A Long Way Home 覚え書き

河本孝之(KAWAMOTO Takayuki)

Contact: takayuki.kawamoto@markupdancing.net

ORCID iD iconORCID, Google Scholar, PhilPapers.

First appeared: 2017-06-10 23:34:14,
Modified: 2018-04-29 08:38:43,2018-07-01 20:09:11,2018-07-05 11:02:27,2018-07-05 20:02:23,
Last modified: 2021-07-17 08:45:03.

制作の経緯と制作側スタッフ

A Long Way Home in Japanese 1980年10月8日。10月と言っても、アメリカ南部のジョージア州にあるコロンバス空港は、当日の最高気温が28度という陽気な場所でした。この空港で三人の若者が16年振りにやっと再会し、それまでの彼らの経緯を知ったリンダ・オットー(Linda Otto, 1940-2004)というプロデューサーが、ABC というテレビ・ネットワークで彼らの物語をベースにした TV ドラマを制作・放送しました。1981年12月6日の日曜日、21時から23時の放送時間には、45% という高視聴率を記録したそうです。そして、この反響を糧にして、リンダ・オットーらが劇場用の映画として作り直したドラマが、日本でも放映された A Long Way Home(邦題は『ロングウェイ・ホーム』)です。リンダ・オットーは A Long Way Home についても、夫のアラン・ランズバーグ(Alan Landsburg, 1933-2014)と制作に携わりました。

なお、一部のブログでは、本作品のリメイクがジム・キャリーの主演で制作されたとの話が出ています。その作品は “Doing Time on Maple Drive” という原題なのですが、邦題は『ジム・キャリー in ロングウェイ・ホーム』(強調は筆者)となっているため、本作品のリメイクという誤解が生まれたのでしょう。ジム・キャリーが主演した作品では、子供達は親に捨てられてはおらず、寧ろ親子の人間関係が描かれています。全く無関係の作品なので、取り違えないようご注意ください。

そして、“a long way home” というフレーズは、カサンドラ・オークスという人が書いた A Long Way Home という小説のタイトルにもなっていますが、Google Books などで書誌を確認すればお分かりのように出版元が “Oakes Books” となっていますし、出所不明のアマチュア作品かもしれません。

また更に、2016年11月に封切られて2017年の第89回アカデミー賞で複数の部門にノミネートされた『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』という映画の原作も、サルー・ブライアリーという人が書いた A Long Way Home: A Memoir という小説を原作としていますが、これも当ページで取り上げている作品とは関係がありません。

『シカゴ・トリビューン(Chicago Tribune)』紙のスーザン・バクス(Susan Bax)が1992年に書いた “Passionate Pursuit” という記事によると、リンダ・オットーは自分自身が幼い頃に受けた被害から、子供の誘拐、家庭内暴力、十代の自殺、そして AIDS を扱うドキュメンタリーを数多く手がけて、1981年には(A Long Way Home で主役を演じた)ティモシー・ハットン(Timothy Hutton)がナレーションを務めるドキュメンタリー番組を制作して、十代の人々に自殺防止を訴えました。そして、既に述べたように、同じ年の暮れに放映された TV ドラマで幾つかの賞を受けましたが、その後もリンダ・オットーは子供を誘拐したり殺害する事件のドキュメンタリー映像を制作し続け、1983年には Find the Children という子供支援の NPO を設立しています。

A Long Way Home では、脚本家にデニス・ネメック(Dennis Nemec)が起用されました。デニス・ネメックは脚本家、あるいはテレビドラマのプロデューサーとして知られた人物で、“Michael Nemec” と名乗ることもあるようです。1984年度のエドガー賞(Edgar Awards)で、“Edgar Awards for Best Television Feature/Mini-Series Teleplay” に Murder in Coweta County (1983) という作品でノミネートされたり、God Bless the Child (1988) という映画でもプロデューサーと脚本を担当して、この作品では Humanitas Prize を受賞したり(2017年6月に閲覧した限り、Humanitas Prize のサイトでは、なぜか過去の受賞作を紹介していません)、Writers Guild of America, USA の WGA Award (TV) を受賞しているようです。裏方の人物なので、俳優ほど詳細な経歴は分かりませんし資料もウェブページもありません。

