Scribble at 2024-04-25 19:19:46 Last modified: 2024-04-25 19:22:33

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高木正孝『パタゴニア探検記』(岩波新書、青版 682、1968)

神戸大学の山岳部としてパタゴニアの山を攻略した話である。著者は、その後に実施された調査旅行の最中に船から姿を消しており、捜索の甲斐もなく1年後に死亡を宣告されたらしい。したがって、本書は遺著であるという。そういう事情の本であるにもかかわらず、著者や編者には気の毒だが、はっきり言えばお勧めしない。

理由は、この本は僕が期待するようなパタゴニアの話を殆どしていないからだ。大きく言えば、最初の 1/3 はパタゴニアに関する教科書的な歴史や地理の説明であり、著者がわざわざ書かなくてはいけないような話ではないと思う。そして次の 1/3 がチリへ出発するまでの組織づくりや資金づくりやチリ政府などとの交渉といった裏話であり、これもパタゴニアの話とは大して関係ない。そして最後の 1/3 がアレナーレスという 3,500 m 近い山を登頂するまでの話である。確かに、この山もパタゴニアの一部ではあるから、無関係ではないが、パタゴニアを語るには特殊すぎる。それに、参加したチリ人もチリの各地から集まった登山の専門家であり、パタゴニアの住民ではない。要するに、この本から当時のパタゴニアついて分かることは大してないのである。これは、たとえば先に読了した椎名誠氏の『パタゴニア』などと比べると(登山そのものは壮絶なことだったのだろうとは思うが)スケールの小さな話に思えるのが残念だ。

寧ろ著者の来歴について書かれた、序文というよりも obituary といった印象の文章に少し興味はもったけれど、それを評価するのは適当ではあるまい。

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