Scribble at 2023-03-05 09:32:59 Last modified: unmodified

公開している髭剃りの記事で、僕は髭剃りで大切なのは剃刀の過剰な品質ではなく、やはりテクニックと見識とスキン・ケアだと述べている。よって肌について知らないでは済まされず、当然だが皮膚科学(dermatology)についても調べたり学んだりしているところだ。しかし、日本で発売されている書籍の大半は、「皮膚科」学、つまり皮膚の病気を扱う著作物であったり、あるいは「皮膚の科学」とは言えないレベルの通俗的な話を繰り返すだけの本である。よって、残念ながら日本語で髭剃りに関わる皮膚のまともな知識を得るには、皮膚科学の本を探すよりも cosmetic science つまり美容科学という分野の著作に当たる方がよいのではないかと思った。

もちろん、この分野がきわめて美容業界と近くて、栄養学と同じくクズみたいな議論や未熟な成果で特定のハンド・クリームや化粧品を売りつけるための「科学的な権威」を与える道具にされているという現状は、或るていど社会科学にも心得のある科学哲学者として心得ている。これは、偏見というよりも一種の知的リスク管理としてのリテラシーというものであって、美容科学の知見や理論が特定の商品を売るためにしか活用できない、電話ボックスのピンク・チラシみたいなものだと言っているわけでもない。

とは言え、この分野で邦文の著作もまた、皮膚についての精密な知識や情報を得るには数も少ないし、記述されているレベルも WELQ のバイト学生やクラウド主婦が書くコタツ記事のような雑文に近い。はっきり言えば大学生の期末レポートみたいな「調べ物」を読まされるというのが実情だ。研究者は日本にも数多くいるとは思うが、やはりこの手の分野で厳密な議論とか精密な知識を得て何かをしようという一般人は少ないだろうし(それは別にどうだっていい。韓国コスメの好きな女子高生がクラブ活動でコロイドや表面科学を研究している方が珍しいだろう)、どうしても化粧品会社の研究所なり R&D 部門に配属されてから、それぞれの企業で運用している研修の教材などで素養を得るという人がプロパーでも多いのだろう。

というわけなので、皮膚科学だろうと美容科学だろうと、プロパーはたくさんいても皮膚に関する基礎的な知識や情報を得るには、なんだかんだ言ってニッチな著作物も多い洋書に求めるか、あるいは学術誌に記載されている情報を自らまとめ直す他にないと思う。前者は手に入れること自体が、お金という理由で難しいか、あるいは(海賊サイトで PDF を手に入れるという)道義的・法的な理由で難しい。後者は、もちろん皮膚に関わる膨大な、それこそ国内の専門誌だけでも多くの成果が出ている学術論文を渉猟してまとめ上げるという、おおよそ日本では修士論文(海外では卒論)のレベルに相当するタスクが待っている。どちらも手間のかかる話だが、もちろん僕は有能なので両方やるわけであるが(その成果がどうなるのかは知らない。プロパーに匹敵する調査や情報整理の能力はあるが、もちろん皮膚科学を学ぼうとする人間として「優秀」だとは言ってないからだ)。

ちなみに、ちくま新書とブルーバックスで皮膚の本に目を通したのだが、以前も簡単に書いたとおり、あまり有益な知見は得ていない。皮膚が大切な「臓器」であるというプレゼンスを強調するための議論や豆知識が多く、皮膚科学や美容科学としての記述、更には医学や生物学としての観点も不足していると感じたため、どちらも読書ノートを取るどころかメモ書きすら残していない。

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