ВОСТОК-3 straight razor

僕が所有する、ソヴェト連邦時代にスティッツという工場で製造された「ボストーク3号」というブランドの直刃剃刀についてご紹介します。

河本孝之(KAWAMOTO Takayuki)

Contact: takayuki.kawamoto@markupdancing.net

ORCID iD iconORCID, Google Scholar, PhilPapers.

First appeared: 2024-04-07 09:33:37,
Modified: [BLANK],
Last modified: [BLANK].

my razor

はじめに

替刃式の直刃剃刀についてご紹介したページでも説明しているように、替刃式の剃刀を使っていると幾つかの問題があると感じるようになりました。ヒンジ式はレバーが外れやすい形状もしくは個体があること、そしてスライド式はコンケーブがないので泡が逆に剃刀への抵抗になってしまうことです。それらの問題が少ないと思われる替刃式の剃刀もあるにはあります。たとえばレバーが外れにくい形状の剃刀や、泡がまとわりつきにくいくらいブレードを立てて使う形状の剃刀などが発売されています。しかし、おおよそ剃刀の運行や角度を制限するような部品をもつ(結果的に僕が感じている問題が解消するような機構や形状になっているというだけの)剃刀ですから、あまり良い印象がありません。やはり長らく製造されてきて多くの愛好家やプロの理容師に使われてきた(そして、当然ながら製造や設計にあたって製造する側も多くのフィードバックを考慮してきた筈の)伝統的な直刃剃刀、つまりは straight razor を使ってみるのも一つの選択肢でしょう。ということで、手始めに初心者としては過剰なコストをかけずに straight razor を使ってみるという事情で*、手に入れる方法を幾つか探してみました。本稿は、そうして手に入れた straight razor を詳しくご紹介します。

*僕はそもそも直刃剃刀という形状の器具を使って髭を剃ることにしたとき、過剰な投資やメンテナンスの費用がかかるのを避けたいという要望も持っていました。なぜなら、僕はカートリッジ式の安全剃刀を30年以上も使ってきているので、おおよそ4個で3,000円くらいするカートリッジの買い替えという点を無視して髭をしっかり短時間で剃るというだけなら、少なくとも僕には安全剃刀の方がいいと言えるからです。いま使っているカートリッジ式の安全カミソリなら、シェービング・ジェルを付けて、鏡なしでも数分で奇麗に髭剃りを終えられますが、直刃剃刀だと、僕は使い始めてから二ヵ月ほど経過した現在でも WTG/XTG/ATG の3パスで30分はかかってしまい、剃り残しもまだ多くあります。リモート・ワークが中心の生活になって外出する機会が減ったために、剃り残しという結果を不安に感じることはなくなりましたが(もし不安でも、いまでもマスクをしている人は多いので、マスクで隠してしまえます)、コストを無視すれば安全剃刀の方が結果はいいと言えます。よって、(替刃式の)直刃剃刀でのシェービングは、いまは趣味の類でしかありません。奇麗に剃ることが目的なら、直刃剃刀で剃った後から安全剃刀で剃りなおしているくらいなのです。それでも、直刃剃刀の手入れや髭剃りに慣れてくればランニング・コストは安くできるという期待もあって練習しているわけですから、これでコストもカートリッジの安全剃刀より余計にかかるとなれば、それを補うほど直刃剃刀を使うことに楽しさを感じるかと言われたら、多少の疑問はあります。

冒頭に戻る

どこで買うか: Etsy にした理由

straight razor を英語なり日本語で検索すると、もちろん販売しているサイトは数多く見つかります。そして、値段も数千円から数万円を越えるものまで色々とあることもすぐにわかる筈です。すると、選択肢としては、

  1. 現在のメーカーの直営店
  2. 剃刀を扱う刃物の専門店
  3. 剃刀も扱う小売店
  4. 現在のメーカーの公式販売サイト
  5. 剃刀を扱う刃物の専門店の販売サイト
  6. 剃刀も扱う小売店の販売サイト
  7. オンライン・モールでの公式
  8. オンライン・モールでの刃物の専門店
  9. オンライン・モールでの小売店
  10. オンライン・オークションのサイト
  11. オンライン・フリーマーケットのサイト
  12. 掲示板や SNS を経由した直取引

というパターンがあり、おおよそリストの順番で上から危険度が増していきます(ここで言う「危険度」とは、偽物を掴まされるとか、過剰な利益が上乗せされて実勢価格とはかけ離れた価格に設定されているとか、あるいは商品を送ってこないトラブルが起きるといったことです)。そして、これらに国内か海外かという違いも加えると、更にリストは複雑で長いものになるでしょう。

