Scribble at 2022-01-19 17:57:21 Last modified: 2022-01-19 22:38:47

バック・オフィスの本部会議で「インボイス制度」の話題が出ていた。

僕らが物品やサービスを売り買いする際には、ご承知のとおり消費税がかかる。果物を例にとると、農家は1個100円のレモンを市場へ出すときに10%の消費税をつけて110円とする。次に市場で仲買い業者が110円で買ったレモンに利益をつけて150円と設定してから、それに消費税を加えて卸値を165円にする。これを仕入れたスーパーは、利益をつけて180円に設定してから、それに消費税を加えて198円を販売価格とする。僕らは、こうして幾つかの過程を経て消費税が加算された商品を198円で買っている。

ここでスーパーの経理担当者という観点で考えると、レモンを仕入れたときに仲買い業者が卸値の中に加えた消費税と、自分たちが販売価格の中に加えた消費税があって、仲買い業者とスーパーがどちらも消費税の納税義務がある事業者(2年前の会計年度において課税消費税が1,000万円を越える事業者)だとすると、仕入れにかかっている消費税額と販売・売上にかかっている消費税額を捕捉・計算・記録できていれば、消費税として納める税額が正確にわかる(控除税額が差額として計算できるからだ)。国(国税庁)としては、それを目的にインボイス制度を2023年度から開始するわけである。

ここで、スーパーは自分たちで上乗せした消費税額については記録して書類を提出する資格があるけれど、仕入れ値にかかっている消費税額がいくらなのかは分からないし、仮に分かったとしても証明する(責任をとる)資格はない。それができるのは、スーパーにレモンを販売した仲買い業者だ。そこで、スーパーは仲買い業者から「消費税率を10%として計算したのか、それとも8%という軽減税率で計算したのか」とか、「実際の税額をいくらとして加算しているのか」という具体的な金額を記した請求書をもらわなくてはいけない。これが「インボイス」(適格請求書)と呼ばれる書類(あるいはデジタル・データの文書)である。インボイスを発行する資格があるのは、もちろん消費税の課税対象である課税売上高が1,000万円を越える事業者であり、税務署に申請して事業者に固有の「登録番号」を発行された事業者であるから、インボイスには当然だが登録番号の記入が必須となる。

こういう制度が始まると、もちろん消費税を納めている事業者は請求書を受ける取引先(下請け会社とか、個人事業主とか、あるいはサービスの提供を受けている運営会社など)から、インボイスとしての請求書を発行してもらう必要が生じる。そうでないと、インボイスがない請求書によって仕入れた物品やサービスにかかる消費税分が仕入税額控除の対象にならなくなるからだ。控除の対象にならないと、要するに下請け会社や個人事業主として払ってるのか払ってないのかもわからないような「消費税」という細目が上乗せされた金額を請求されることになるので、全くの無駄な出費ということになる。国としては消費税の課税対象を正確に捕捉して消費税を納税させたいという意図があるのだろうが、事業者としても、無駄な出費を抑えるためには請求相手からインボイスとして扱える請求書をもらわなくてはいけない。

幾つかのサイトに説明されているが、個人事業者のように課税売上額が1,000万円以下であっても、申請して登録番号を発行してもらえる。ただし、登録した時点で課税売上額が1,000万円以下であっても消費税の納税義務が発生するのだ。すると、あまり大きな声では言えないが、バック・オフィス系のクラウド・サービスであるマネーフォワードという企業の記事で書かれているように、

「今まで消費税納税額の分だけ得をしてきた免税事業者の方も、インボイス制度により納税義務が生じることになる」(https://biz.moneyforward.com/invoice/basic/48071/ いくら現実だとはいえ、こんなこと管理系サービスのサイトで書くか?)

そんなわけで、インボイスを発行できる個人事業主に仕事を依頼するという原則はいいとしても、そんなフリーランサーがいるのかという現実の問題はある。

また課税対象の事業者にとっても懸念はあろう。なぜなら、インボイスを発行すると、消費税率はたいてい10%だろうが、実際に消費税納税分として上乗せした金額も明記する必要があるため、請求金額のうちで利益をどれだけ上乗せしたのか相手にバレてしまうからだ。100円の仕入れ値に利益を900円乗せて、それに10%を追加して1,100円で販売するのと、900円の仕入れ値に利益を100円乗せて、それに10%を追加して1,100円で販売するのとでは、やはり今後の値段交渉への影響がまるで違ってくる。前者のような請求をしていれば、馬鹿みたいに利益を乗せたうえで請求していたことが相手にバレるのだから、当たり前だ。また、それほど法外な利益を上乗せしていなくても、利益の具体的な金額が相手にわかるのだから、たとえ少額でも「ここまでは押せる」と買い手に有利な状況をつくることになり、取引上のトラブルが増える可能性もある。

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