Does “balance” in balance sheets mean “equilibrium”?

河本孝之(Takayuki Kawamoto)

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First appeared: 2010-09-05 04:52:45,
Last modified: 2017-05-07 08:55:32.

We have found that many writings published in Japan and the United States explain the meaning of ‘balance’ in the word ‘balance sheet’ as ‘equilibrium’ rather than ‘remains.’ It would be a misleading explanation to understand a statement of financial position (balance sheet). But I think such misconception should be led from this inappropriate naming.

Many writings published in Japan have told us about the meaning of “balance” in balance sheet as “the equilibrium of left and right sums.” But some people claim against this explanation for the reason of the original meaning of “balance” as “remains.” David Meckin, for an instance, has put this another explanation up in his book, Naked Finance as follows.

Time for a piece of trivia! The fact that the net assets of a company and the shareholders’ funds must by definition equate has led many people to believe that this is why the document is called a balance sheet. This is a misconception. The reason it is called a balance sheet is because it provides a list of balances (i.e. values). It asks: ‘What is the balance on our fixed assets?’, ‘What is the balance o our current assets?’, and so on. Mystery solved!

David Meckin, Naked Finance (Nicholas Brealey Publishing, 2007), p.71f.

Both sides of the result should be “balanced” in such a statement of financial position. So it would be easy to grasp and teach the meaning of “balance” as an equilibrium. The explanation at Wikipedia gives this line of explanation:

Balance sheets are usually presented with assets in one section and liabilities and net worth in the other section with the two sections “balancing.”

Wikipedia contributors, “Balance sheet,” Wikipedia, The Free Encyclopedia, http://en.wikipedia.org/w/index.html?title=Balance_sheet&oldid=382299337 (accessed September 3, 2010).

But other paper such as ‘Validity of Acounting Models in the Knowledge Era’ (typo is saved) by Ebrahim Mansour and others write, under the section title ‘Accounting (or Balance) Equation’ as follows:

The old balance sheet (or tangible assets sheet) has taken its present format in 1868 to portrait the old realities of industrial economy. The fundamental balance sheet equation is, of course: Assets = Liabilities + Equity.

Ebrahim Mansour, Ahmed A. Mohammad, and Farouk Missi, ‘Validity of Acounting Models in the Knowledge Era’, European and Mediterranean Conference on Information Systems 2008 (May 25-26 2008), p.8.

It must be difficult to mean ‘balance’ as ‘equality’ or ‘equilibrium’ in this context. So the type of explanation as ‘a balance sheet must be balancing balances of both side of sheet’ is just a failure, although this failure seems to be inevitable because of the ambiguity of ‘balance.’

うう、久しぶりに英語で書くとしんどいな。ということで、会計学の歴史を扱った本を読むと、そもそも財務諸表の多くは昔は貸方と借り方を左右じゃなくて上下に並べて書いていたので、「左右のバランス」という意味合いを歴史に求めるのは、それが語源として正しいと仮定しても、せいぜい19世紀のイギリスくらいまでに限られると思う。誰だったか、会計学の父と呼ばれる Luca Pacioli(ルカ・パチョーリ)の話を持ち出して、天秤のようにバランスを取るために使った表なので「バランスシート」と言うのだ、なんて説明をしていたが、そん軽口は典拠表記がなければ、いかな専門の大学教授の説明でも、Da Vinci CODE ならぬ Luca CODE みたいな業界内の都市伝説同然と言ってよいだろう。

ただ、英語で ‘balance’ に「残高」という意味はあるにしても、それとて語源学的な根拠がなければ、「バランスシート」という言葉が先にあって、そこで計算の結果として考察される残高を表すために ‘balance’ という言葉が派生したという可能性が残る(つまり「残高」という意味こそが「バランスシート」という言葉の使われ方から派生している可能性もある)ので、海外の会計学で残高を意味するからという説明は、実はあまり語られていないと思うのだ。現に、海外でも ‘balance sheet’ の ‘balance’ を残高のことだとわざわざ説明している人は実はそれほど多くない。それが誤解の広がりを意味するのか、それとも結果的に正しいだけの無批判や無関心なのかは、きちんと調べなければ分からない。

やはり、「貸借対照表とはどのようなものであるべきか」という理論の歴史と、それを ‘balance sheet’ と呼んできた会計学の歴史を参照する必要があるのだろう。でも、こういう話題の論文や書籍は少ない。試しにノーマル Google と Google Scholar で色々とキーワードを変えて検索してみたが、はっきりいってオラが町の会計士のブログが多くてどうしようもない。まともそうなものは圧倒的に有償(論文を閲覧するには subscription の必要がある)であるから、公開されている中で分かる範囲の文献を探しておきたい。ちなみに、Naked Finance は『財務マネジメントの基本と原則』(國貞克則/訳、東洋経済新報社、2008)というタイトルで翻訳が出ていて、僕はこちらを所有している。

もちろん会計学や簿記学では、貸借対照表を学ぶ際に、これは期末時点での(結果としての)資産や負債などの「残高」だと習う人も多いだろう。日経から出ている『会社「経理・財務」入門』ですら、以下のように説明している。

なお Balance は「残高=残り」という意味で,資産・負債・純資産それぞれの中の科目のある時点での残の金額(=残高)を表しています。

『会社「経理・財務」入門』(金児昭/著、日本経済新聞出版社、2007),p.117.