このような状況にあって、ひとまず頼っていい考え方なりスタンスがあるとすれば、恐らく妥当な範囲での合理性しかないのでしょう。これはつまり些末な点を無視して単純な基準だけで物事を判断し、売る側の事情や細かいことを心配したり配慮しないということです。こちらは潤沢なお金をもっているわけでもありませんし、いくらでも時間に余裕があるわけでもないので、もちろん盗品と分かっていて買うのは避けるべきでしょうが、都内で贅沢な暮らしをしているサラリーマンや資産家の真似をして、インチキ左翼みたいに、やれ正当な評価だのフェア・トレードだの SDGs だのを物品購入の基準にしてみたり、あるいはインチキ右翼のように玉鋼で作った日本剃刀だけが剃刀であるなどという世迷い事を真に受けたり、それから生産者や出品者の事情を斟酌したり気遣う必要はありません。相手がどれほど心血を注いで作った剃刀だろうと、あるいはどれほど伝統的で高品質な剃刀だろうと、それともいかに色々な意味で「正しい」材料で作られた剃刀だと宣伝していようとも、単純に高額な商品は買えません(髭剃りという生活習慣の道具を買うのに、クレジット・カードでリボ払いなんてしたくありません)。あるいは出品者が売り上げたお金で交通遺児の活動に寄付したいと言っていたり、生活保護なので家財を売りたいとか、あるいは夫をオオアリクイに殺された未亡人が遺品整理で剃刀を出品しているとか、そんなことは本当だろうと嘘だろうと買う側にとってはどうでもいいです。品質と価格とが納得いくていどのバランスで、できるだけ安全に買える品物を、なるべく多くの選択肢があって探しやすいかどうかだけがポイントです。そして、バランスの良い選択肢が商品として多くあるかどうかを考慮すれば、最初のリストは次のようにアップデートできるでしょう。

  1. 現在のメーカーの直営店
  2. 剃刀を扱う刃物の専門店
  3. 剃刀も扱う小売店
  4. 現在のメーカーの公式販売サイト
  5. 剃刀を扱う刃物の専門店の販売サイト
  6. 剃刀も扱う小売店の販売サイト
  7. オンライン・モールでの公式
  8. オンライン・モールでの刃物の専門店
  9. オンライン・モールでの小売店
  10. オンライン・オークションのサイト
  11. オンライン・フリーマーケットのサイト
  12. 掲示板や SNS を経由した直取引

まず、メーカーの店やサイトは、当たり前ですがそのメーカーの商品しか扱っていないので、品質はともかく品揃えは論外です。よって、即座に除外します。もちろん、僕らは素人なので、お金さえ潤沢にあれば高額商品でも有名なメーカーの定番と言える剃刀を買えばいいだけですから、こんなリストをいちいち作るまでもなく、DOVO Solingen や Thiers-Issard や H. Boker のようなメーカーに5万円も出せば、品質は折り紙付きの剃刀が手に入ります。これらのメーカーの直営店や直営サイトで偽物や欠陥品を売りつけられることは、ほぼありません。しかし、僕は差し当たって5,000円が限度だと思っていました。5,000円だと、おおよそ僕が髭を剃る頻度から言っても、カートリッジの安全剃刀を買い替えている年間の費用と同じくらいです(つまり、カートリッジは4個で2,500円前後ですから、僕は1年でカートリッジを8回くらいしか交換しないわけです)。1年分くらいなら、もし使えない剃刀だったり、あるいは僕の技巧が上達せずに、並行して安全剃刀や替刃式の直刃剃刀を使い続ける(当然、カートリッジや替刃も買い続けるわけです)としても、まだ趣味の範囲として自分で許せます。しかし、それ以上のコストがかかるなら、いまある替刃の直刃剃刀を使う髭剃りを趣味として続けるくらいにしておく方がよいと思えます。 もちろん、このような条件がつくと、まともな現行メーカーの新品は最低でも2万円はするので、購入することはできません。でも、だからといって Amazon や AliExpress や Etsy には、どこの誰がどう作ったのかも分からない、怪しい新品の剃刀が数千円、酷いものは数百円ですら売っていますが、それはさすがに怪しくて買えません(根拠はありません。ただの偏見です。でも、こういう偏見に誰が文句を言えるのでしょうか。時間とお金が潤沢にあって、自分の恵まれた境遇を無視して文句だけ言うアメリカの大学教授くらいのものでしょう)。 よって、僕には中古品を買うという選択肢しかなかったとも言えます。というわけで、上記のリストでも Shave Nation や Razor Emporium や West Coast Shaving といったオンライン販売店の有名なサイトは除外することになり、ヴィンテージの剃刀を扱うショッピング・サイトやモールあるいはオークション・サイトだけが残りました(なお、これらの EC サイトにもヴィンゲージの剃刀はありますが、研いだりレストアの手間をかけているため、5,000円なんて予算では買えません。ただ、ヴィンテージの安全剃刀なら $50 くらいからあるため、それほど高いわけでもないようです)。

