Scribble at 2025-01-16 11:20:52 Last modified: 2025-01-16 17:12:32

デザインや法令や人権について幾つかの論説を公開しているサイトで Stable Diffusion のような拡散モデルを利用している話をするのは、人によっては困惑するかもしれない。なぜなら、Stable Diffusion をリリースした Stability.ai 社等は多くのクリエイターや写真の販売会社から著作権法違反で訴えられており、ナオミ・クラインのような左翼ライターからは何度もメディアの記事で罵られているからだ。

僕は左翼ではないからクラインと同じ立場ではないけれど、デザイナーの一人でもある僕が、こういう「データ・ロンダリング」(学術団体がウェブ・スクレイピングで入手した研究目的のデータを利用して拡散モデルのトレーニングを行った)でリリースされた拡散モデルを利用して画像を生成することは、左翼かどうかはともかくとして、クリエーティブに対する自己否定ではないのかと疑われるのも分かる。

また、僕は昔から一定の限度を超えてサーバに負荷をかけるウェブ・スクレイピングは違法行為(業務妨害)であると言っており、日本の多くのセキュリティ関係者やパソコンおたくから支持を集めている高木浩光氏のような人物の主張とは反対に、僕は「岡崎市立中央図書館事件」で図書館サイトへの1秒に1回という頻度は個人のアクセスとして常軌を逸しており可罰的違法性があると考える。ちなみに、こういうことを制限すると「クリエーティブが制約される」だの日本のイノベーションが育たないだのと脊髄反射のように SNS で騒ぎ出すリバタリアンがいるものだが、彼らは脱法的な収益モデルで荒稼ぎするデータ・ブローカーのベンチャーだったりすることが多く、こんなことを法的に処罰したところで都内の豚おたくに Stable Diffusion を超える拡散モデルの理論など提唱できない。せいぜい国内では Preferred Networks や魚がどうのこうのという外人ベンチャーが頑張っているくらいだが、それらも国際的なスケールで言えば些末なビジネスだ。

さて、まずオンラインで公表されている画像によってトレーニングするということについては、これはそもそも昔から画家なんてものは先代や古典的な絵画の模写をすることが技能を身につけるための必須のトレーニングだったわけで、他人の作品を真似ることは決して違法なことでも間違ったことでもない。拡散モデルのトレーニングでは他人の画像を利用しているわけだが、これは AI のシステムに「見てもらう」ためには必要な処理だ。そして、これがいけないというなら、プロのカメラマンが撮影した写真を使っている雑誌の表紙ですら書店で無料で眺めてはいけないということになるし、画家の作品が印刷されたパンフレットすら無料で眺めてはいけないという馬鹿げたことになる。プロが手掛けた写真や絵画であろと、その制作にどれほどの費用がかかっていようと、公にリリースされている印刷物や影像を眺めて、何かの感想をもったり批評したり、あるいはその作風や画風を参考にすることなど、別に違法でもなければ不道徳なことでもなんでもないわけである。そして、これはちゃんと著作権法の理論において「内容と表現の二分法」としてしっかり確立した解釈になっていて、写真をそのまま別人が自分で撮影したかのように扱うのは違法だし、イラストを別人が自分で描いたかのように扱うのは違法だが、写真の構図や絵画のタッチを真似て新しい作品を作り出すことには著作権法の保護は該当しない。つまり、表現された作品は保護されるが、その作品を生み出すための思想や手法や技法は保護されないのである。なぜなら、そういうものまで保護すると、芸術なり学問なり技術は一握りの人間だけが独占し続けることになって発展性を失うからである。ご承知のように、いまどき大学への進学せずに海外で過ごしてから写真家になったりイラストレータで食ってる人間なんて裕福な家の子供だけだし、学者も大半が金持ちの子息であることは明白だし、大学の工学部で博士号をとって大手の会社で特許を考案するなんてのも金持ちの息子が大半である。よって、彼らの成果を過剰に保護すると、金持ちの息子や娘が更に金を儲けるだけになってしまう。

クリエイターのつくりだした作品には敬意を払って、もちろん彼らの仕事に見合う対価を支払うのが当然だろうと思う。でも、人のやることなんて無から生み出されるものではなく、必ず誰かの成果の上に立って生み出されているものだ。そうした、彼らが作品や学術理論や発明を生み出すまでに影響を与えた、ものの見方や考え方までを法律で過剰に保護してしまうのは、人類の叡智の進展にとっては逆効果であるというのが著作権に関する法令の基本的なアイデアなのであり、なんでもかんでも法律で権利を保護しようなんてことは著作権法の方針ではないのだ。クリエイターはここを取り違えてはいけない。

実際、拡散モデルにおいて個々の作品が内部処理に影響を与える度合いは、せいぜい作品一つあたりでせいぜい1バイトていどだと言われている。あなたがプロのイラストレータだとして、あなたの或る1枚の作品から AI が学習した結果が "01001010" だと言われて、これがあなたのどういう権利を侵害しているのだろうか。僕がこのサイトで "01001010" という文字列を記載するたびに、あなたは僕を著作権法違反で訴えるのか。つまりは、こういうナンセンスを著作権法に期待しても無意味なのである。

しかし、次にウェブ・スクレイピングは具体的に既存のウェブサイトに大きな負荷をかけて、サーバを落としてしまうことがあり、これはもちろん規制されたり、酷い場合は罰せられたり民事的な処置を講じらえてしかるべきであろう。だが、これについても Stable Diffusion の拡散モデルをつくるにあたって、どこかのサイトに大きな被害をもたらしたという証拠がないし、いまとなっては調べることも難しい。したがって、ここは今度は何らかの法的な牽制は必要だと思うが、僕が使っている初期段階の Stable Diffusion 1.5 については、利用することの違法性や道義的な問題を問うことは難しいと思う。ただし、生成した画像がトレーニングに利用した元の画像と「実質的に似ている」場合は、もちろんアイデアではなく表現を模倣していることになるのだから、これには問題があるだろう。よって、生成した画像が特定のイラストや写真と実質的に区別できないほど似ていないかどうかを、最低でも画像検索して確認するくらいはやったほうがいいと思う。

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