Scribble at 2022-12-20 14:18:06 Last modified: 2022-12-20 17:04:51

ウェブ・アプリケーションの開発に携わっていれば、"Twelve-Factor App" というガイドラインについて会話のネタにしたことがある人もいるだろう。僕の関わっている案件とか業務に照らしてみると、はっきり言ってクラウド志向の SaaS 開発を目的にしているガイドラインに強い興味はない。しかも、日本ではたいていアジャイル開発や CI とセットで語られているため、これを現実に自分の仕事に活かせるガイドラインとしているのは、自社でオンライン・サービスを提供している企業のエンジニアだけという実情もある。彼らがこういうことを積極的に話題にして議論するのはいいが、僕らはオンライン・サービスの利用者側であり、そしてほぼ「継続的な開発」など無用の広告代理店案件しか担当していないため、一部は参考になるが体系的なガイドラインとしては準拠していないし、準拠しようもない。

仮に "Introduction" を見てみよう。"Twelve-Factor App" の第一の目標は、"Use declarative formats for setup automation, to minimize time and cost for new developers joining the project;"(宣言的なフォーマットを使ってセットアップを自動化することにより、プロジェクトへ新しく加わる開発者の時間やコストを最小に抑える)となっているが、僕らのように電通案件だろうと大企業のキャンペーン・サイトだろうと、単独で開発している人間にとっては殆ど関係のない話である。もちろん、単独で作業するにあたっての準備はしていて、個人として開発に携わっていてもコーディング規約を作るひとだっているだろう。でも、それはウェブ制作会社のプログラマにとっては標準的でも自然でもない。それに、セットアップに使う設定情報とか設定ファイルの形式を declarative にすることは、こうした目的にとっての十分条件ではあるかもしれないが、必要条件だとは思えない。そもそも、"Twelve-Factor App" では "declaration"(明示的に宣言すること)と "declarative (function/setting/etc.)"(機能志向ではなく目的志向で関数や設定などを記述すること)との区別がついているのかどうかが分かりにくい。このように、冒頭ですら疑問の余地が多い内容である。

そもそも、ウェブ制作会社のエンジニアにとってアジャイルとか CI というのは、開発手法そのものと言うよりも会社の事業として整合しない。ウェブの制作会社という事業は、全体の設計すらなくて場当たり的にコーディングを始めて、1/10 だけ工程が進んだからといって料金を請求できるような取引関係にはない(もちろん、それがアジャイルの誤解にもとづく劣悪な事例であることは承知している。批判していても、僕はいちおうプロの開発者なのでね)。そういう業務委託契約書を交わせばいいだけだと軽口を言えるのは、「エンジニア」という職能についている人々が、たいていは会社員として経営どころか会計のプロセスにすら加われないからである。

  1. もっと新しいノート <<
  2. >> もっと古いノート

冒頭に戻る


※ 以下の SNS 共有ボタンは JavaScript を使っておらず、ボタンを押すまでは SNS サイトと全く通信しません。

Twitter Facebook