その中で、実際に剃刀を購入した Etsy が残った理由は、敢えて言えば消去法です。まず、国内でのやりとりを優先していたので Yahoo! オークションを見ていたのですが、入札価格の値動きや出品のパターンに強い不信感を抱いてしまいました。当サイトの落書き(Notes)でも書いたことですが、いちど落札された筈の剃刀が、写真を撮影しなおしたり、あるいは他の剃刀と組み合わせて再び出品されなおしているように思える事例が多々あります。そして、入札の期限が数時間後に迫ってくると、急激に入札価格が上がっていって、だいたい数万円で落札されるということを繰り返しているように見えるわけです。こうした経緯から、僕が思うには古物商かアマチュアのブローカーみたいな人々が複数のアカウントを使って自作自演している可能性が高いと判断しました。理容師を廃業したので剃刀を処分したいと自称する未亡人のアカウントが、所持品がどんどん落札されているにも関わらず常に常駐していたりします(あなた、いったい何本の剃刀を持ってるんですか)。それに、Yahoo! オークションでは海外と違って日本で製造された straight razor が多く出品されているのですが、これは海外で出品すると非常に高く売れるため、ほぼそういう転売目的の業者が異常な入札価格を付けて値段をわざと吊り上げるようです。そういう下らない投機ゲームに、髭剃りという生活手段も兼ねたささやかな趣味のために剃刀を買おうとする人が付き合う必要は全くありません。国内で製造された直刃剃刀や日本剃刀の出品は全て投機の対象と見做して無視した方が健全ですし、それから Yahoo! オークションも無視していいです。そういう判断によって、快適な髭剃りのチャンスが失われるなんてリスクは殆どないでしょう。これは別の論説で取り上げる予定ですが、「心地良く適正な髭剃り」の条件として、剃刀の値段とかブランドとか、あるいは玉鋼で作られているかとか数十万円の天然砥石で研いだかどうかなんて、しょせん 0.1% くらいの意味しかない(大半は当人のシェービングの技量やスキン・ケアによる)と思います。

あと、ebay や AliExpress はアジアの各国で作られた有名ブランドの偽物、ヴィンテージの偽物、それから素人が作ったデタラメな剃刀(剃刀みたいな形状の何か)が膨大に出品されていて外国のマニアも頻繁に騙されているようなので、こういう自主規制が緩すぎるモールも避けた方がいいでしょう。AliExpress は論外として、ebay で探すと本当に買ってもいい良さそうなものもあるにはありますが、どうもクレジット・カードの情報を ebay や AliExpress のフォームで入力するのに不安があることと、日本向けに配送しない出品者や業者が多いので、いわゆるフォワード・サービスを利用するのも胡散臭いですし、おまけに、そういう取り次ぎサービスを使うと手数料で割高になります。 すると、大手のオンライン・サービスでは Etsy くらいしか残らないわけです。もちろん、こういう選択肢を残してゆく途中で取捨選択しましたから、多くのサイトは(剃刀を扱っていることが分かっていても)無視しています。どれほど健全な経営をしている実態があっても、サイトの様子だけで判断することは困難です。結局は大手の、或る種の権威があるサービスから手始めに利用するのが妥当でしょう*

*たとえば、大阪で電化製品を買う時でも、まず多くの人は近くの家電量販店や個人経営の馴染みの店などに行って、次に(昔なら)堺筋は日本橋の大型家電量販店に出向いていたかもしれません。そして品揃えや実勢価格が分かってきたら、人によっては、日本橋の脇道にある安くて実直な経営者の会社なり店を見つけて通ったのかもしれません。しかし、それは一部のマニアだけが味わうラッキーな経験に過ぎないのです。そして、わざわざブログやメーリング・リストで自分の経験を公表するときには、だいたいにおいて成功事例が圧倒的多数を占めるものです。マニア、ましてや自意識の塊みたいなオタクともなると、自分の失敗なんて他人に知られたくないでしょう。それゆえ、典型的な生存バイアスによって、彼らマニアの文章を読む人の中には、裏通りにはマニアが好む良心的な店がたくさんあるかのような錯覚が生まれてしまいます。でも大抵の消費者は、素人であればなおさら、脇道の店なんかに入ったらガラクタを言い値で掴まされるのが当然です。したがって、剃刀、さらに骨董品のビンテージともなれば、実勢価格をおおよそ掴むまでに色々なサイトやフォーラムで調べる必要がありますし、価格が適正でも商売として健全であるかどうかは、本当のところウェブ・ページの記述や reputation のスコアとか星の数とかだけでは分かりません。Reddit の shaving に関する subreddit には「ここからは買うなリスト(DO NOT BUY List)」というのがありますが、あれも包括的に調べた結果でもない筈です。よって、必ずしも Etsy が最初の購入先として妥当かどうかは分からないまでも、一定の業容があるサービスなり事業者は消費者や出品者の両方から牽制されている立場ですし、更には競合があれば評価によっては簡単に乗り換えられてしまうので、デタラメなことはできないと考えてもいいでしょう。また、Etsy には購入者を保護する仕組みがあるため、間違った商品が届いたとか、商品が届かないといったトラブルにも(英語で)対応してもらえます。

