Scribble at 2023-02-24 09:16:40 Last modified: 2023-02-24 09:33:28

科学哲学という分野だけの問題ではないけれど、まともなレベルのプロパーであれば、大学の実務にとって ChatGPT が面倒臭い事態を引き起こすことは分かっているだろうけれど、学術なり人類の叡智というスケールで考えたら、いまのところは脅威でもなんでもないということも一つの事実としてご承知だろうと思う。それは、そもそも supervised な機械学習というものが何の入力データや判断基準のアルゴリズムなしに無から有を何らかの基準で生み出すようなものではないからだ(それは人の思考にも言えるわけだが)。よって、garbage in, garbage out のフレーズどおり、スクレイピングしているウェブに満足なリソースがなければ、ChatGPT の回答がそれを越えるものではない(もし本当に超えていたら、それこそ「シンギュラリティ」であろう)ということくらい、高校生でも分かる。

簡単に言うと、みなさんが手元に持っている『哲学辞典』の類を開いて見つけたキーワードを、なんでもいいからウェブで検索してみればよろしい。とりわけ日本語で調べると分かるように、いかにオンラインのドキュメントや情報が貧弱であるかが、多くの方がインターネットを利用し始めた30年前から殆ど変わっていないという事実が分かるだろう。もちろん、プロパーにオンラインのリソースを拡充する義務や責任など微塵もないので、日本に Stanford Encyclopedia of Philosophy のようなコンテンツがないのは、日本の哲学教員が堅実な成果を積み上げるよりも Twitter で科研費の事務作業が面倒だと喚いたり、あるいは「ご恵投」自慢か左翼ツイートばかりしてるからだと非難したいわけではない。

ともかく、プロパーでなかろうと高校の『倫理社会』の教科書に書いてある「思想用語」なるものを調べるのでも、なんでもいい。"supervenience" でも「即自」でも、あるいは雷に打たれた野郎の話でも、脳に電極を繋げる(脳は水槽に入れていないが、実は現実に HCI の研究対象でもある)実験でもいい。学部生に「これを読んでおけばいい」と薦められるような文章なりブログ記事なりサイトがあるだろうか。アリアドネ? 飲茶だかウーロン茶だかいう読書オタクのサイト? 冗談でしょう。古典のつまみ食いで政府の何とか委員になった教育哲学者のブログ? 早稲田の「有力教授」の下で雑なキュレーション・サイトを運営していた人物のサイト? あるいは書店にうず高く著作が平積みされていたりする、通俗書の収入で軽井沢に別荘を買ったとかいう元エンジニアだか元ゲーム作家(この二人は区別がつかないんだけど)は? あるいは「小平の英雄」とか「立命館のブ男」は? こんな連中、現実には哲学関連のリソースなんて何一つ手掛けていないだろう。

したがって、恐らく大半のプロパーは SEP や他のオンライン用語集などを(学生が読めるかどうかはともかく)薦めるだろう。日本語でアクセスできる、分析哲学や科学哲学のまともなサイトなんて(自分でサイトを運営していて言うのも恥ずべきことだが)殆どない。ということは、ChatGPT がどれほど大量のウェブ・ページをインデックスして取り込み、その文章を使って supervisor を構成して自らを訓練したところで、適当な世間話レベルのチューターくらいにはなると思うし、実際に試してみて同級生の(日本の)大学生なんかと喋るくらいなら ChatGPT と「対話」した方がいいとすら思えるが、しかし使ってみればすぐに分かるように、向こうから話題を振ってきたりはしないので、実際にはやはり「対話」というよりも営業代理店のサイトによくあるオンライン・チャットの出来損ないロボットと大して変わらないのではないかという気もする。こちらが明確な質問を持っていれば、さきごろ公開した剃刀の記事でも紹介したように、ChatGPT は便利な道具だと思う。クソみたいな商品ページとか WELQ ライターみたいな学生や主婦のコタツ記事を軽く凌駕するレスポンスには、それなりに感心させられる(でも、実際に使われ始めたら、こっそり商品紹介とか出稿者のサイトに誘導されかねないとは思うがね)。

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