Movie flyer in Japanese

集英社の「コバルトヤングアダルト(YA)シリーズ」の一冊として出ていた『ロングウェイ・ホーム』の訳者である本木菜子さんは、この訳本の奥付けに書かれているプロフィールによれば、上智大学を卒業後に「正木典子」名義でフリーランスのライターをされていると書かれていますが、この「正木典子」という名前は作家の正本ノンさんの本名であって、正本ノンさんの作品には「本木菜子」という登場人物が出て来るそうです。これだけの情報では確たることなど言えないかもしれませんが、正本ノンさんのファンが運営していると思われる一部のブログでは本木菜子さんを正本ノンさんの別名として紹介していたりするので、同一人物と見做せるかもしれません。実際、本木菜子さんの方は殆ど翻訳家としての情報が出てこないので、最初は幾つか翻訳した後で廃業された方なのかと思っていたのですが(なにせ、最近は翻訳業が厳しいという話を見かけることが多くなったので)、そうでもなかったのかもしれません。

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サウンドトラック

Album of A Long Way Home

A Long Way Home のサウンドトラックを買ったのも、この作品を初めて観た直後のことでした(日本では、元のテレビドラマを劇場公開したので、恐らく学校の映画鑑賞会で観たのだと思います)。テーマ音楽や挿入音楽も印象に残ったので、「レコード屋さん」で探して買いました。その当時はようやく CD が普及し始めたところで、一部の限られた作品しか CD になっていなかったので、いわゆる LP レコードしかありません。ということで、現在は入手するのもそれなりに難しいものになってしまっているため、ここでは中古の市場などでサウンドトラックを探す手がかりになるよう、なるべく多くの情報を掲載しておきます。

まず商品情報から挙げておくと、作曲・編曲(composed and arranged)はレイ・エヴァンズ(Ray Evans, Raymond Bernard Evans, 1915-02-04 ~ 2007-02-15)です。『腰抜け二挺拳銃』や『知りすぎていた男』といった映画の曲でアカデミー賞を何度か受けており、現在は102歳で亡くなった妻の Wyn Ritchie Evans と共に The Ray And Wyn Ritchie Evans Foundation というサイトで生涯や作品が紹介されていますが、なぜか A Long Way Home のサウンドトラックは捕捉されていないらしく、全く情報がありません。このサウンドトラックは、日本語で解説やジャケットが印刷されていて、発売元はキングレコード(K28P-4110, 1983年発売, 2,800円)ですが、制作はセブン・シーズ・レコードとなっており、これはキングレコードの系列会社(現在は Seven Seas Music)なので、アメリカでは発売されなかったサウンドトラックであり、本国ではレイ・エヴァンズのアルバムとして捕捉されていない可能性があります。(実際、帯、あるいは同梱されているライナーノーツには「オリジナル・サウンドトラック盤」と表記されています。)

上記の事実に加えて、ライナーノーツ(そもそも、このライナーノーツの解説にしてから署名がなく、誰が書いたのかも分からない)には次のように書かれています。

音楽に関して送られてきた資料がとても不充分なものなので、早速照会したのですが、いまだに返電がありません。サウンドトラックのマスター・テープのクレジットから推測すると作曲・編曲はレイ・エヴァンス(RAY EVANS)。ピアノ演奏も彼がしているようです。ハートが強く伝わってくる感じがする仲々 [sic.] いい演奏です。自作を愛情こめて演奏しているからでしょう。

レイ・エヴァンスについて経歴など全く記すことができません。事情をご理解の上おゆるしください。

このライナーノーツの文章を見ても、このサウンドトラックが日本で独自に制作され、しかもレイ・エヴァンズなり収録曲について、資料が乏しいというだけではなく、ライナーノーツの解説者自身の感想すら多くは書けないような制約があったのかもしれません。実際、このライナーノーツに収録されている解説は殆ど映画のストーリーを描いており、上記の箇所を除けば収録曲について全く言及されもしていないという、いかにも業界の裏事情をあれこれと想像させるような文章と言えます。(なお、映画のパンフレットや小説版の訳者あとがきにも、音楽の話はほぼ出てきません。)

