2021年07月21日に初出の投稿

Last modified: 2021-07-29

デビット・ライス @RiceDavit Replying to @RiceDavit これはやや危うい論点だけど、「いじめ」のように『その問題について関心の高い人が数多く存在している問題』では、そうでない問題より社会的制裁が激しくなってしまうけれど、該当の行為の「悪さ」と「その問題について関心の高い人の数」って本質的には関係がないから、制裁が公正になされないんよね

社会的制裁のなにがよくないのか

PHILSCI.INFO では取り上げたかもしれないが(なんで Google IME は「~しれない」を、いちいち「~知れない」などと高齢者の文章みたいに変換するのだろう)、MD で上記のブログの記事を取り上げるのは初めだと思う。僕が RSS を購読しているブログの一つであり、社会現象なり道徳的な事案について hatena の住民が好む冷静な分析が多い。ただし僕は内容については首肯することが少なく、たとえば上記の著者は「トロッコ問題」へ取り組むことに価値があると論じているのだが、僕は「トロッコ問題」を初めとしてスノッブの好む論理パズルが倫理学の知見を一歩でも押し進めた証拠など欠片もないという点で、著者とは全く考えが異なる。

上記の記事は、直に参照されてはいないものの、今般の東京オリンピックで主催側にいる何人かが騒動を引き起こした事案から書かれた記事だろうと思う。そして、結局のところ彼が言いたいのは「法治国家では法律の命じる範囲に従え」と言っているだけであり、子供時代の犯罪は(当人が自白していても)当時もいまも罰せられていないがゆえに、そういう人物の過去の言動は不問とする〈べき〉であると言っているに等しい(実際、他のツイートで社会的制裁は非とするべきだと明言している)。倫理学を学んだ人物として「べき」という言葉を使っている以上は、その社会言語的な効果くらい想定したうえで使っているのだろうから、こういう反論も予想の上での議論なのだろう。

結局、こういう〈冷静な分析〉をしつつ、現状の制度内での最適化やら効率だけを目標として、既存の(しかも他人が決めた)ルールの範囲だけで結論を弾き出して得々としているロジック好きという人々は、科学哲学を専攻する学生として〈それなりにまともな logic〉を学んだ人間からすれば、結局はディベートやクリシンをやりすぎてライン・ランドのような山師を思想家と勘違いする未熟なアメリカの知識人と同じく、実質的な議論の価値というものが分からなくなってしまった人という気がする。

そういう人々の中でも最も有名な事例が、スティーヴン・ピンカーのような人物だ。彼のような態度は、しょせん煎じ詰めれば「空想的啓蒙主義」と表現できる。もう少し下世話な言い方なら、「金持ち喧嘩せず」ということだ。一般大衆の無軌道な騒乱や感情の流れというものを極端に怖がる。しかし自分たちのブログ記事を reputation で評価したり読み物を買ってくれる、まさに同じ一般大衆の行動を歓迎もする。こういうダブル・スタンダードを隠して、或る時は「啓蒙」のごとき高潔な概念を語って大衆の〈お勉強〉とか〈カフェでの熟議〉といったママゴトを夢想し、また或る時は「ネット・リンチ」のごとき乱暴な概念を使って大衆の〈熱狂〉とか〈混乱〉をお化けのように扱う(もちろん、僕はこのように書いたからといって、不当なリンチと言うべき事例があることを否定しているわけではない)。どれほど文章力があろうと、哲学者にそういう二枚舌は通用しない。

もう何年も前から「哲学カフェ」だの、あるいは "philosophy for everyone" だのという活動について指摘していることだが、自分たちに都合のいいオーディエンスだけを想定する〈冷静な議論の場〉でのパフォーマンスとかイベントを繰り返しても、哲学として議論している中身については色々なことが言えるには違いないとしても、結局は社会科学的な観点で言えば「仲良しごっこ」やエコーチェンバーでしかない。表面的には違って見えても、まさしく彼らが忌避するネトウヨや日本共産党、あるいは某建築設計事務所のグループと同じ仕組みでしか成立しないと言える。そして、哲学のように〈抽象的〉で没価値的だという(実は勝手な)自己イメージによる営為の多くが、特定のイデオロギーや家庭の事情あるいは経済的な格差という身も蓋もないところでしか成立しないものだったという指摘が、ポストモダニストらによってせっせと繰り返されてきたにも関わらず、それらを不純な分析として排斥するだけで全く真面目に受け取ってこなかった人々が多い。思うに、その結果がこういう〈哲学的な偽善者〉というべき御目出度い言動なのだろう。

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