Scribble at 2022-09-21 16:32:12 Last modified: 2022-09-21 23:11:54

たまに会社の「ブラックホール・アカウント」(使ってない info@ とか contact@ とかのアカウントへデタラメに営業メールを送ってくる連中のメールを吸い込む、ダミーのアカウント)へ、スパムが定期的に送られてくる。大多数の企業で人事を担当している方であれば、たいていご存じのスパムだ。

・IT 技術者支援機構

・JTG の「谷口」氏

・WORKTANK の「関戸」氏

これら3事業者は人材派遣系のスパムとしての有名どころであり、おそらく大半の会社ではドメインで判定してサーバから削除しているだろうから、もう何年もメールを受信していないゆえに懐かしさすら感じる方もおられよう。

それはそうと、スパムなんて丁寧に読んだりしないのだが、たまに目を通してみると奇妙なことが書いてあることに気づく。たとえば、JTG という事業者は特殊な条件の人材を扱っているのだけれど、そこからのメールは件名が次のようになっている。

「自衛隊出身者( 20代~50代 )をターゲットとした、人材募集の御案内です。」

これは、よく読むと奇妙な表現だ。

第一に、自衛隊出身者を「ターゲットとした」という点からしておかしい。この事業者は人材をわれわれに斡旋したり派遣することが目的なのに、自衛隊出身者をターゲットにするなんて、こっちの知ったことではない。自分たちで勝手に自衛隊の出身者を集めているだけのことだろう。大半の企業は、採用したい人物が自衛隊の出身者であるかどうかという点に興味があるのではなく、たとえば健康であるとか、危機管理能力が高いとか、自衛隊に在籍していたからこそ期待できるスキルや人間性に期待するのであって、北部方面隊に所属していたら寒さに強いだろうとか、当社は大阪が本社なので第3師団に所属していた人物がいいとか、そんなことはどうでもいいはずである。採用する側がどういう人物をターゲットにするかは、こちらの事情である。人材を斡旋する側が言うような言葉ではない。

そして第二に、「人材募集の案内」とはどういう意味なのか。弊社が人材を募集しているとしても、それをなんで斡旋する側の JTG が代わりに案内するのか。あるいは、JTG が人材を募集するという意味なら、弊社に元自衛官がいるとでも思っているのか。

元自衛官の人材を企業へ斡旋するという主旨であれば、

「自衛隊出身の人材をご紹介します」

だけでいいはずだ。スパムや営業メールの基本は、相手を混乱させたり、何かを考えさせてはいけない。そのときに思っていたり不満や不足に感じている相手が「おっ!」と目を止めるような、短いフレーズでアピールすることが有効であり、色々な事情で読む人へ多彩な点でフックになるような、あれこれとキーワードを詰め込んだ件名を書くのは、実はビジュアル・デザインの「ナスカー効果」と同じであり、キーワードどうしでアピールする力を打ち消し合ってしまうのだ。そもそも、見知らぬ相手から送られてきたメールなんて、誰も丁寧に件名も読んでくれたりしないものだし、たいていのメール・ソフトは件名を最初から最後まで表示できるほど幅が広く設定されていない。せいぜい、標準的な解像度のモニターでメール・ソフトを開いているユーザなら、20文字分ていどしか件名を表示できない筈である。よって、「( 20代~50代 )」なんていう些末な表現など書かなくてもよい。20~50代なんて、そもそも転職する人材としては当たり前の年齢層であり、メールの件名でアピールするような特殊で特別な条件でもなんでもないのだ。

こういうことは、たとえばスパムどころか標的型攻撃のメールで使われている件名を参考にすれば、巧妙に考えられたメールは件名も秀逸な表現が多いので、皮肉な話だが勉強になる。同じく、ウェブ・ページのレイアウトやテキストや UX も、大半の専門学校や大学を出たクリエイター様方は知らないか馬鹿にしているようだが、アダルト・サイトや情報商材詐欺師のサイトを勉強することをお勧めする。ともあれ、そうした攻撃者のメールでは、「Amazon.co.jp アカウントを更新してください」とか、「購入商品の支払い方法が承認されませんでした」とか、人をいたずらに不安にさせるような言い回しを使っている。購入商品の話なんて、たまたま直前に買い物した人でもなければ該当しないわけだが、それでも該当する人にとっては特に効果的だからこそ、大半は無視されることを覚悟のうえで短く的確な表現で狙いを定める。僕が渋谷の販売代理店で35年くらい前に教わった営業手法だって、商材は全く違う(建材)が同じようなものだ。外壁の見栄えや強度などに不安を感じるという人だけに、いまどきの表現を使うなら「刺さる」トークをしているだけでもいいのだ。それで10件の家を回って1件でも話を聞いてもらえたらいい。そこでマッチしたという時点で、こちらの土俵での駆け引きになるからだ。

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