Scribble at 2021-05-07 19:30:25 Last modified: 2021-05-24 12:34:24

添付画像

ジョン・コルトレーン(1926-67)。そのサックスから迸る音は、ジャズという音楽を根本から変えた。本書は、世界的に知られる研究家が著す、決定版評伝である。発掘資料、貴重写真、関係者へのインタビュー記録などを駆使し、ジャズの可能性を極限まで追求しつづけ、ついにはジャズに殉じて逝った男の全人生を描く。

コルトレーン――ジャズの殉教者(藤岡靖洋、岩波新書、2011)

先に紹介した藤岡靖洋氏の著書を買ってきた。1/3 くらい読んだところだが、なかなか面白い。コルトレーンについても詳しく書かれているが、それだけでなくジャズの歴史を概観できるようにもなっているので、過去に流行した色々なスタイルのジャズについて聴いてみようと思えるし、コルトレーンと関わった人々についても興味が出てくる。ということで、YouTube にアクセスする頻度がやたらと増える。

ともあれ、音楽家について書かれた新書サイズの評伝は圧倒的にクラシックとアイドル歌謡が多いため、藤岡氏の本書が良い先鞭となって、ジャズやロックや演歌といった他のジャンルでもたくさん書かれることを期待したい(もっとも、マイルス・デイビスについてだけはつまらない本が山のようにあるわけだが)。正直、自分で歌詞や曲を作っていたわけでもなければ10年も経たずに芸能界を辞めてしまった山口百恵の本なんて幾ら出されようと過大評価もいいところだし、おニャン子以降のアイドルを取り上げた本なんて社会学や思想語りが大好きな俗物ライターどもに書かせた広告でしかない。それに比べたら、本書は(岩波文化人がお好きな「人権」といったテーマに関わるからこそ出版できたのかもしれないが)コルトレーンが生きた時代の情勢も含めて、書かれるべき人について丁寧に書かれており、一読をお勧めできる。

もちろん、本書には詳細な情報が足りないと感じるところもあるにはあるが、それは新書という制約の中では仕方ないことであろう。昨今、やたらと増えてきた厚くて高額な新書の乱造に強い疑問を覚える身としては、新書という判型を採用した出版の趣旨を忘れてもらっては困る。本書で不足を感じたら自分で更に調べたらいいだけだ。実際、ここを書き足している時点で半分くらい読んだのだけれど、途中に出てきた出来事や事件や人名などについて、更に調べたり関連する本を読みたいと思えてくる。

本を読むというのは結局のところ、こうした情報や知識のネットワークを広げてゆくための足がかりを得ることに他ならず、一冊を読了するだけで〈分かる〉などということはありえないのである。それは、神ならぬ被造物であるヒトの限界ゆえだと解釈する人がいるかもしれないが、そういう解釈だと〈自分は人を超えている〉という愚劣な自意識をもつキチガイに逆に優越感や万能感をもたせる理屈を与えてしまう。また、そういう〈一冊で事足りる書物〉としての The Bible を盲信したり、それに匹敵する書物が存在する筈だというファンタジーなり青い鳥症候群なりに陥る若者を増やすだけだ。よって、本書に不足があるとしても、それは当然のことだろうし、ここから更に調べて新しいことを知ったり学べるというエキサイティングな機会をもらっていることを我々読者は喜ぶべきであろう。

[追記:2021-05-08] なお、編集について少しだけ違和感を覚える。たとえば、何箇所も拗音の二文字目や促音あるいは長音を行頭に置いていることだ。日本語文書の組版として基本的なルールを無視しているように思うのだが、編集ソフトの禁則処理を正しく設定していないのだろうか。

  1. もっと新しいノート <<
  2. >> もっと古いノート

冒頭に戻る


※ 以下の SNS 共有ボタンは JavaScript を使っておらず、ボタンを押すまでは SNS サイトと全く通信しません。

Twitter Facebook