冒頭に戻る

Etsy で購入した経緯

ということで Etsy を購入場所に選んで暫く品選びしていました。Etsy で買おうと決めてから、だいたい一ヵ月くらいかけて検索結果を何十個と見ていたわけです。そもそも、Etsy は手芸品や小規模な手工業者の商品を扱う目的で設立されたオンライン・サービスであるため、骨董品屋がヴィンテージの品物を販売する場所ではなかった筈なのですが、剃刀については事情が違うようです。ハンドメイドで作られた新品の剃刀もあるにはありますが、たいていは自称 “Damascus Straight Razor”(本物のダマスカス鋼は製造方法が分かっておらず再現不能であって、“Damascus” という言葉を使っている剃刀は、剃刀として使えるかもしれませんが、基本的には表面の模様を似せただけの剃刀にすぎません)であって、生活用具としての剃刀という作りではなく、値段も DOVO Solingen や Thiers-Issard と変わらないくらいの高額商品です。あるいは、僕が以前にイギリスの出品者から購入した替刃式の剃刀も同じだと思いますが、おおよそどこかで大量生産された剃刀のスケールにだけオリジナルの刻印を追加したような商品も、替刃式だけでなく straight razor としても数多く出回っているようです*。それらを除外すると、残るのは各地の骨董品店から出品されているヴィンテージの剃刀というわけです。なるほど、それらに加えて “artisan”(工芸品)とかハンド・メイドの剃刀として優れたものはあるかもしれませんが、それがどれであるかを僕らが素人として知っているわけではないので、選びようがありません。また、他人の評価を参考にするとしても、誰を参考にしていいのかも素人には分からないものです。よって、消費者として自分のお金を適正に運用して詐欺師やデタラメな素人「職人」どもから財布を防衛するには、権威、それから或る種の偏見とも言える合理性に頼るしかないのです。

*僕が購入した替刃式の剃刀を販売している出品者の店舗所在地を調べてみると、イギリスの南端にある街の小さな平屋住宅であり(こんなのは Google Street View でただちに分かります)、とても剃刀を製造できるようには思えません。せいぜい、中国などから送られてきた部品を内職のように組み立てるのが精一杯でしょう。

商品の選び方は、もちろん検索結果です。Etsy で “straight razor” というキーワードで検索してヒットしない商品は無視して良い筈ですから、これだけしかキーワードに使っていません。ただし、Etsy で使える検索結果のフィルタリングとして、「ビンテージ」(商品の選択肢としてヴィンテージがあってよいと許容されていることが、これで分かるわけです)を選び、そして発送先として「日本」を選んでいます。もちろん、日本に発送していない出品者もいるからです。特に「送料無料」と宣伝している出品者だと、無料で送ると赤字になるような地域への販売には対応していないことがあります。そして、 商品の決済手段を確認して PayPal しかサポートしていなければ、その出品者は無視するようにしました*。なお、後から知ったことですが、出品者(屋号)ごとではなく個々の商品によって決済方法に違いがあるようです。僕は、最初に見た商品が決済方法として PayPal しか扱っていなければ、その出品者からの商品を全て無視してしまったので、これはいまでは詳しく個別に決済方法を確認するようにしています。こうして、幾つかの条件で絞り込んでから、目ぼしい剃刀を選んでいきました。

*どうして PayPal は駄目なのかと言うと、僕は PayPal のアカウントを持ってはいますが、彼らは「本人確認」と称してマイナンバーを通知するように言っています。マイナンバーは日本の法律では行政機関や一部の銀行しか要求できない重要な個人情報であり、たかがシンガポールの決済代行会社が日本の国民に要求できる情報ではありません。そもそも僕らの個人番号(マイナンバー)を知ったところで、PayPal はどうやってそれが「僕らの正しい番号である」と分かるのでしょうか。僕らから通知されたマイナンバーが正しいかどうか照会できる(日本の行政機関しかもっていない筈の)データベースを持っていたり、そういうデータベースにアクセスできる時点で、彼らは違法な事業者だと言うべきでしょう。加えて、国内だけで利用されるべき情報を海外の事業者へ渡すことには、別のリスクがあります。PayPal の社員が現地でマイナンバーを横流しでもしたらどうでしょうか。まだ他にも、東南アジアに移住している「ルフィー」が何人かいるかもしれませんよ? ということで、日本でプライバシーマークを掲示できる企業で chief privacy officer という役職にあって、個人情報保護マネジメントの運用については20年近くの実績があるプロの僕が、そういう事業者にマイナンバーを教えるわけがありません。すると、彼らはアカウントを停止して銀行との連携も解除すると言ってきたので、「どうぞ、ご自由に。違法な企業とは関わりたくありません」というわけです(恐らく現時点でも、マイナンバーを要求している時点で番号法違反の筈です)。しょせんは、クレジット・カードや銀行口座やキャリアのアカウントと連携していなければ糞の役にも立たない決済代行会社なんて、こちらも不要です。銀行口座との連携を解除して、さっさと僕の口座情報を PayPal のデータベースから削除してもらいたいくらいですね。