収録曲一覧は以下のとおりです。

Side A

1. A Long Way Home - Love Theme
「ロングウェイ・ホーム」愛のテーマ
2. Ties Of Affection
愛の絆
3. Wondering
さすらい
4. Picture
幼い絵
5. Forced Separation
別離
6. Heart Warming House
心の家

Side B

1. Old Table
想い出のテーブル
2. Marriage
結婚
3. Clue In Lost
失われた手がかり
4. A Slight Hope
ひとすじの希望
5. Reunion On The Phone
電話での再会
6. Along Way Home - Love Theme
「ロングウェイ・ホーム」愛のテーマ
7. Depaeture [sic.]*
青春の出発(たびだち)

*もちろん “departure” のタイポです。もともとのジャケットがタイプミスしており、ジャケットから引き写したであろう他の幾つかのサイトでも同じタイポが見受けられるので、非英語圏の会社にアウトソースして機械的に入力させている可能性があります。

それから、初回のテレビドラマとして放映された A Long Way Home と、映画として上映された A Long Way Home とでは、そもそも挿入曲が違っているという点も重要です。僕は数年前に YouTube で見つけた、テレビドラマとして放映された A Long Way Home の動画ファイルを持っていますが、このテレビドラマ版には上記のサウンドトラックに収録されている「ロングウェイ・ホーム」愛のテーマという曲が全く使われていないのです。実際、テレビドラマ版のスタッフロールには “William Goldstein” としかクレジットされていません。そして、エミー賞やグラミー賞で何度かノミネートされたことのあるウィリアウム・ゴールドシュタインの方は、彼のサイトA Long Way Home が業績として紹介されています。よって、スタッフロールにはゴールドシュタインだけがクレジットされていて、サウンドトラックにはエヴァンスだけがクレジットされているのは、初回放映されたテレビドラマでの挿入曲と映画化された際の挿入曲で、両者がそれぞれ作曲を独立に担当したと推測できます。(海外の作品情報サイトでレイ・エヴァンスの名前が殆ど出てこないのは、これが理由なのでしょう。)

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制作スタッフ・キャスト(テレビドラマ版のスタッフロールから)

Items of A Long Way Home

Starring
Timothy Hutton, Brenda Vaccaro, Rosanna Arquette, Paul Regina
Special Appearance
John Lehne
Starring (continued)
George Dzundza as Floyd Booth
Editor
Peter Parasheles
Art Director
Allen E. Smith
Director of Photography
Don H. Birnkrant
Producer
Linda Otto
Writer
Dennis Nemec
Director
Robert Markowitz
Executive Producers
Alan Landsburg and Tom Kuhn
Also Starring
Bonnie Bartlett as JoAnn Booth
Co-Starring
Wil Wheaton as Donald Branch (8), Seven Anne McDonald as Andy Booth, Floyd Levine as Judge Sosna, Brenda Elder as Secretary, Brendan Burns as Driver, John Touchstone as Partner
Featuring
Paul Haber as Rudy, Brendan Klinger as David Branch (5), Garry Kluger as Paul, Neta' Lee Noy as Carolyn (5), Don Moss as Jimmy, Lauren Peterson as Carolyn (Adult), Sunja Svensen as Housewife, Eloise Hardt as Receptionist, Jodi Hicks as Girl (4), Robert Factor as Male Attendant, Louise Kane as Caseworker Attendant #1, Dana Glenn as Caseworker Attendant #2
Music
William Goldstein
Associate Producer
Tony Pinker
Casting
Randy Stone
Unit Production Manager
Michael Rachmil
1st Assistant Director
David Sosna
2nd Assitant Director
Deborah Love
Camera Operator
Owen Marsh
Gaffer
Ronnie Knox
Key Grip
Jake Jones
Set Decorator
Rochelle Moser
Script Supervisor
Mimi Leder
Special Effects
Mike Sullivan
Property Master
Ray Jeffers
Costume Supervisor
Bill Jobe
Costumer
Erica Phillips
Make-up
Greg LaCava
Hair Stylist
Edie Panda
Sr. Set Designer
Carroll B. Johnston
Location Manager
Jack C. Smith
Construction Coordinator
Cal Di Valerio
Transportation Captain
Billy Arter
Transportation Co-Captain
Michael Brum
Sound Mixer
Keith Wester
Extra Casting
The Atmosphere Agency
Production Control
Bob Ames
Location Auditor
Ron von Schimmelmann
Production Coordinator
Donna Smith
Production Assitants
Tim Rogan, Laura Petticord, Laura Adler
Post Production Coordinator
Grandy Jones
Production Liaison
Susan Pratt
Assistant Editor
Kristi Johns
Assistant to Mr. Landsburd
Marilyn Lassen
Assistant to the Producer
Maggie Savery
Main Title Design
Michael Ann Heinemann
Creative Sound Services
Neiman-Tillar Associates
Film Processing
MGM
Re-recording
20th Century Fox
Titles and Oticals
Westheimer Co.
Lenses and Panaflex Camera
Panavision
Executive in Charge of Production
Howard Lipstone

