運営にリソースを2人月や3人月も要するコーポレートサイトや受注用サイトを片手間に立ち上げてはいけないのです。また新規にサイトを立ち上げるのであれば、自社のサービスとしてウェブサイトを立ち上げるのがそもそも事業計画上で有効かどうかを予め調査したり、制作プロダクションへ発注する前に要件を立てて経営陣の承認を得ておくのは当たり前のことです。このようなことをウェブ制作プロダクションが代行してくれるかのように考えてしまうのは、これまで述べてきた「ウェブ制作プロダクションに実はそのようなスキルはない」という事情があろうとなかろうと、そもそも発注側の起案段階で間違っています。
コンピュータプログラムにおける「保守」という言葉を作った人が誰なのであれ、その人は「殺せ」とか「こんにちは」という言葉で攻撃するように犬を訓練する人と同じくらいに考えがなく、不注意なのだ。すでに後の祭りではあるが、「保守」プログラマというのは、用務員よりも脳外科医に近い。生きているシステムを開けるというのは、流しを開けてワッシャーを替えるというよりは、頭を開けて神経を替えるようなものだからだ。もし保守が「ソフトウェア脳外科手術」と呼ばれていたなら、簡単にやれることだと考えられただろうか?
こう考えてごらん。あなたは攻撃犬に「殺せ」と言う悪い癖がある。それであなたは脳外科医の所に行って、こう言うのだ。「先生、ちょっと私の頭蓋を開けて、この小さな癖を取り除いてもらえませんか? 手早くやってもらって構いませんよ。小さな変更なんだから! ごくつまらない保守作業でしょう?」
「一見無害だが危険な言葉」(Gerald M. Weinberg/著,青木靖/訳, 2007年3月12日)
かような発注者には、次のように何度でも申し上げる必要があろうかと思われます。自分たちの事業でしょう? 何をしたいかも分からない人たちの事業を、いったい誰が代行して構築したり運営してくれるというのでしょうか。このような問題は、事業の種類や顧客企業の規模あるいは業種に依存していません。どんな業種の案件であっても、発注側に事業の明確なコンセプトがなければ失敗に終わるのです。繰り返しますが、事業や会社の規模が大きくても小さくても、きちんとした事業としてサイトを立ち上げたいとか、もっとあからさまに言って儲けたいと思っていれば、事業計画を立てて要求定義を発注側が(RFPという形式を取るか取らないかはどうでもよいです)つくるのは当然なのです。「うちは社員が5人しかいないので、ECサイトの事業計画をつくるだけの人手が足りないんだよ」などと寝言を口にする暇があれば、いったい発注者である自分たちがウェブでそもそも何をしたいのかを考えていただきたいと思います。まぁもちろん受託側から言えば「明確に考えて」いただき、その範囲だけで作業できるように発注書もくれたらもっとうれしいのですが。
もちろん発注側の誰かをNHKの高度成長期礼賛番組よろしく、いまで言えば「名ばかり管理職」にして責任感を植え付け、ちゃんとした事業計画を不眠不休で立てろと言っているわけではありません。なぜ発注側から要求定義が出なかったり、事実上そういうものを作るのが困難になるかと言うと、決裁権者あるいは経営者の判断がウェブ構築フローの中で(クリティカルパスにいつも位置している割には)常に遅く、一貫性もなくて不正確だからです。要するに、大企業から中小企業まで区別なく、ウェブサイトの構築という事業が失敗に終わりがちなのは、ウェブ制作や開発の会社にも問題はありますが、決裁権者あるいは経営者の決断の遅さやいい加減さが禍しているケースが多いと言えます。いったん決まったビジュアルデザインを単なる好みでひっくり返したり、利いた風な業界用語を持ち出しては開発が進んでいるシステムに実装しろとわめいたりするような決裁権者は、もし仕様やビジュアルデザインあるいはサイト設計を変えるなら、過去の自分の判断を誤りとした上で責任を自覚すべきです。ふつう、始まってもいない事業の計画を途中で変更することを、市場に「対応した」とか計画を「改善した」などとは言いません。それは単に、事前調査や分析を「失敗した」という事実でしかないのです。要件変更あるいは制作・開発側への修正依頼は、発注ミスによって起きているのだという自覚をもつべきです。
こう述べると、「いや受託側の理解力の問題やスキルの問題もあるだろう」と言う方もおられる筈です。もちろんそうですが、必要十分な発注を行い、要件を満たしているかどうかを計った上で、初めて受託側の責任が問えるのです。ウェブ制作会社は超能力集団ではなく、発注者のミスを勝手に修正してくれたり、発注者が意図していたことを聞き出しもせず実現してくれたりはしません。逆に言えば、制作会社や開発会社は発注側の利益になるような行動を勝手にとったりはしないのです。業務請負契約は奴隷契約でもコンサルタント契約でもありません。制作会社の方から何かを提案してもらいたければそのように契約すべきです。現状では仕事がほしい制作会社側から勝手に何かを提案してきたり、進んで何かを最適化したり改善してくる場合もあり、「提案力」をアピールしている制作会社もありますが、それらを営業経費として請求時に算入するのは当然でしょう。社員個人がそのようなサービスを勝手に提供しているなら、会社の業務工数を勝手に非生産業務へ振り分けているのですから、その社員は労務規約違反を犯していると言えます。ディレクターには自分の工数を勝手に振り分けてもよい予算枠や権限が与えられる場合もありますが、そのような制作・開発会社はほんの一部と言ってよい筈です。
いままで述べてきた内容に、何人かの方、特にウェブ制作プロダクションの方は「いや、うちのウェブサイト構築は成功してるぞ」と反論したくなるでしょう。しかし、少し振り返って点検していただきたいのは、ウェブサイトの「成功」とは、ウェブサイトを「制作・構築」することではないという点です。この点で、少なからぬウェブ制作プロダクションや個人事業主が誤解をしている可能性はあります。ウェブサイトの成功とはウェブサイトを起点とする収益構造を作り出したり、情報のネットワーク構造を作り出して、評価できるだけの売上として貢献しているとか、間接的ではあっても客観的な指標に照らして認知度などの効果を上げることだと言えます。その効果は、ECサイトのように売上としてはっきりさせる事かもしれませんし、何らかのプロモーションを行って会社やサービスや商品の知名度を上げる事かもしれません。そして、いづれにしてもそうした効果は、ウェブサイトを継続して運用していなければ分からないことです。確かに、存在しないところに新しくウェブサイトを構築すれば、何らかの効果は出るでしょう。当たり前です。そのように単純なことを制作プロダクションの実績として掲げるのは、恥ずべき事と言わねばなりません。しかし、制作・構築するだけの作業しかしていないプロダクションや開発会社の場合、サイトを公開してから一定期間のアクセス数や、あるいは端的に言って顧客側の運用担当部署について算出した限界利益率が向上したかどうかを、実は顧客からフィードバックしてもらっておらず、自分たちの仕事に効用があったのかなかったのかを制作・開発会社が全く知らないというケースも多いのです。
