Scribble at 2021-05-08 09:27:53 Last modified: 2021-05-11 13:34:52

「アスリートやその他の表現者の方も含め様々な方々が自分の夢に向かって一生懸命頑張っていることは何一つ咎められるようなことでもなく素晴らしいことで、それで勇気をもらう人もたくさんいると思います。ただその舞台を行うかどうかはまた別の話で冷静に判断することになりますが、それは別の話です」

為末大氏、五輪行うかは「別の話」池江璃花子ツイートに持論

競泳の日本代表となった池江璃花子選手に、Twitter でオリンピックへの出場辞退(とオリンピックの中止)を申し出てくれという意見が多く寄せられているという。僕はこの状況でオリンピックを強行することには反対だが、それを選手個人に出場辞退も含めて要求する人間というのは、はっきり言って恥知らずもいいところだと思う。「それは別の話です」という為末氏の発言は抑制が効いているけれど、もちろん趣旨としては、「お前らこそオリンピック選手を政治利用してんじゃねーよ」という心持ちだろう。

ワクチンも十分に普及しておらず、治療薬に至っては全く存在しない世界規模で流行している感染症に慄くのは分かる。誰だって、大義もなくやってくる外国人に変異種を持ち込まれては困るし、逆に彼らへ感染させる責任も負いたくはないだろう。傍証として、東京都が5月6日に実施した PCR 検査数は12,000件ほどだが(陽性者は591人)、大阪府は14,000件である(陽性者は747人)。陽性者の数は検査数や人口に比例すると考えたら、東京都は大阪府の1.6倍の人口があるため、大阪府の人口あたりの検査数と比率を合わせて2,200件ていどの検査をしていたとすれば、陽性者の数は945人と推定できる。他の都道府県と比べて大阪府にウイルスが蔓延する特別な事情がないとすれば、単純に言って東京都の感染者数が大阪府のそれよりも少ないのは、検査の数が少ないからなのだ(極端なことを言えば、検査数が100件しかなければ、全員が陽性だったとしても「100」を超える数字にはならない)。

つまり、東京都の周辺でオリンピックを開催するリスクは、数字として出ている陽性者の数が大阪府よりも少ないというだけでは公衆衛生上のインパクトを正確に測れない。自治体ごとの検査数という母数の差が陽性率を割り出して比較するにあたって考えられる誤差を超えるほど大きくては、自治体どうしの陽性者数を比較する意味がないのである。よって、大阪府よりも陽性者数が数字として少ないから安全だという議論は話にならない。ましてや、どれほど厳重に選手を隔離するだのと言ってみたところで、それだけの体制を用意するために既存の患者に対するサポートを弱めてよいわけがない。高校時代に陸上部に入っていた人間として敢えて言うが、たかがスポーツ・イベントのためにそんなことしていいわけがないのだ。

だが、選手にボイコットや辞退を求めるのは筋違いもいいところだ。選手は競技したいに決まっており、客観的に言って「たかがスポーツ・イベント」であっても選手とはそういうものである。こんなことは、わざわざ嘉悦大学とかいう日本のどこにあるのか知らない大学の些末な教員(しかし陣笠として内閣官房参与に登用されている)が言わなくてもいい。

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