Scribble at 2023-03-09 09:37:18 Last modified: 2023-03-09 10:12:30

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西洋剃刀(ストレート・レイザー)を物色するのに Etsy は非常に便利だ。もちろん、他にも Amazon やら AliExpress やらヤフオクやら小規模なサイトで売買されているのは知っているけど、とりわけ海外の通販サイトについては、そもそも海外の決済サービスなんて全て知っているわけでもなければ、全て調べるなんてのも(情報セキュリティの実務家だからといって)面倒臭いわけだ。しかるに、大手のサービスを利用することになる。小規模なサイトやサービスだと、決済方法は確かにクレジット・カードやらキャリア決済やらと使えるだろうが、その決済代行サービスが信用できるかどうかは別である。また、商品を扱う事業者についても、正規の販売店なのか素人なのかブローカーなのかもはっきりしないし、ユーザの評価システムもないことが多いため、信頼性を担保する情報が乏しい。これでは掲示板で見ず知らずの他人と直に売り買いするのと大差ないわけだ。そういうことに危険があるからこそ、何らかの担保が必要なのに、担保がない販売サイトやマーケット・プレイスなんて、信頼を蓄積したというよりも単にリスクを掻き集めただけだろう。

しかし、マーケット・プレイスが巨大になるとゴロツキもたくさん集まってくるわけだから、単純に信頼を蓄積しているとばかりは言えない。実際、Amazon で販売されているストレート・レイザーなんて素人業者が適当に作った「剃刀のようなもの」にすぎず、多くの方が動画やブログ記事で触れているように(あるいは敢えて無視して示唆しているように)、少しでも学んでから物色すれば論外のガラクタであると分かる。ただ、しばしば「中華」などと揶揄されるが、中国の工場なり事業者が製造・販売している商品が何でもかんでも粗悪品と言うわけでもない。実際、日本や海外の有名なメーカーが販売している商品の多くも中国に工場があって中国人が製造しているのだ。オシャレなクリエイターのみなさん、iPhone は中国製なんですよ?

ということで、確かにものごとは是々非々であって、単に事業や会社の大きさや認知度などで判断するだけでは不十分でもあろう。Etsy にしても、僕は幾つか不満は持っている。その一つが、アジア圏から出品できないということだ。昔はできたのだが、新しく導入されたオリジナルの決済システムがアジア圏のユーザに対応しておらず(恐らく日本や中国で展開する多くのキャリア決済やカードレス決済などに対応する必要があるからだろう)、ストレート・レイザーの出品者の大半は欧米と一部の東欧圏や北欧圏に限られている。

こうしてみると、昨日も書いたように、ストレート・レイザーだろうと安全剃刀だろうと、しょせんは何万円どころか何千円だろうと、こういうもので髭を剃るというのがいかに贅沢な趣味であるかを物語っている。たとえばウクライナからの出品は、ほぼ全て旧ソビエト時代のビンテージである。逆にウクライナから出品されているハンドメイドの剃刀もないし、Etsy では出品するべきではない筈だが現実にはイギリスやアメリカから出品されている、大量生産の新品剃刀などウクライナからは一つも出品されていない。つまりストレート・レイザーは、現在のウクライナで男性が髭を剃る道具ではなく、その辺に転がっていて数はあるが国内では売れないため、数千円で販売する他にない骨董品なのである。

このような商品ルートの偏りとか、現実を反映していない販売動向などもあるし、既にたくさんの記事で書かれているように、Etsy はもはや個人の手芸品を売り買いするような場所ではなくなっている。当たり前と言われれば反論のしようもないのだが、たとえば老眼鏡なんて個人がどうやって作るというのか。いまでこそ 3D プリンターはあるからフレームは作れるかもしれないが、さすがに 3D プリンターでレンズは無理である。また、ハンド・メイドのストレート・レイザーもあるにはあるが、ちょっと手先が器用な素人が作ったものを5万円で売られても仕方がない。金がある人は価値のはっきりしたビンテージを買うだろう。というか、そもそも Etsy はヤフオクのような骨董品や中古品を売買するマーケットではなかった筈なのに、もういまではどうでも良くなっているようだ。"straight razor" で検索すると、ダマスカス鋼を使ったアマチュアのハンドメイドもあるにはあるが、大量生産の替刃式(僕が Sharpy という屋号の業者から買ったのもこれだ)の剃刀と骨董品、それから男性グルーミング用品を扱う業者の作った製品が圧倒している。

よく考えたら、素人がハンドメイドで製作した品物しかなかったなら、僕が Etsy を利用する必要はなかったわけである。僕は素人の模造品なんて要らないからだ。ちゃんとした工場で製造された品物が欲しかったのだから、もしも Etsy が従来のようにアマチュア「作品」だけを扱っていたら、ソビエト時代のヴァーチャで製造された剃刀なんて置いてあるわけがないのである。でも、現在は Etsy が最も探しやすいマーケットになってしまっている。こういう変化を嫌って、逆にハンドメイドの「作家」が続々と Etsy から店舗を撤収しているとも言われており、それゆえ更に骨董品のブローカーや大量生産のメーカーがシェアを拡大させている。既に僕が買ったような替刃式の剃刀で中国製の安物(OEM なので見た目はイギリス製だったりする)が大量に出回っていることも分かるように、そのうち Amazon と区別がつかなくなってくるのではないか。

そういう中で、既に8年前に「Etsyからつくり手たちが姿を消している理由」(https://wired.jp/2015/03/25/etsy-not-good-for-crafters/)という記事が出ている。言っていることは分からなくないが、そもそも「インターネットで世界中に売る」みたいな願望だけでオンラインのサービスを利用していれば、世界中の手芸作家が競合なのだから、SEO なり clickbait な商品名なりといったイカサマに手を出したり、クズみたいなメルマガを大量にばら撒いたり、ダンピングが横行したりという、現実のオンライン・ビジネスと全く同じところに放り込まれる。それは避けようがないのである。そもそも、自分で使う道具ではなく他人に売るための手芸なるものが、先進国の成金主婦のお遊びか後進国の内職でしかないという圧倒的な現実がある以上は、どこかに承認欲求とか事業規模の拡大とか何らかの別の欲求がある筈で、それを堅実な商売だの手作りの価値だのといった観念でごまかしたところで無理があるのだ。そもそも手芸というものは自分もしくは親族か隣近所で使う生活用品や玩具を自ら作って贈呈したり殆ど実費で譲るような風習や習慣のことであり、売れるかどうかも分からないのに作ってストックしておいたり、本当に必要な相手かどうかも分からず売り渡す時点で、それは「手芸」の観念から大きく乖離している。あまり言いたくはないが、そもそも Etsy に出品してる時点で、それは手作りというだけの「商品」であって、伝統的あるいは文化人類学的な意味での「手芸品」ではないと思う。もちろん、だからいけないとは言ってないが、何か細やかで慎ましいロハス的な趣味やライフ・スタイルであるかのように振舞いながら Etsy で「ビジネス」を展開するのは自己欺瞞である。それに比べたら、Etsy だろうと Amazon だろうと売れる場所があればどこにでも出品してるブローカーの方が、自分たちのやっていることがただの商売だと自覚しているだけ、或る意味では健全であろう。

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