僕は、もちろん straight razor については素人ですし、この記事を書いている時点(2023年3月20日)では髭剃りの道具として実際に使っていませんから、良し悪しなど本当のところは分かりません。ですから、僕が選んだ基準や理由は不適切かもしれませんし、その基準を採用したからといって僕の選択が基準に沿っているかどうかも確証がないわけです。本稿を読んでいる方々には、ここで紹介している基準とか、その基準に従った(かのような)結果については、従ったり参考にする必要はないという前提で読んでいただければいいでしょう。

第一の基準ないし理由は、形状です。これは僕の単純な好みの問題でしかなく、剃刀としての機能や品質についてどうこう言うための議論ではありません。単に、僕が角ばった形状を好まないというだけのことですから、“Dutch point” と呼ばれる先端部が丸くなった形状が好きだとか、ブレードの刃元(heel)が丸くなってるといいとか、そういう話に是非や良し悪しはないでしょう。

第二の基準や理由は、ソヴェト連邦時代のロシアの剃刀であるということです。これは、別に共産主義を支持しているからでもなければ、ドイツやイギリスが嫌いだからでもありません。単に、同じ時代のヴィンテージ物としてドイツの Solingen やイギリスの Sheffield などで製造された剃刀よりも安く流通しているからです。それから第一の基準にも関連しますが、どうも Solingen や Sheffield のヴィンテージには形状が気に入らない剃刀が圧倒的に多いという消去法もソヴェトの剃刀を選ぶ理由になっています。

第三に、ソヴェト連邦時代の剃刀を選ぶには価格とは別の理由もあります。幾つかのウェブ・ページで解説されている情報を見ていると、ドイツやイギリスに比べてソヴェト連邦時代の剃刀は日本での解説が不足しています。すると僕には、日本で知りうる直刃剃刀についての情報が、明らかに欧米に偏っていると思えました。ソヴェト連邦時代の剃刀を選んだ理由としては、いくばくかは判官贔屓やニッチ好きのような(人によっては不純とも言いうる)動機もあります。(もちろんロシアによるウクライナ侵略を、擁護したり過小評価するつもりはありません。なぜなら、既に日本は北方領土をロシアに占領されているからです。)

そして第四の理由は、基準というよりも事情と言った方がいいと思いますが、Etsy ではソヴェト連邦時代の剃刀がたくさん出品されていて選択肢が多いのです。更には、その事情を裏付けるようにウクライナからの発送とされている商品が数多くあって、本稿の冒頭部分では都内の軟弱リベラルみたいな連中の気軽な贅沢と一緒にされては困るといったことを書きましたが、僕もウクライナから発送されるという点に興味を持ったのは確かです。もちろん、 ウクライナから発送される商品を購入することにどういう意味があるのかは定かではないものの、出品者の所在地はウクライナとは別になっているので、当人に戦時下で余計な手間や苦労をかけることにはなるまいと判断しました(それに、もし受注処理が戦時下で避難したり応戦する邪魔になるなら、そもそも出品したりしない筈です)。

Etsy

以上の事情や基準あるいは理由で、幾つかの剃刀をブックマークしておいてから、おおよそ一ヵ月くらい眺めてから、値段が手ごろで形も好みのものを選んで注文しました。当サイトの落書き(Notes)で書いた筈ですが、実は僕は straight razor を買う予定はなかったのです。替刃式の直刃剃刀でいいと思っていましたし、これもこれで数多くのメーカーから替刃が発売されていて、どれが自分に合うのかとか、どういう替刃だとどういう剃り心地や結果になるのかといったことにも興味があったので、無理に初期投資が大きくなる straight razor を買うまでもないと思っていたわけです。しかし、替刃式の剃刀について感じる違和感とか不満が大きくなってきて、これは straight razor を使ってみないといけないなと感じたのでした。でも、何万円も使うのは避けたいので、他に選択肢としてはビンテージ、つまりは中古品しかないのだろうということになったのですが、それにしても海外からの個人輸入ですから、色々なリスクもあります。ウクライナからの発送だと、なんと言っても戦時下なのですから、最悪の場合は船便の船が撃沈されたり鉄道輸送の路線が破壊されて届かなくなるという可能性も考えられるでしょう。そこは、初めてのことなので届かなくても仕方ないという前提で注文しました。上の画像が注文した剃刀の情報です。現在は僕が購入して売り切れましたから Etsy では売却済みの扱いになっています。また、上の写真に掲示されている価格は、僕が購入したときに掲示されていた額面とは違います。僕は、注文内容を表している以下の画像で左下に出ているように、「WEEKEND15: 15%オフ」という値引きされた価格で購入しましたから、送料込みで€34で決済し、そのときのレートが€1=147円とちょっとなので、日本円では5,005円がクレジット・カード会社から請求されています。

