Scribble at 2023-07-23 14:48:46 Last modified: 2023-07-23 16:48:01

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結構な話題になってる事案だが、まず第一にデザイナーとして言わせてもらうと、画像生成 AI の技術を利用することについて、一般論としては何の問題もないし懸念もない。

そもそも、現代の「デザイナー」と称する人々の大多数だって、デザイナーと称していながらフリーハンドでイラストも描けないわ、一眼レフでまともな写真を撮る技術もないわ、レタリングで明朝体のポップも描けないわというレベルの、それこそ Illustrator CC 2023 や Premiere Pro CC 2023 のオペレーターでしかない。そもそも大半のイラストレータやデザイナーは、アプリケーションのオペレータなのだ。よって、どれほど矜持だ技能だと言おうが、紙と鉛筆だけで納品レベルの成果物を作れないような人間が「デザイナー」とか「イラストレーター」と名乗って、なにか Stable Diffusion を使って大量の画像を出力している、僕らのような「魔術師」たちよりも本質的で高度な仕事をしているかのように言う資格も権利もないのである。もちろん、僕も納品レベルどころかフリーハンドでまともなイラストも描けない。レタリングは中学生の頃に実家の手伝いで山ほどポップを描いた経験や、東京で雑誌の編集者をしていた当時に(まだワープロすら出たてで、電算写植を発注するコストが高かった頃)自分で手書きの文字で版下を作ったことはあるが、要するにタイポグラフィに知識や経験が偏っているので、やはりデザイナーを名乗っていても「まとも」ではないという自覚はある。

要するに、まともではない連中がデザイナーやイラストレータを名乗って既に仕事をしている状況にあって、何か既得権益であるかのように画像生成 AI の利用をまるで違法行為であるかのように(違法アクセスで漏洩した特定の checkpoint モデルを使うことに問題があるのは分かっているが)語るのは、はっきり言って loaded language や theme-setting のバイアスである。現状の画像生成 AI の利用で問題があるのは、著作権を無視して大量にスクレイピングした「学術研究用」のデータを使って checkpoint モデルをつくったという「著作権ロンダリング」と呼ばれている手法であり、元のトレーニング・データが著作権法に抵触しない画像だけであれば何の問題もないわけである。実際、一部の萌えキャラやご当地キャラの画像データを著作権をもっている当事者自身がわざわざトレーニング用として無償で配布・公開し、トレーニングで作成したモデルを使って生成した画像の二次利用を推奨している事例すらある。

上記の事例では、利用しているイラストの品質がかなり悪いために、そもそもイラストとしてのできばえが悪いという点でビジュアル・デザインを舐めていると批評することはできるだろう。そして、そういう点について品質を維持したり高める技能や知識や経験をもつからこそ、デザイナーやイラストレータの役割や価値があるのだと言えばいいのである。それを、やれ画像生成 AI を使っていることを掲示するように義務づけろなどというヒステリーを起こすやつが出てくるのは、困ったことである。もちろん僕は、リバタリアンのように愚劣な連中を支持しているわけではない(あいつらは、基本的に経済や文明の発展のためなら違法行為も許されるという人でなしだ)。違法に入手した checkpoint データやモデルを使っていないというステートメントは必要だろう。だが、画像生成 AI を使って成果物を納品すること自体を非難しても意味がない。それは、画像生成 AI の使い方が下手な業者に依頼したことがいけないのであって、技術の是非とは別である。

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