英語の勉強について

河本孝之(Takayuki Kawamoto)

Contact: takayuki.kawamoto (at) gmail.com.

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First appeared: 2019-02-23 22:25:05,
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はじめに

本稿は、英語の勉強について色々なテーマを取り上げる。そして、取り上げているテーマの多くは中学から大学まで英語を勉強した人なら誰でも口を挟めるような話題ではあるものの、その多くが本人の僅かな経験に頼る偏った議論にすぎないので、ここでの議論も僕自身の経験が限られていることを理解したうえで、誰にでも当てはまるとは限らないという前提を置く。そして、本稿の目的は、僕が英語を勉強してきた方法をつまびらかに列挙したり勧めることでもなく、その是非を決めることでもない。僕は、英語のユーザとしては全くの平凡な人間なので、自分の経験が誰かの役に立つかもしれないとは思うが、僕のやってきたことに賛同したり従ってもらいたいなどとは思っていない。

松本亨さんの話

もう松本亨さんと言われても知らない人が大半だろうし、そもそも僕と同じ年代の人々でも英語の勉強に特別の関心がなければ知らない人も多いとは思う。それに、松本亨さんは僕が中学に入って英語の勉強を始めた1981年には亡くなっていたのであり、彼が長らく務めたという NHK ラジオの『英会話』というプログラムも聴いたことがないから、彼が英語の話者としてどう喋っていたのかすら僕は知らない。しかし、それでも僕は松本亨という人物には一定の影響を受けている。なぜなら、僕は彼が書いた『英語の新しい学び方』(講談社, 講談社現代新書52, 1965)という本の愛読者だったからだ。他にも、中学に入って英語の勉強について色々と調べたり試していた頃に、同じく英語教育の本では著名な松本道弘さんの著書にも触れて、「なるほど、僕はまだ*級の使い手か」などと感じては奮起させられたものであった。(なお松本道弘さんの著書については、他の記事として書き改めることとしたい。)

松本亨『英語の新しい学び方』

英語を学んでいるときに影響を受けた人物としては、他にも塾の先生がいた。お名前は忘れてしまったが、一時期だけマンツーマンで指導してもらい、そのときに桐原書店の高校の参考書を使い込んだことがある。先生曰く、中学生であっても文法を体系的に解説している高校の参考書を使って勉強した方が効率が良いとのことだった。これは、僕がプログラミング言語を仕事で勉強するときにも従ってきた方針だ。実際、「〇〇を作りながら覚える**言語」のような、書いている側はシンタクスの必要事項を網羅するように構成して書いているのだとは思うが、それをわざわざ場当たり的にストーリー仕立てにしたり具体的な目標を立てて解説しなくてもよいと思う。逆に、機能を使うコンテクストを具体的に決められてしまうような説明だと先入観ができてしまう。数学でもそうだが、いつまでも鶴亀算をやっているだけでは方程式を解いたり解析学の定理を証明できるようにはならないのである。そして、自分の知識や経験や技能を役立てる有効な手段というものは、結局のところ物事を体系的・抽象的・形式的に理解する訓練と、それを色々な場面で応用してみるという好奇心やチャレンジの組み合わせなのである。前者があって初めて信念を持てるし、後者があって初めて理解は向上したり洗練するものだ。

Mastery 高校 新総合英語 3訂版

そして更に、この先生から勧められて使い始めたのが、松本亨さんも勧めている、いわゆる英英辞典だ。どの英英辞典がいいと具体的には勧められなかったが、(なんと言っても中学生だったので)LDOCE の基本単語集を買って一通りの勉強をしてから、当時は一色刷りだった Longman Dictionary of Contemporary English の初版を手に入れた。いまでこそ多くの辞書に採用されているが、その当時は語義の語彙数を制限して記述するという辞書が目新しかったので、語彙が少ない中学生が最初に使うのに最適だと思ったからだ。覚えている方もおられると思うが、昔の英英辞典は語義の記述がそもそも難しくて、特に Webster の辞書は語義を理解するために英和辞典を使わないといけなかったほどだった。それに比べて LDOCE は語義を別の辞書で読み解く必要がない。中には、語彙が限定されているからか回りくどい言い回しの語義もあるにはあるが、それで LDOCE や英英辞典を放り投げる理由になどなるまい*

Longman Dictionary of Contemporary English

*確かに、語義を説明されて何のことかは分かるとしても、それを日本語でどう言うのかを知らなければ、英語で生活はできても翻訳家や通訳にはなれない。したがって、回りくどい表現で語義を理解するよりも英和辞典に書いてある日本語の方がすぐに分かることもあるし、他人である日本人に伝わりやすいことも多いので、英和辞典にも有利な点がある。しかし、学校で無理やりに教え込まれるのとは違って、多くの人が自ら英語を勉強する目的は、英語を他人のために日本語へ訳すことではないはずなのだ。これも松本亨さんの著書に出てくる指摘であり、英語教育において何度も指摘されてきた話題だ(つまり学校教育では英語《を》訳すテクニックを教えており、英語《で》理解したり、英語《で》表現することを教えていない)。

次に、松本亨さんの著書から僕が影響を受けて実際にやっていることをご紹介しよう。まず、次の一節を引く。

辞書をひいたら,その単語にしるしをつけておきます。2度目に同じ単語をひいたときは,それを最後にするつもりで,notebook に書きうつします。この notebook は,book of shame と思って,内ポケットに忍ばせておいて,電車の中で,こっそり復習するために使います。ただし,そこに記入する words には,日本語の訳もなにも書きません。ただそれだけを書いておいて,最初から順々に暗記していきます。

松本亨『英語の新しい学び方』(講談社現代新書), p.193.

上記をヒントにして、単語集を作るときに僕が守っているのは、訳語を書かないというルールだ。知らない単語だけを赤字で書いておき、それが出てくる文を書くと、脈絡とセットになって単語が登場する。こういう単語帳を使い始めた当初は、その脈絡が単語の意味を思い出すヒントになってしまったり、単語の意味を限定する先入観になるのではないかと心配したのだが、そういう心配は英語で生活できるレベルの人間がすればいいことなのである。「学習」している段階の人間は、四の五の言わずに詰め込むことこそ勉強においては王道なのだ。もちろん無味乾燥な作業に耐えられない人も多いので、自分なりの工夫はした方がいい。しかし、いずれにしてもやることは「覚えこむ」という意味において同じであり、なんやかんやとやる前に自分で不安材料を見つけたり欠点をあげつらうのは、要するに勉強したくない人間の言い訳にすぎない。

僕の使ってた単語帳

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