Etsy

ここ最近の、そこそこ円安になっていたタイミングで注文しましたから、為替の影響で日本円にすると5,000円を越えてしまったのは仕方ありませんし、最初の出費としては妥当な範囲だろうと思います。もっと安い剃刀も出品されていましたが、そもそも送料が高いものであったり、剃刀の状態が写真で見るだけでも酷かったのです。注文はクレジット・カードでの決済で行ったため、後は送られてくるのを待つだけでした。実際に僕の自宅へ配送されるまでの様子は、下の画像から分かるかと思います。

Etsy

荷物がウクライナを出たのは3月3日になっていますが、注文は2月27日なので、店から配送業者の UkrPoshta へ渡されるまでに5日ほど要しています。これは、もちろんウクライナの国内を運ぶのが戦時下で難しいという事情もあるのでしょう*。そういうことは分かった上で注文しているので、もちろんこんなことに文句など付けるつもりはありません。実際、戦争をやっている国から荷物が届くだけでも大したものでしょうし、発送が開始されてから10日あまりで東アジアの辺境地帯に届くのですから有り難いものです。僕は(法学部の)学部生だった頃に、ゲーレン・ストローソンという人物が書いた The Secret Connexion: Causation, Realism, and David Hume (Oxford University Press, 1989) という本を京都の至成堂書店という洋書店で注文したことがあるのですが、届くまでに1年かかりました。いくら版元から国際郵便で送ってもらったとは言え、本が届くまでに1年も待つとは、僕が明治時代の大学生や学者の逸話として見聞きしていたようなことを、100年後の自分も体験することになるとは思ってもいませんでした。つい35年前までのロジスティクスなんて、そんなパフォーマンスだったのです。それに比べたら現在の東欧圏から(しかも戦時下なのに)数週間で物品が届くのですから、ロジスティクスの飛躍的な展開や進展と言うべきでしょう。ちなみに、剃刀は「刀剣類」に該当しない生活器具の一種であるため、刃物ではありますが税関で差し押さえられるリスクはないと思っていいです(「銃砲刀剣類所持等取締法」第二条では、刃渡り 15cm 以上の刃物を「刀剣類」として規制しています)。

*なお、発送元について簡単に調べてみました。発送元は Etsy の追跡システムではなく、配送業者の UkPoshta で配達用の ID から調べ直してみると、更に詳しく出てきました。ウクライナで使われている郵便番号と思われる文字列も記載されています。なお、配送先の地名や郵便番号は表示されません。配達会社のサイトでそんなものが閲覧出来たら、配達用の ID を知られるだけで第三者に僕の住所がバレてしまうからです。ですから、本来は発送元の郵便番号も表示するべきではないと思いますし、本稿でも出品者の郵便番号を掲載することは(いかに相手が事業者であるとはいえ)控えておきたいと思います。ただし発送元の地域については、ウクライナの西部にあるテルノービリ州の小さな町であることはお知らせしておきます。まぁ下に掲載している街の衛星画像(わざと加工して、ぼかしてあります)で分かる人には分かると思いますが。

map of sender located

冒頭に戻る

剃刀の到着とはじめての手入れ

arrived item

剃刀が手元に到着してから、この記事を書き始めた2023年3月16日までの数日間の話ですが、一通り手を入れてみたので、説明します。まず到着した状態が、上の写真で左上に写している小包です。予想外に大きな包みで到着しました。日本国内の配送なので、日本郵便のスタッフが書留扱いで届けてくれたものです。包みを開けると藁半紙のようなものが緩衝材として使われていて、左下の様子で分かるような黄色い袋が入っていました。この袋の内部に、いわゆる「プチプチ」(正式には「気泡緩衝材」という、「そのまんまやんけー」と突っ込みたくなる名称があります。「プチプチ」は、川上産業という会社の登録商標とのことです)が入っていて、そういう封筒が販売されていることは、日本でも文房具屋で扱っていますからご存じの方も多いでしょう。その中に、左下に写っているように銀紙で包んだ上から更にサランラップで覆ったケースが入っていて、サランラップと銀紙を取り除くと、ようやく右に写してあるようなケースに入った剃刀が出てきました。なお、ケースの中の剃刀には緩衝材が使われておらず、輸送中に箱の中で剃刀が動いて衝撃が加わる可能性もあったと思いますが、ケースに緩衝材を詰めると、ケースが紙製なので逆に破損する恐れもありますから、仕方ないのでしょう。その点を無視すれば、非常に丁寧に梱包されていたと思います。

