Scribble at 2024-07-24 09:31:30 Last modified: unmodified
古本を購入するときには、もちろんアマゾンを利用する人が多いとは思うが、実店舗の古本屋へ足を運ぶことにも色々な効用だとか面白さがあるし、上記のような古本を専門に扱っている EC サイトにもアマゾンとは別の利点がある。
まず、古書サイトの商品は時勢によって値段が極端に変わったりしない。最近だと、共和党の副大統領候補が弁護士時代に書いた『ヒルビリー・エレジー』というノンフィクションの本が、アマゾンでは6,000円などというプレミアを付けて販売されているけれど、稀覯本ならともかく、ふつうの古本屋で定価の3倍を超えるプレミアをつけるような店はない。こういうのは、アマゾンによくいる(というか大半がそうなのだが)ただのテンバイヤー、つまりはブローカーであって、書籍に何の愛著も見識もないゴロツキだ。それに比べて、上のサイトは全国古書籍商組合連合会に加盟している事業者だけが参加しているので、事業者としても商品としても一定の品質(本の状態が悪いなら悪いなりに事前の情報提供がある)が確保されていると期待できる。
それから、丁寧に特定の著作物を比較していると分かることだが、実は学術書や単行本の多くは古書サイトの方が安いのである。もちろん、それだけに競争となることもあるけれど、それは仕方のないことだ。また、こういうサイトは古書店の事業主が自分でデータを登録したり更新しているので、商品が既にないという場合がよくあるのだ。これは、実際にこのサイトを利用しているという天満橋の古書店の店主から話を聞いたことがある。ただ、そういう機会損失は売れないだけでなく店の信用にもかかわるので、最近では「アマゾン専用」とか「オンライン専用」の出品であることを明記する事例もある。しかし、いずれにしてもアマゾンに比べて安い商品が多いのは事実だ。ただし、同じ本でも安いだけに出版年が古いこともあるため、内容には注意が必要だ。たとえば、僕がさきごろオンラインで注文した『論語』(新釈漢文体系)の場合、1980年代の商品を1,000円で買ったのだが、もっと新しい重刷の版だと誤字・脱字が訂正されている場合があるため、内容としては信頼できるものになっているだろう。つまり、安ければそれだけ誤字・脱字が訂正されずに残っている可能性があるのだ。
それから、こういう古書店サイトがアマゾンと比べて利用する値打ちがあるのは、雑誌のバックナンバーや資料的な出版物を多く扱っているという点にもある。たとえば、その典型が埋蔵文化財の発掘調査報告書だ。こういうものは、マイナーな遺跡だとほとんど一点ものに近くなる。なぜなら、地方公共団体の部署や委託先が発行する発掘調査報告書の多くは、だいたい初版として数千部を制作したら重刷などしないからである。発行したら、国立国会図書館や全国の公共図書館へ寄贈したり研究者に販売すると、残りは地元の博物館や教育委員会に一部を分けて販売してもらう。それらが全て在庫としてなくなれば、それで終わりである。そして、マスコミが嗅ぎつけてくるような金銀財宝でも出土しない限り、地方の個人宅を建築するときに事前調査した結果の報告書なんていうマイナーな発行物など、プロパーの考古学者ですら地元の人を除けば買い求めたりしない。なので、全て販売し尽くして在庫がなくなった調査報告書の類は、もしその遺跡について(たとえば僕が東大阪市の山畑古墳群に関心を持っているように)関心や興味を持っているなら、古書店や古書サイトで見つけたら、お金にいくらか余裕がある限り、其の場で手に入れるべきなのである。そして、アマゾンではこういう出版物は殆ど商品として登録されない。なので、ひところは「ロング・テール」などというインチキなマーケティング理論のようなものが持て囃されたわけだが、実は古書や書籍の流通なりマーケティングのプロは、アマゾンに出回っている「ロング・テール」なんてものは実際のところ尻切れトンボと同じであって、本当に個々人がそれぞれの特別な興味や関心で求めているニッチな分野の希少な商品などアマゾンにはないのだと知っているのである。