Scribble at 2024-08-15 08:47:50 Last modified: 2024-08-18 08:36:50
いまちょうど、タイラー・コーエンの本を読んでるから転職についても色々と考えをめぐらすし、それに退職後というか老後の資金についても考えさせられる年齢になってきているので、このような議論は参考になる。
もちろん自己啓発本の多くは、とりわけ当サイトでは何度か強調したように、アメリカの自己啓発本の著者にはモルモン教徒が多いという事実があるので、なんらかの点で宗教的な目的意識や動機づけが関わってくる。そして、だからこそいけないとか勧誘の下心があると決めつけてもいけないわけだが、やはり多くの三流の著者に共通するパターンとして、およそ宗教的な献身的情熱でもない限り実行できないていどのルールやポリシーを立てて、それができないからこそ「儲からない」だの「売れない」だの「上場できない」だの「成功できない」だのと言う人々(本人は無自覚な場合も多いから、アメリカ人は厄介なのだが)も多い。特に中小企業を相手に局所的かつ場当たり的な成功を収めただけの経営コンサルが書くような本には、そういう傾向が多々ある。
これまでご紹介してきたように、数年前に僕は70冊ていどの「古典的」と呼ばれる経営書やビジネス本の多くを集中して読んだことがあるが、それらの多くは個人的な経験や理想論を語っているだけの場合もあるし、経営学者の本ですら殆ど根拠のない思い込みや思弁を語るにあたって都合がいいデータを集めただけというお粗末なものもある。だが、これらの本にも個々の逸話だとか個々の論点に絞って取り上げると、参考になる内容も多々ある。たとえば、スティーヴン・コヴィーの『7つの習慣』やピーター・ドラッカーの『経営者の条件』といった古典中の古典と呼ばれるような著作は、それぞれが自律した構成で書かれており、学術書のような「参考文献表」というものがない。もちろん、それは彼らが誰の著作も読まずに書いているという意味ではなく、それなりに読んで咀嚼してから自らの体系的で一貫した著作としてそれぞれ書いているのだろう。そして、そういう自律した一貫性なり体系性を打ち立てたり、後続する著作でも維持することが難しいというのは、もちろん学術研究に携わっている僕らこそ実感しているわけなので、学術研究の成果としてはともかく、そういう一人の思想としてなにごとかを確立したり維持する実例として参考にできるところがある。なので、書かれている内容に不備があるのは、彼らの多くが緻密な実証データを駆使したり多くの同僚と議論を交わしている学術研究者でもない以上は仕方のないことであり、寧ろ読む側があらかじめ見越しておく(馬鹿にするという意味ではなく)必要があろう。もちろん、上の議論で紹介されているブログ記事が言うように、インサイダー取り引きなどを勧めるような著作に学ぶことなどないであろうが(それゆえ、僕は Rich Dad Poor Dad を翻訳としても読んでいないし、国内でも「マル金、マル貧」などと言った時代があったけれど、そんなたわごとに1秒でも自分の関心を向けるような人間ではなかった。
無論だが、経営書やビジネス本の 99.99% はカスであり、ブログにでも書いておけばいいような話をバカが書いているにすぎない。僕が読んで参考にしているのは、当然だが長く読まれてきて一定の評価を(毀誉褒貶の違いはあれ)受けてきた著作に限られる。何度も言うが僕は権威主義者なので、それが一定の権威として許容できる評価基準である限り、市場で売れ続けてきたという事実にもとづく取捨選択には、単なる広告宣伝の効果だけに留まらない理由があろうと思う。
たとえば、上でリンクした Hacker News のスレッドには、関連する著作物としてマイケル・ガーバーの『はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術』という本が紹介されている。そして、そのガーバーこそ、自分のブログで公開した記事において、Rich Dad Poor Dad の内容を一つ一つ詳細に取り上げて、その内容がデタラメであり、違法ですらあることを指摘してみせた人物なのである。アメリカのビジネス本の著者というのは、お互いに直接の言及を含めながら相手の著作を批判するような文章は書かないという傾向があって、これは自己啓発業界での「宗教戦争」を避けるための知恵なのかもしれないが(繰り返すがアメリカでビジネス書や自己啓発本を書いている人物にはクリスチャンが多い。そして、とりわけ目立つモルモン教徒にも人によって色々な解釈があるのだろう)、僕は好ましいとは思っていない。なので、ガーバーのような人物が詳細に特定の自己啓発本を解読して見せたという事実は、ひとまず好意的に評価している。
ただ、彼自身が書いた『はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術』という本は、僕は評価していない。この本は、寧ろ成功の秘訣というよりも失敗の原因について書かれていているのだが、ベンチャーの大半が数年以内に倒産、自己破産、あるいは廃業しているなんていう、ベンチャーで経営に加わっている者、それから経営学者なら誰でも知ってるようなことを大発見のように書いている。そして、起業が失敗するのは多くの起業家が(バック・オフィスや経営の視点がない)職人気質だからだという。こんなの、実は誰でも言える。実際、僕も現職では2007年頃に短期間だけ取締役をやっていたから、とにかく経営に関する本を色々と読むことになり、こんなことは20年前でも「フリーランサーの甘い脱サラ」を嗜めるような著作やブログ記事で散々言われていたのである。