初めて straight razor と呼べるものを手に取ってみた感想としては、まず想像していたよりも軽かったことが意外でした。もっとずっしりした重量感が手に残るものと思っていましたが、替刃式の直刃剃刀と大して変わらない重量です。実際、計ってみると 35g です。DOVO Shavette の公式発表である 27g よりは重いものの、僕が所持している Kazakiri という替刃式の剃刀が 42g ですから、これよりも軽いわけです。とは言え、DOVO の有名な BISMARCK (26810) というタイプの剃刀でも 50g というのが公式発表の重量ですから、僕が購入した剃刀とでは 15g の違いしかありません(もちろん、もっと重いタイプや軽いタイプがあることは知っています)。それから、これも多少は意外でしたが、サイズも予想していたより小さいと感じました。

ともあれ、手に入れたからには使えるなら使うという方針ですから、まずは使えるようにしたいところです。そこで、手始めに殺菌・滅菌の処理をしようということになりました。いまの状況で、僕の自宅でやれることは二つだけです。一つは、新型コロナウイルス感染症の流行という状況で使い始めた、アルコール消毒用のスプレーです。そしてもう一つが、煮沸することです。しかし、「理容室では替刃式の剃刀しか使えない?」という話題で説明したように、おおよそ前世紀まで使われていた古い直刃剃刀では、ブレードの炭素鋼やスケールの樹脂などが熱に弱くて、煮沸消毒の処理、あるいはオートクレーヴという高温・高圧の処理に耐えられません。かといって、僕は手に入れた時点でしか厳重な滅菌や殺菌の処理をするつもりはなかったので(後は自分自身が使うだけなので、頻繁に処理する必要はない筈です)、何度も使える量が入った専用の消毒剤を買うのは避けたかったわけです。よって、コストという点では煮沸消毒するしかありません。ということで、リスクはあると分かっているものの、煮沸から始めました。もちろんデタラメにやるつもりはないので、公益社団法人日本理容美容教育センターが刊行している教材(これを習得して理容師の国家資格が与えられるわけですから、どう考えてもスタンダードなリソースでしょう)を参考にして、沸騰した状態の湯に2分間以上は浸す必要があるとのことで、3分間だけ浸しました。そして次に、アルコールが含まれた殺菌スプレーを噴霧して同じくらいのあいだ放置していたわけです。実際には、これでも十分ではないと思うのですが、次亜塩素酸ナトリウムを使った消毒を自宅にある『ハイター』のような商品で行うと、剃刀を傷めてしまうとされているため、適した他の方法が必要でしょう。過剰にやるまでもないとは思いますが、ひとまず煮沸消毒とアルコールだけで済ませておきました。

しかし、この処置だけでも困ったことが起きました。沸騰した湯に漬けたせいでスケールが歪んでしまい、ブレードを収納できなくなってしまったのです。ブレードを回転させると、スケールの片方に当たってしまうため、ブレードを側面から押しながらスケール同士の隙間に収めなくてはいけないという体裁になったのでした。これはさすがに扱いが面倒で煩わしくなりますし、手で扱うときの感触がいかにも「骨董品」といった印象になって、いま自分が生活道具として使うものだという自覚が失われてしまいます。僕は、できれば飾っておくつもりなどないのです。したがって、治せるときに対応した方がいいので、その場で改めて沸騰した湯に浸し直しました。そして同じ程度だけ温めてから取り出し、今度は二枚の蒲鉾板でスケールを両側から挟んで、スケールの歪みが無くなるように暫く力を加えたわけです。すると、幸運なことにスケールの歪みが元へ戻りました(逆方向へ曲がってしまっただけということですが)。

ただし、スケールの左右の歪みはなくなりましたが、前後方向へも歪んでいるらしく、まだ不具合が残っています。

problem in scales

この剃刀には、スケールに取り付けられた pin が三つあります。いわゆる刀要(pivot pin)と、スケールの反対側の端にある wedge pin または heel pin と呼ばれる pin と、それからスケールの中央から pivot pin の方に近い側へ取り付けられた spacer pin または plug です(上の写真で青い丸の箇所)。剃刀のブレードを回転させてゆけば pivot pin と spacer pin によって接合されているスケール同士の隙間を tail が抜けてゆくようになっているわけですが、熱を加えてスケールが変形したときに pivot pin と spacer pin との隙間も狭くなってしまい、tail が抜けなくなって spacer pin に引っかかってしまうようになりました。全く止まってしまうので、ブレードを開き切っても日本剃刀みたいな形状でしか使えません。これはいかにも不愉快なので、また沸騰した湯に漬けてみようかと思いましたが、何度も同じことをしてスケールを変形させ続けるのもどうかと考え直しました。どのみち自分の道具なのですから、使いやすいように手を入れることに問題はないでしょう。ということで、骨董品としての価値は全くなくなってしまいますが、精密ヤスリで spacer pin をスケールの内側で削ることにしました。おおよそ 0.5mm ていど削って、再び tail がスケールどうしの隙間を抜けるようになったので、ひとまず満足しています。

