Scribble at 2022-08-29 09:31:14 Last modified: unmodified

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「青汁は効果なし」は事実?

自覚があるのかどうかは知らないが、こういうタイトルって陰謀論のブログ記事が使う典型的な表現なんだよね。言いたいことを括弧に入れて、否定するにしても肯定するにしても、誰か知らない人が言ってるかのように装って、それが名ばかりの「専門家」や大学教員であれば勝手に権威として振り回し、逆にそれが架空の一般人や勝手にでっち上げた世論だとか風評であれば、都合のよい藁人形として仕立て上げる。取り上げる話題をタイトルでも括弧に入れることで、それについて議論することに責任がないかのような体裁をとるわけだが、括弧に入れた何かが(否定するにせよ肯定するにせよ)重大だと言っている時点で、たいていの未熟な読者には論点誘導(theme-setting)や議論・選択肢・観点の不当な制約であることが分からない。

そして人文系の素養がない「自称おりこうさんの理系」に限って、自分たちが冷静で客観的な議論をしているという致命的な思い込みがあるせいで、自分たちの theme-setting が他人の関心や思考を牛耳っていたり、無自覚に操作したり誘導しているという自覚がないというわけである。こうして、「エビデンス」だの「ソース」だのという愚かなキーワードを振り回して、自分たちの光通信の営業と変わらない脅迫トークをやっていることに気づかない医者が、アメリカやヨーロッパにもたくさんいるのだが、日本でも数多くいる。

上記の記事は、医学的・栄養学的な観点から有効性について議論している体裁だが、しかしそれぞれの商品についてアフィリエイトさながらに公式サイトへのリンクをアド・ネットワーク(広告配信用の専用 URL を発行してマーケティング・サービスを提供する)経由で設置しているのはどうしてなのか。われわれのようなウェブ・コンテンツのプロでなくとも、丁寧にページを観ていれば初歩的なリテラシーのある人なら気づくだろう。こういう、条件によって正否を振り分けるような議論というのは、表面的には公平で緻密な議論をしているように見えるのだが、実際には「盗人にも三分の理」と同じく少しでも弁解の余地があれば、それを利点であるかのように肥大化させる、情報商材詐欺師も使う手口の一種だ。発癌性のある建材にも防火能力があるとか、核兵器には外交的な牽制効果があるとか、ヤクザはバカやならず者を統制する装置としての必要悪だとか、政治家は清濁併せ呑むのが仕事だから統一教会やアルカイダとつながっていてもいいとか、医学者は「いのち」のために働くのだから人体実験くらいかまわないとか。

しかし、冷静に考えたら医学博士号などなくてもわかるように、青汁なんて飲まなくてもいい。野菜に含まれるビタミンや鉄分や繊維質など数多くの栄養や物質が不足する原因は、青汁を飲むことで解決するわけではないし、青汁を飲んで十分に解決するわけでもないからだ。論理的に必要でも十分でもないことは、論理的に言えば〈どうでもいいこと〉なのであり、それはつまり同じ程度に効果のある方法や、青汁など歯牙にもかけない方法がいくらでもあるということだ。野菜不足の原因として、そもそも食材を買ったり料理したり食べる十分な時間がないという事情がある人は多い。そして、青汁を飲もうと飲むまいと、そういう生活を続けること自体が、青汁を飲む効果など消し飛んでしまうリスクを高めていることに気づかない。野菜を買ったり料理したり食べる時間と金さえあるなら、青汁を飲む理由など実はない。それを青汁で済ませるのは単なる怠惰にすぎず、そんなことは健康食品でどうにかなるような話ではないし、そういう生活をしている人々の健康は青汁を飲む程度で改善したりしない。そして、青汁を飲むしかないほど時間がない生活を送っている人間は、そもそも青汁を飲もうと飲むまいと、そういう生活自体のリスクによって健康を害するのだ。Regain ですらプラセボ以上の効果が不明であるのに、青汁ていどでブレーキになるわけがない。

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