船場センタービルの外観・意匠
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orcid.org/0000-0002-7867-2654, Google Scholar, PhilPapers.
First appeared: 2018-06-14 22:51:06,
Modified: 2018-06-15 10:53:46,
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このページで “[Name, 1990: 13]” のように典拠表記している参考資料の一覧は、「References - 船場センタービル」をご覧ください。また、そのページでは船場センタービルに関連する紛らわしい表現を整理するために、幾つかの言葉を定義して使っているので、あらかじめご確認ください。
はじめに
本稿では、船場センタービルの外壁やロゴマーク、あるいは館内の掲示など、外見や情報デザインに関わる話題を集めています。新しく見つけた話題を追加していく可能性があるため、完結したページではありません。ご了承ください。
外壁の改修工事
船場センタービルは2015年に外壁が改修され、平成28年第36回「大阪まちなみ賞」において「建築サイン・アート賞」を受賞しています。また、その工事では石本建築事務所さんが設計を担当されており、設計の方針としては以下のように説明されています(石本建築事務所さんも、この外壁改修工事の設計によって「北米照明学会賞(IES Illumination Award, 2017)」などを受賞されているとのことです)。
また、施工を担当した熊谷組のサイトでも、以下のように改修工事の意図が説明されています。
工事の費用については大阪商工会議所の『ニューズレター』で次のように報告されています。
なお、外壁改修工事の様子は、工事が始まる前の状況から完成まで、「Re-urbanization -再都市化-」というサイトの各記事で進捗が豊富な写真と共に紹介されています。
- 船場センタービル リニューアル計画
- 船場センタービルの外壁リニューアル工事が来月中旬に着工!
- 船場センタービル外壁リニューアル工事 14.03
- 船場センタービル外壁リニューアル工事 14.07
- 船場センタービル外壁リニューアル工事 14.08
- ライトアップが始まった船場センタービルは幻想的な雰囲気
- 船場センタービル外壁リニューアル工事 15.04
- 船場センタービル外壁リニューアル工事 15.06
- 船場センタービル外壁リニューアル工事 15.07
また、この外壁改修工事では、上記の大阪商工会議所の『ニューズレター』で示唆されているように、単にアルミのパネルを貼り付けただけではなく、それまでの外壁を覆っていた磁器タイルの脱落防止処置も必要だったため(高架を走る車が起こす振動でタイルが脱落する恐れがあった)、「ハマテックスネットアンカー工法」という施工方法が用いられたという広報が出ているようです。
ロゴマーク
船場センタービルのロゴマークは、現在のロゴマークと初代のロゴマークがあります。それぞれについて、資料を使って説明します。
まずは初代のロゴマークです。但し、「船場センタービル」というロゴタイプは現在も掲示物に使われ続けているため、見かけなくなったのはシンボルマークだけと言ってよいでしょう。この初代ロゴマークについては資料が殆どなく、『大阪市開発公社25年史』で次のように解説されているのが唯一の参考情報となっています。
シンボルマークの解説はこのとおりですが、僕はデザイナーの端くれとしてロゴタイプ、つまり文字のレタリングについてもデザイナーの所見を聴きたいところです。昭和30~40年代は、まだ Illustrator もなければパソコンすらありませんから、こういう意匠で使われる文字は殆どがデザイナーの手書きでレタリングされている筈です。昨今の「デザイナー」と称する Adobe 製品のオペレータたちには分からない技巧なり感覚なり知識なり脈絡があったり、文字デザインに影響を与えた当時なりのニュアンスというものがあった筈です。文字を見た限りでは、シンボルマークと同様に水平の線を広く取って横に長く伸びている船場センタービルの印象と類似した印象を与えようとしているのは分かります。「セ」や「ビ」は自然に表記しても同じ程度に水平の線を引けるかもしれませんが、「タ」という文字を構成している上下の水平の線は、敢えて水平の線を強調しようとしている意図がはっきりしています。
そして、現在のロゴマークは以下のようになっています。
船場を旧ヘボン式で “SEMBA” と表記する伝統を踏襲しています。これはオンラインや書籍でデザインの解説をしている事例がないので、9号館のエレベータの扉にだけ貼り付けられている「外壁あれこれ」という掲示物から引用します。(エレベータの扉なので、スマートフォンのように近づいて撮影しないといけない方法では、急いで撮影しないと乗り降りする人の邪魔になります。)
ロゴマークの中で太い二本の縦線が、それぞれ御堂筋と堺筋を表すそうです。そして、こちらも残念ながら “SEMBA” という文字列の書体についてデザイナーが何を考えたかは分かりません。簡単な比較だけで言えば、書体のベースはイヴ・サンローランのロゴを作ったことで有名なアドルフ・ムーロン・カッサンドル(Adolphe Mouron Cassandre)の “Peignot” という書体(“Exotc350” というタイプフェイス名で模造品が出回っています)ではないかと思いますが、細かいニュアンスは調整されているようです。
外壁の配色パネル