次に、ヴィンテージの道具ですから、最初から髭が剃れるとは思えません。実際、ブレードを触ってみると、林檎の皮を剥いたりペーパー・ナイフの代わりには使えても、これで髭を剃れるとは思えないような切れ刃の感触だったわけです。そこで、やはり研ぐという作業に移りました。僕はたまに自宅の包丁を研ぐので、包丁を研ぐために常備してあるキッチン用の砥石を持っているのですが、これは番手(砥石の粒度)が #1,000 と #3,000 の粗い砥石であるため、剃刀を研ぐには #6,000 とか #8,000 、それから仕上げ用に #10,000 以上の番手が必要でしょう(包丁を使う範囲の研ぎ方をした刃物で産毛は剃れません)。そこで、ホーム・センターで幾つかの材料を揃えました。

tools to repair

到着した剃刀に錆があるという前提で、まずは汚れや錆を落とすことを優先して、刷毛だとか、あるいはサンド・ペーパーも目の粗いものを揃えました。四枚あるサンド・ペーパーは、#100, #150, #240, #320 という粗いものです。シート状のサンド・ペーパーでも #1,500 なので、そこから研磨フィルムの #8,000 や #15,000 というのは飛び過ぎていますが、その中間はキッチン用の砥石で #3,000 を使えば補えると思ったわけです(もちろん、これは正しくないということが後で分かりました。砥石とサンド・ペーパーでは扱いも違うので、目の粗さや番手の数値だけで判断はできないということです)。しかし、届いてみると錆もありませんでしたし、小刃(切れ刃)をつけてやるだけで使えそうだったので、これらのサンド・ペーパーは殆ど使っていません。

tools to repair

それから、革砥のような道具まで一度に集めるほどの出費はしたくなかったので、代わりになる道具を上の写真のように板へ #15,000 の研磨フィルムをボンドで貼り付けてあります。あるいは、場合によっては掌で hand stropping してもいいわけですから、さほど道具にこだわる必要もないかと思います。これも、過剰に出費しないでベターな方法があれば採用することにして、いまのところは最初の手入れ道具として使っておきます。下の写真が、何度か研いだり磨いた後の状態です。2023年3月30日の時点では、色々と試していますが、まだ使い物になるほどの刃先になっていないので、髭剃りに使えるようになれば、また追記します。

status ブレードの状態(2023年3月20日の時点)

冒頭に戻る

名称の由来と製作条件について

ВОСТОК-3

僕が購入した剃刀には “ВОСТОК-3” という商品名(ブランド)があります。この名前は、ソヴェト連邦時代に宇宙へ有人のカプセルを打ち上げた「ボストーク3号」(“Восток-3” in Russian; “Vostok 3” in English)という計画の名称に由来しています。アンドリアン・グリゴリビッチ・ニコラエフАндриян Григорьевич Николаев in Russian)というトルコ系の飛行士が乗り込み、同時期にボストーク4号の計画で打ち上げられた有人カプセルと宇宙空間で初めて通信を交わしたり、軌道上から初めてカラー映像で地球を撮影するなどの功績で知られています。この剃刀は、ソヴェト連邦時代のこういう業績を記念して製造・販売されたと考えられます。

ВОСТОК-3 ВОСТОК-3 の記念切手, Первый в мире групповой полёт А. Г. Николаева и П. Р. Поповича. Слава покорителям космоса! Портрет Андрияна Николаева.

ВОСТОК-3 ВОСТОК-3 straight razor

なお、剃刀本体のスケールには “Восток-3” と刻まれていますが、ロシア語を学んだ方であればご承知のように、ロシア語で “T” のイタリック体はローマ字の “M” みたいな字体なのです。小文字は大文字をそのまま小さくしたような字体になっているため、“т” となります(イタリック体でなければ、“T” を小さくしたような字体です)。したがって、“Восток-3” も、それから majuscule(大文字だけで表記すること)での “ВОСТОК-3” も、ロシア語では「ボストーク3号」の正しい表記です。

冒頭に戻る

参考

書誌情報は、「References - Shaving」のページにまとめてあります。こちらをご参照ください。

冒頭に戻る


※ 以下の SNS 共有ボタンは JavaScript を使っておらず、ボタンを押すまでは SNS サイトと全く通信しません。

Twitter Facebook