B/Sは,前にも述べましたが,期末のある1日,例えば3月31日の夕方5時という瞬間における会社の資産,負債,純資産グループの科目の残高です。受払残表(残増減表)の考え方をとれば,4月1日から3月31日までの1年間の経営の動きを反映した結果(残=バランス)としての会社の財政状態を示す表(シート)です。

『会社「経理・財務」入門』(金児昭/著、日本経済新聞出版社、2007),p.175.

会計学や簿記の素養がある人の多くは、こうした入門書によって、’balance sheet’ の ‘balance’ が「残高」のことであると説明する本に、少なくとも一度はお目にかかっているのではないか。

なお、上記で引用した書籍の前の版にあたる『会社経理入門 第4版』で同じ箇所を調べると、次のような記述になっていた。

Balanceは,均衡・平均のとれたという意味で,左・右のバランスのとれた表ということです。なお Balance には別に「残高=残り」という意味もあります。

『会社経理入門 第4版』(金児昭/著、日本経済新聞出版社、2004),p.113.

この記述をさきほどの引用と比べれば、金児さんは ‘balance sheet’ の ‘balance’ の意味を「均衡・平均」とすることが誤りであったと認識したものと思われる。

このようなわけで、「バランスシート」の「バランス」を「平衡」として説明するか「残高」として説明するか、色々な著作物で分かれている。これは、単に(学術というレベルの)勉強を怠っている会計士が研究者の真似をして概念そのものを説明しようと無理をするからそうなってしまうのか、それとも現実に「平衡」という意味合いもあったと言いうる根拠がどこかにあるのか。実際、「残高」という解釈の方を、まるで自分のオリジナルな学説であるかのように著書で吹聴しているアホな会計士もいるのだ。

歴史的な経緯を辿ると、例えば高寺貞男さんが著した ‘Early Experiences of the British Balance Sheet’ という論文には、18~19世紀までイギリスに見られた変則的なバランスシートの実例が George Lisle (ed.), Encycropedia of Accounting, Vol. I, Edinburgh, 1903, p. 207 からの引用として掲載してあり、そこには ‘Description of Statement or Account’(表の説明内容)という項目に ‘Balance’, ‘Balance Sheet’, ‘Balance Account’ という表記が並んでいる。これらは明らかに「残高」、「残高表」、「残高記録」を意味しており、「平衡」のことではない(Sadao Takarera, ‘Early Experiences of the British Balance Sheet’, The Kyoto University Economic Review (Memoirs of the Faculty of Economics in the Kyoto University), Vol.37, No.2 (October 1967),pp.34-47)。

別の論文を参照すると、イギリスで1868年に制定された鉄道規制法で制度化された複会計制度において、いわゆる流動資産や流動負債を計上する書類が「一般貸借対照表(the usual balance sheet)」とされた。ここにおいて一般貸借対照表とは、資本勘定や収益勘定を除く、「その他の報告書の残高,および資本勘定に計上されない項目,つまり流動資産と流動負債を計上する報告書」であり、貸方と借方の「バランスがとれている」ことを示すのが第一義であるような書類ではなかったことが明らかである(澤登千恵「1868年鉄道規制法の再評価」,高松大学紀要, Vol.39 (2003), p.2: [CiNii:110000076090])。

このような次第で、「バランス」を「平衡」として説明するのは、会計学や簿記の歴史に照らすと不適切であることが分かるだろう。

追記(2017年5月7日)

たまに機会があれば(というよりも、実際には計画性もなく思いついたときにだが)会計の歴史について書かれた本を大型書店や図書館で眺めて、「バランスシート」という言葉の来歴がどう説明されているかを確認している。既に上記で指摘したように、会計史という分野をまじめに学んでいる実務家や通俗書の著者の多くは、「バランスシート」の「バランス」という言葉の由来が、貸借対照表の左右の欄の合計が「釣り合っている」という意味ではなかったことを知っている筈である。それゆえ、「バランスシート」という言葉の由来に敢えて言及しないというのも、「バランス」が平衡の事だと思い込んでいる多くの税理士や物書きとの無用な問答を避けるための対策なのだろうと推察できるが、やはり不勉強な人々や俗物物書きの思い込みを是正するには、正しい知識を堂々と主張する他にない。僕は会計学や会計史のプロパーではないし財務や経理の実務家ですらないが、50人足らずの中小零細企業に勤める役職者というアマチュアの一人として、本稿のような論説が僅かながらも正確な知識の普及に貢献する一つの手段だと信じている(そうでもなければ、このような論説は、自分が調べて知っているにすぎない薀蓄を披露して自意識を補完・保全するのも同然の行いでしかなく、いったい何の社会的意義があろうか)。

会計史の知見としては、『会計と会計学の歴史』(体系現代会計学第8巻、千葉準一・中野常男/編、中央経済社、2012)の pp.100-105(第2章第5節「産業革命期以降の会計への進化(1) ― 貸借対照表の誕生」)にあるとおり、バランスシートの「バランス」という言葉がもつ来歴については、最早問答の余地はない。

残高というのは,すべての勘定の残高であり,したがって,バランスシートというのは,本来的には,あくまでも勘定残高の一覧表を指す用語である。それは,必ずしも,貸借対照表のみを意味する用語ではなく,とりわけ初期においては,試算表も精算表も,時として損益計算書もバランスシートと呼ばれることがあった。それ故,残高帳もまた,厳密には,元帳諸勘定の残高一覧表であり,単に資産・負債・資本の残高一覧表を指すものではなく,収益・費用の残高一覧表も含まれることにもなるのである。

千葉準一・中野常男/編, 『会計と会計学の歴史』(体系現代会計学第8巻), p.105.

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