Scribble at 2021-10-24 18:49:27 Last modified: 2021-10-24 19:17:19

読書が苦手だったころの僕は「全部の文章や言葉を理解しよう」としていました。そのため、わからない単語や慣用句が出てきたらいちいち辞書を引いて調べたり、わからない文章についてずっと粘って考え込んでしまったりしていたのです。

東大生は絶対にやらない「効率が悪い人特有の本の読み方」

まず最初に指摘しておくと、冷静に考えたら分かることだが、この記事のタイトルは錯覚を起こす巧妙なレトリックだ。「東大生は」と書いているけれど、著者は現役の東大生として同級生の何人に読書の仕方を聞いたりアンケートしてみたのだろうか。「東大生は」と書いているが、これは「僕は」と言う意味だろう。もちろん、「東大生の全ては」とか「東大生の32.8%は」と書いていないのだから、自分だけの話を「東大生は」と書いても厳密には嘘ではない。しかし、こういう表現を使えば「東大生に入るような何らかの能力をもつ人間であれば、その多くが」というニュアンスで誤解される可能性があることくらい、想定してタイトルをつけているだろう。もしかすると、このように姑息なタイトルのつけかたは編集者から教えられたり、あるいは編集者が勝手にタイトルをつけたのかもしれないが、内容の未熟さだけでなく、こうしたタイトルの付け方一つを取っても、著者あるいは編集者(何歳の人間なのかは知らないが)の程度が知れるというものだ。

さて内容については、確かに言わんとすることは分からなくもないし、実際に僕もそういう読み方が一つのアイデアだと思う。7月の末から数ヶ月ほどビジネス書を読んでいた頃も、当サイトの論説で紹介しているように、最低でも一つは学ぶべきこと(賛同できることとは限らない。その本がクズだったと分かるだけでも一つの成果だ)を見出すのが目標だった。しばしば大学受験の参考書や新卒向けの勉強法などと称してて紹介される「分析的読解」と称する読み方は、上記記事の著者が想定するように効率が悪いし、何よりも書物全体の主旨がいつまでも分かり辛くて意欲が減退してしまうだろう。

ただ、それだけで次から次へと〈情報処理〉やら〈速読〉していくだけでいいというのは、東大に入ったというだけの些末な成果があるだけで、後は二束三文のライターとして生活するしかない、凡庸な社会人の思い込みである。われわれのように大学院へ進学するまでもなく、自分にとって大切で必要な本を読む場合には、丁寧に読む必要がある。あるいは、既に読んだことがある本を再読するときにも、そういう緻密な読解をしてもいい。

最後に、ほぼ最初の段落で指摘したことと同じ趣旨で書くのだが、この手の学歴コンプレックスを操る文章は、著者自身について調べたり冷静に考えたら、その大半が取るに足らないものだと分かる。すぐ前の段落で述べたように、この記事の著者は確かに東大には合格したのかもしれないが、いまやっていることは何なのか。東大の席次として、どのていどの有能な学生なのだろう。このライターが学部生として学術誌に論文を掲載してもらったとか、あるいは司法試験や中小企業診断士試験に合格したとか、その手の業績を上げていれば説得力はある。でも、ただの東大生では全く説得力はないだろう。なぜなら、受験勉強に必要なのは読書ではなく、大量の問題を解いたり単語や用語を覚えることだからだ。たとえば現代文の試験で点数を上げるのに必要なのは、文学全集を読破することではなく、予備校で解答テクニックを覚えることである。日本史で偏差値を上げるために受験生がやるべきことは、膨大な数の歴史書を読み漁ることなどではない。はっきり言って、受験生にそんなことをする暇などないのだ。

つまり、この著者が言ってることは、別に東大に入るための能力とは何の関係もないし、東大に入ってから重要なことだとも限らない。同じく、何人かの息子や娘を東大やハーヴァードへ進学させた主婦の与太話が何年かに1回のペースで出版されるが、真面目に調べれば、そんなことをしてない家庭の子供の方が東大やハーヴァードには多いと簡単に予想できる。そして、そういう主婦と同じことをして失敗している家庭も多いということが分かるだろう。日本の教育社会学者なんて、こういうことすら調べようとしないものだ。おおよそ日本の社会学者というのは差別と風俗、あるいは生活や社会とかけはなれた L だの G だのという観念にしか興味のない連中なので、恐らくは何年が経過しても出版業界は同じことを繰り返すと思うが(そして、日本の学者は出版業界を敵に回すと色々な意味で損だ)、業績を上げる人間、そしてそういう人材を育てるまともな現実の家庭というものは、粛々とそういう馬鹿げた話題を無視して生活する。

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