以上の出演者・スタッフ一覧は、本編のスタッフロールから書き出したものです。肩書きは異なりますが、他のウェブサイトにもリストが掲載されているので、追記しておきます。

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[以上で、ひとまず調べた限りの情報をまとめてあります。まだ調べたりないことや、映画の内容そのものについて書きたいことはたくさんありますが、こういう作品があったことだけでも最初にページとして公開しておくのが良いと判断しました。検索すると、DVD などの商品ページや、スクレイピングで自動生成したクズみたいなページばかりで、まともな紹介が少ないのは気の毒なことです。]

参考

いわゆる「映画作品のデータベース」は紹介しません。日本語だろうと英語だろうと大量にありますし、内容に差はなく、映画を観た人にとって(場合によっては観たことがない人にとっても)殆ど役に立たない「自称データベース」だからです。映画関連の人名や社名を膨大に内部リンクしてページランクを稼いでいるだけの掃き溜めみたいなものなので、寧ろ積極的に無視しています。

Bax, Susan

1992

Susan Bax, “Passionate Pursuit: Film Producer Linda Otto Brings Children's Plight To Light,” Chicago Tribune, November 29th, 1992, http://articles.chicagotribune.com/1992-11-29/features/9204190108_1_film-producer-stories-long-way-home, accessed on July 6th, 2018.

豊念

2015a

豊念, 「映画『ロングウェイホーム』を知ってますか?・・・17才少年の祖父母殺害事件と控訴審判決」, http://earthship2005.cocolog-nifty.com/_/2015/10/17-2cdf.html, 2015-10-06, accessed on 2018-04-29.

2015b

豊念, 「『ロング・ウェイ・ホーム』を再び見る」, http://earthship2005.cocolog-nifty.com/_/2015/10/post-b4f0.html, 2015-10-06, accessed on 2018-04-29.

Nemec, Dennis

1983

Dennis Nemec(デニス・ネメック),『ロングウェイ・ホーム』, 本木菜子/訳, 集英社(集英社文庫, COBALT Y.A. SERIES), 1983.

西澤 晋

2011

西澤 晋 (ssm2438),「ロングウェイ・ホーム(1981)」, https://ssm2438.exblog.jp/14057177/, 2011-06-26, accessed on 2018-04-29.

創和建設

2010

創和建設, 「名作『ロングウェイ・ホーム』…知ってる人は知ってる?(たぶん)」, http://blog.sowa-tm.jp/archives/35, 2010-08-09, accessed on 2018-04-29.

Wikipedia contributors

2021

“A Long Way Home (1981 film),” Wikipedia, The Free Encyclopedia, October 10th, 2020, retrieved on July 17th, 2021, https://en.wikipedia.org/w/index.php?title=A_Long_Way_Home_(1981_film)&oldid=982765928.

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