この項で取り上げる話題は、通勤時間帯に船場センタービルを外から眺めているときに多くの人が気づくことだと思います。それは、写真でお分かりのように、ビルの外壁の角に設置されたパネルのことです。もちろん、写真のパネルが「2号館」を表していることは、初めて訪れた人でも推量できる人が多いでしょう。しかし、船場センタービルを端から端まで歩く習慣がある人の中には、幾つかの点について分からないとか、知りたいと思うことがあるかもしれません。まず、これらの色は幾つか使い分けられています。1号館から10号館まで、それを眺めるためだけに歩くような人は(僕を始めとして)限られているとは思いますが、幾つかのビルを外から眺めているだけでも、二館ごとに配色が変わっているのが分かる筈です。普段はビルの一部しか見ていない人の中には、他のビルではどういう配色になっているのか知りたい人がいるかもしれません。そして次に、それぞれの色がどういう趣旨で選ばれているのかを知りたい人もいるでしょう。更には、なぜ「二館ごと」に配色されているのかと思う人がいるかもしれません。
先に写真をご紹介してしまいますが、僕は出勤と退勤で船場センタービルを通るようになってから、いま述べたようなことがずっと気になっていました。船場センタービルの公式サイトに、各ビルの配色を説明するコンテンツはありませんが、アクセス情報のページに掲載されている「近隣マップ」ではビルと同じ配色が使われているので、船場センタービルを運営する株式会社大阪市開発公社さんがこの配色について情報をもっていないわけでもないでしょうから、どこかに配色について説明する資料がないものかと探していたのです。そして、さきほど出勤時に地下一階を通っていたとき、ご存知の方もおられると思いますが、船場センタービルのエスカレーターは昇りと降りが入れ替わるため、今日(2018年5月23日)は東から歩いてきたときに反対側の通路に行かなければ昇りのエスカレータに乗れない状況だったので、9号館の地下一階でエレベーターホールの前を通ったわけです。すると、ちょうどエレベーターのドアの一つに、この「外壁あれこれ」という説明書きがあるのを発見したという次第です。ただ、船場センタービルのエレベーターは、僕が思うには入居しているテナントの従業員しか使っていないという印象があるので、これはビルの関係者向けの掲示なのかなと思っています。もし来訪者向けの情報なら、船場センタービルの公式サイトに掲載していないのはおかしいからです(そもそも、2013年から2015年にかけて外壁を改修した際にビルのロゴマークまで変更したようなのに、ロゴマークの解説すらサイトのどこにもない)。
いずれにしても、この掲載情報で配色の趣旨(「堺筋から御堂筋に向かって赤系から青系に、落ち着きと華やぎのある美しい色合いが選ばれて」いること)は分かりました。ただし、個々の色がどういうイメージを表しているかという「主旨」(趣旨ではなく)は分かりません。書かれているのは、個々の色の概説であって、その色が各ビルの何を表すために選ばれているのかということは、ここには説明がないのです(僕らが考えるのは、まさにそこであって、紺青という色が「上品な青色」であるかどうかは大して問題ではありません)。もっとも、個々のビルの何か特徴に応じて色を選んだというよりも、赤系から青系に変化させるという与件があって、その中で船場センタービルとしてどういう印象を与えたいかに沿って色を機械的に決めていったのではないかとも推定できます(実際、赤系と青系の色を決めてから、中間の色を全く計算だけで決定する場合もあります)。そのあたりは、外壁の改修で設計を担当した石本建築事務所さんや大阪市開発公社さんしか分からないことです。
また、この掲載情報だけでは僕が感じている幾つかの不明点が残ります。まず、どうして二館ごとに配色しているのでしょうか。もしビルの特徴によって配色を決めるのであれば、1号館から3号館までが「ラントレせんば」という物販店街になっていて、1号館・2号館と3号館を別の配色にして分断する意味はありません。また、行政上からも1号館から3号館までは船場センタービルの「東棟」として扱われています。寧ろ、3号館と4号館は堺筋を挟んで離れているため、物理的にも分断されているのに同じ配色を使う方が不自然でしょう(改修工事を担当した熊谷組さんのサイトでは「工程上、2棟ごとに区切って工事は進められた」と説明されていますが、まさかそんな理由で配色を二館ごとに変えたわけでもない筈です)。そして、配色の趣旨として「堺筋から御堂筋に向かって赤系から青系に」配色を決めたとありますが、ではどうして堺筋から御堂筋に向かって青系から赤系ではなかったのかという点も分かりません。ここまで見てきて「そんなのどうでもええがな」と感じる方もいるでしょう。しかし、設計というものは適当に自分の好きな色を選ぶものではありません。この改修工事にしても総費用で20億円近くがかかっているので [大阪商工会議所, 2013: 4]、塗装費も高額になるので適当には選べません(塗料は色によって値段が違います)。また、堺筋や御堂筋についてのおかしな偏見をもったまま、どちらの方が赤系だとか青系だと選ぶことは、デザイナーとしての思慮が浅いかどうかを問われるポイントでもあります。
三種類の外壁模様
外壁を見ていると、以下の図のように三種類の模様があると分かります。
つまり、殆どの外壁は中央のパターンですが、御堂筋を挟んで向かい合った二面(9号館の西側と10号館の東側)と、堺筋を挟んで向かい合った二面(3号館の西側と4号館の東側)だけは、違う模様になっているわけです。これも、9号館のエレベーターのドアに掲示されている「外壁あれこれ」に解説がありました。
この「グラフィックコンクリート」については、船場センタービルのサイトで次のように説明されています。
このグラフィック・コンクリートについては、開発者であるサムリ・ナーマンカ(Samuli Naamanka)さんのサイトや、Graphic Concrete という会社のサイトでもデザイン・施工事例として紹介されています(なお、この会社とナーマンカさんとの関係はよく分かりません。会社のサイトなのに、代表者や役員紹介のページが全くなく、それどころか資本関係や会社の概要・住所すら掲載されていないからです)。