Scribble at 2022-10-06 16:59:43 Last modified: 2022-10-06 17:00:16

日本語としては問題ないように見えても、正確に表現したり省略のない表現にしようとすると、やはり字面として体裁の悪い文言になってしまう場合が多い。たとえば、さきほど書いていて没にした落書きの一節を例として挙げると、「前に働いていた会社の一つは、天満にあるノース・ヒルというウェブ制作会社だ」という文である。もちろん事実なので、僕がノース・ヒルに在籍していたという内容について興味をもつ人だっているかもしれないが、それはまた別の話としておこう(実際のところ、僕はノース・ヒルには半年も在籍していなかったのだけれど、短い間でも色々と印象に残る逸話がある)。

ここでの話題は別だ。僕は、自分で書いておいて言うのも変だが、いま紹介した文に違和感を覚える。違和感を覚えるところを抜き出すと、以下の箇所である。

「前に働いていた会社の一つは、[...] というウェブ制作会社だ。」

つまり、主部に使われている「会社」という言葉を補語の中でも使っていて、この繰り返しが嫌なのだ。中学時代にも文法を担当する英語教師から、"This pen is a good pen." のように同じ単語を繰り返すのは良くないと強く教えられた人も多いことだろう。実際には、繰り返しになっても構わないフレーズが英語には幾つもあるし、ネイティブには言葉の繰り返しを不自然だと思わない人だって多いのだが、明らかに変な印象を受ける繰り返しは、やはり日本語であろうとヒンズー語であろうとエスペラントであろうと不自然なのである。

よって、僕はこういう場合に幾つかの書き換えを検討して、実際に推敲しているときに書き換えたり、あるいは書きながら、文章の後半で同じ言葉が出現しないよう、同じ意味の言葉を補わなくても意味が通じるような脈絡に軌道修正してしまうことがある。例を挙げると、

「前に働いていた会社の一つは、[...] というウェブ制作プロダクションだ。」(似た意味をもつ言葉)

「前に働いていた事業者の一つは、[...] というウェブ制作会社だ。」(似た意味をもつ言葉)

「前に働いていた会社の一つは、[...] というところだ。」(もっと抽象的な表現)

「前に働いていたところの一つは、[...] というウェブ制作会社だ。」(もっと抽象的な表現)

「前に働いていた会社の一つは、[...] という。」(述部へ繋がる別の脈絡)

しかし、言葉の重複を避けようとするだけで、文の書き始めから一定の(内容とは必ずしも関係のない)牽制がはたらいているのだから、こういう状況で文章を構成することには、本来の伝えるべき内容とか文章の正確さという要求から言って無用の歪みが生じる恐れもあろう。特に文体とか文章の流麗さといった、無視するべきでもないが些末としか言いようがない事情や動機に引きずられて論旨を自分でゆがめてしまうような自意識プレイに陥ることは、哲学者どころか、そもそも大人の日本語話者として避けなくてはいけない重大な自己欺瞞であろう。よって、ひとまずは言いたいことを正確にタイプしてみて、同じ言葉の繰り返しが奇妙に思える場合だけ、脈絡を変更するという選択肢は採らずに、同義語で置き換えることだけを検討するようにしている。もっと抽象的な表現に置き換える方法もあるにはあるし、そういう方法を選ぶことが全くないというわけではないが、僕は文体として「僕のは~」とか「~していたのは」といった、何を指していたり受けているのかはっきりしない「の」とか「事」という、文法上の場所を占める役割しかない不明確な語句を多用する表現は、単純に嫌いである。

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