Scribble at 2021-06-30 17:12:29 Last modified: 2021-06-30 17:50:26

何度か指摘していることだが、オンライン・リソースというものは、そもそも電子化されていない事柄の情報はゼロである。絶版になった本が電子化されていなければ、それの「電子書籍データ」など存在しない。電子化されていない書籍や雑誌それ自体どころか、それらの書誌情報が何らかのデータベースなりオンラインのコンテンツとして記載されていなければ、どう検索しようとも、そういう書籍や雑誌が〈あった〉という事実すら知りようがないのである。

書籍についてのデータがアマゾンや Google Books に何ペタバイトあろうとも、登録されていない文書については、直接の情報として微塵も分からないし、どんなに高度な機械学習の理論を応用しても、そういう文書が〈ある〉ことすら推定できない。そして、どれほどのデータ容量を誇っていようとも、最近のオンライン・ジャーナルでは参照文献のデータも扱われているものの、殆どの書籍については、参照文献のデータを拾い出すことはできない。なぜなら、「電子化」だの「電子書籍」だのと言っても、その多くは既存の書物をスキャンしたまま、テキスト情報が欠落した PDF どころか画像データとしてまとめただけの代物だからである。もちろん、それらの「ベタ貼り PDF 文書」や画像テキストのファイルを改めてテキスト・データに変換してデータベースへ格納することで、電子化された書籍の参照文献もすべてデータとして扱えるようになり、そこから未だに電子化されてはいないが過去に発行された書籍の〈存在〉を掴めるのだろう。

しかしながら、いま生きている多くの若者や技術者にとって、そういう情報に価値があるのかどうかは分からない。分からないからこそ、とりあえず大規模にデータベースとして整えるのだと言いたいところだが、そうした大規模な活動は商業的な打算やリソースがなくては不可能である。アマゾンで販売されてきた全ての書籍の電子データを、個人として保管する権利がどうにか所有できたとしても、実際にデータとして保管するために必要なコストや、そのデータベースから書籍の情報をくまなく引き出すために必要な計算資源のコストは、もはや一ヶ月に数百万円や数千万円のオーダーで私財を投げ打つマニアのクレイジーな趣味という美談の枠内でまかなえるものではない。

こういう状況であり、オンラインのデータなんて不足も多いし欠陥だらけであることを冷静に理解していれば、学術研究なり調べ物なりがオンライン検索だけで済む筈はないと分かるだろう。例えば、僕はいま大阪と奈良の府県境にある生駒山地の色々な話題を調べている。もともと調べている山畑古墳群という古墳時代後期の群集墳についてだけではなく、その頃にいた渡来人(あるいは帰化人とも言う)についても調べているし、古代の話だけではなく、生駒トンネルを開通させる工事で亡くなった朝鮮人坑夫についても調べたり、生駒山地の西麓一帯に分布する「朝鮮寺」と呼ばれる民間信仰のお寺だったり、あるいは明治から昭和初期にかけて発展した伸線業(針金製造)などにも関心がある。

これらの関心事は、僕が小学生の頃に殆ど毎週のように足を運んでいた東大阪市立郷土博物館でも、調査・研究、そして成果を展示してきた産業や民俗のテーマでもある。大阪なので、朝鮮半島出身の人々との関わりが多いのは特に珍しくもない話だ。もちろん、何らかの政治的な意図があってテーマを選んでいるのではないが、アメリカにいる「アンチ critical race theory」の人たちと同じような人々、まぁ Twitter に幾らでも掃いて捨てるほどいるわけだが、そういう人々から見ると、上記のようなテーマを並べると、わざわざ朝鮮半島出身者に関わるテーマを集めているように見えるのだろう。そして、二言目には崇高で聖なる日本国家について自虐的に物事を拾い上げたり嘘を並べる非国民だと喚き始める。バカどもが。

ともあれ、こうしたテーマについて、『大阪春秋』の第81号という季刊誌が興味深い論説を数多く掲載している。しかし、これを手元に置いておきたいと思っても、いまは図書館から借りているが、購入するにはオンラインの情報だけでは全く足りない。アマゾンにも、それから検索サイトの「スーパー源氏」や「日本の古本屋」にも掲載されておらず、恐らくは古本として手に入るとしても、街中の古書店を覗いて見つけるといった偶然にも期待しなくてはいけない。オンラインのデータとして、古書店が常に最新のデータを追加したり更新しているわけでもないからだ(大半の古書店は頻繁かつ丁寧にデータを更新してるわけでもないと、実際に何軒かの古書店の店主から聞いたことがある。このこと自体は、別に非難するような話ではない。機会喪失のインパクトは事業者に跳ね返るだけであり、商品データを登録したり更新しない「責任」や「罪」など商業活動には存在しない)。

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