Scribble at 2022-02-01 09:50:16 Last modified: 2022-02-01 14:42:04

"Aesthetics and Neuroscience: Scientific and Artistic Perspectives" (eds. by Zoï Kapoula and Marine Vernet, Springer, 2016) のようなアンソロジーを眺めてみても、"golden ratio" だ "Fibonacci" だなんて、一つも出てこない。そもそも、数日前の NHK の「あさイチ」という番組でも使われていたが、もはや「黄金比」なんて言葉は殆ど "a better configuration" ていどの意味でしか使われておらず、1:1.618033988749894... なんていう比率としては扱われていないのだ。そういう状況で数学として数列やら自己相似性やらを取り上げてみたところで、逆に野暮というものなのではないか。講談社ブルーバックスの一冊として何年も前から刊行が予定されていた『フィボナッチの数学』が、結局は未刊に終わろうとしているように思えるのも、著者の遅筆という理由だけではないような気がする。そもそも、数学としての扱いに関心をもっている人などいないのだ。数学としての正確な扱いを気にせずに、何やら数学を操っている自意識プレイの便利な道具として使えるからこそ、「黄金比でウェブデザインしよう」などとクズみたいなブログ記事が量産されるわけである。

こうしてみると、僕らのようにまともなデザイナーは最初から見識があって取り合わないわけだし(それに、少なくとも美大を出ている人間なら、黄金比なんて特別扱いするようなものではないことを、まともな美術史の知識としても、それからデザインのセンスから言っても理解しているはずである)、ことさら黄金比についてあれこれと当サイトで書く必要はないのかもしれない。「バカ発見器」としてうまく無能を排除する役に立てば、そのままバカを泳がせておく方が排除しやすくなるというものだ・・・と言われて腹が立つなら、やはり美術史とか美学とか商業デザインの基礎的な勉強をするよう、お勧めするね。

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