Scribble at 2020-08-14 16:48:34 Last modified: 2020-08-15 10:03:16

何度か書いているように、高校までの経験から言って、数学の教科書や参考書や問題集というものは慎重に扱わないといけない。質問の書き方に省略があったりするからだ。例えば、「x^2+ax-3a+6 という整式があるとき、a と x については何次式か」という問題があるとしよう。実際、こういう設問の問題集や参考書はたくさんある。そして、僕はこういう質問をされると、a と x について《それぞれ》何次式になるのかと回答したくなるわけだが、たいていの参考書や問題集では a と x について《両方を考え合わせたときに》何次式になるのかと問うている。よって、前者の意味であれば答えは「a については1次、x については2次」となるが、後者の意味であれば答えは「2次」となる。

恐らくこのように「文字について着目した場合の次数」を答える場合、一つの文字について着目するときは「a については~」と書けば誤解の余地はないものの、二つ以上の文字について着目するときに「a と x については~」と書いてしまうと、「と」が "and" の意味なのか "or" の意味なのか分かりにくい。さらに、仮に "and" だとしても、それは「一緒に考え合わせる」という意味での "and" のか、それとも回答として二つを同時に答えるという意味での "and" なのかが不明確な脈絡だと、英語に直したところで混乱は避けられないように思うのだ。そして、これは僕の読解力が低いせいなのかと思ったら、同級生の中でも同じような理由で間違える人は何人かいたのである。僕の母校(いちおう大阪でも有数の進学校ではある)でそういう実態があるのだから、同じような誤解をしている人は少なからずいる筈で、こういう誤解を生じないための表現はないものかと思う。(数学の設問で「個別に分割して」という意味なら必ず「と」ではなく「それから」とか「そして」などと違う言葉を使うと決まっているなら、それを教えておけば「と」は一緒に考え合わせる意味にしかならないと生徒も理解するだろう。しかし、数学の教育では、なんと言っても足し算や掛け算に人として正しい計算順序があるだとか、あるいは分数は定規を使って書かねば人として恥ずかしいなどと言うバカもいるくらいなのだから、およそ修士号・・・ちなみに数学ではなく教育学の修士号すらもっていないような教員たちに期待はできそうにない。)

結局、こういう設問では「文字に着目する」とは言っても《個々に着目する》という主旨ではなく、複数の文字にまとめて着目するのだから、「a と x とを一括して着目すると~」とか「a と x を文字として区別せず着目すると~」などと表現するしかないのではあるまいか。文字として区別しないなら、たとえば a*x^2 という単項式は文字としては z*z*z という3次の扱いとなり、x^3*a^2 という単項式は文字としては z*z*z*z*z という5次の扱いとなり、次数を数えるだけなら何の問題もない。ただ、このような表現を使ってしまうと、おそらくは実際に式を整理する手順の一部まで教えてしまっていることになって、教育の実務としては使うのが難しいのかもしれない。すると、最初に教えるときに、教員たちは「『と』と出てきたら、これは一括して扱うことなのだ」という、いつもながらの「解法」とやらを生徒に教えなくてはならなくなるというわけだ。これはこれで、一種の「教育災害」とか「言語災害」と言うべきものではあるまいか。

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