Scribble at 2022-05-03 09:33:42 Last modified: 2022-05-04 09:22:34

使い始めてから気になっているのだが、外付けの SSD ドライブにマシンの内臓 SSD ドライブからファイルを移動させるのが遅い。両方ともドライブは SSD で、しかも USB 3.1 のインターフェイスを使っているのに、1 MB ていどの HTML ファイルを転送すると常に何か引っかかったような挙動があって、転送の様子も「様子」をファイル・マネージャに表示されるプロセス・インジケータをいちいち眺めていられるほど遅い。内臓 SSD と内臓 HDD とのあいだで 100 MB や 1 GB のファイルを移動させているのと変わらないくらいの所要時間に思える。

一つの原因として、もちろん内臓 SSD は内臓している他のストレージとでファイルをやり取りするときは問題なく速いのだから、外付け SSD に何らかの初期不良が考えられる。僕は SSD を使い始めた10年以上前から(その頃は 100 GB ていどのドライブが15,000円くらいした)、SSD は HDD よりも衝撃などに強いため、会社で営業職などに貸与するノート・パソコンでも積極的に割高な SSD 搭載モデルを採用してきたけれど、ストレージとして長く使える機器だとは思っていない。データを抹消しようと、物理的に読み書きの回数に限度があるストレージなのだ。これは、HDD についてはディスクの酸化などによる劣化とは別の原因による限度ではあるが、恐らく読み書きできるストレージの原理的な制約だと言ってもいいのだろう。

もちろん、記録メディアのように強力な方法で書き込んだ後は容易にデータが失われない媒体もあるにはあるが、DVD-R や Blu-Ray にしても紫外線などによる劣化だけでなく材質そのものの安定性が自然に失われてゆく過程で組成なり原子配列が壊れてしまうため、長期保存できる M-DISC と呼ばれる規格で記録したメディアでも、せいぜい100年くらいしかデータを安定して保存できないといわれる。崩壊の仕方に規則性があれば、崩壊している状況から元の組成なり原子配列を復元できるのかもしれないが、いったいそれにどれだけのコストがかかるのか。会社で、いわゆるストレージの「サルベージ業者」にデータの復元を依頼したことが何度かある。ああした業務で復旧できるデータというものは、大別してストレージの機器が故障するという物理障害と、物理障害やファイル・システムの異常にもとづくセクター不良という論理障害に分けられるが、どちらにしても壊れたものをもとに戻す規則的な対処が可能である場合に限られる。そして、実のところパソコンを使っていてハード・ディスクが不調となる状況の大半は壊れ方が規則的であるがゆえに、サルベージ業者のビジネスが成立するというわけだ。これに対して自然に起きる材質の劣化とか崩壊については、考古学で使われる carbon dating 法の原理と同じように、統計的な尺度での結果として何パーセントの原子配列が変わってしまうという〈壊れざま〉と言うべき現象なので、これを復旧するということは時間を巻き戻すことに近く、現代のストレージ技術で製造されている密度の物質については殆ど不可能であるか元の状態を計算する時間がかかりすぎて、必要な計算リソースなりコストが莫大になると思う。もちろん将来は同じだけの計算をするにも計算リソースが少なくコストもかからなくなる可能性はあるので、壊れたストレージを保存しておくよう勧める人もいるが、僕の見立てではストレージ機器を構成する材質が劣化して復旧不能なまでに崩壊する速度の方が速いと思う。Blu-Ray ほどの密度で記録されていない CD-R のようなメディアですら2年も経過すればデータが読めなくなる場合もあるのだ。

しかし、そもそも、なんでこんなことを気にする必要があるのか。自分が使うという前提で考えると、データなんて僕自身が死ぬまで使えたらいいだけだ。大半の人間にとって、それは長くても50年くらいあれば十分だろう。それ以上の保存を要する情報なんて僅かだし、だいいち50年も覚えていて使い続ける情報なら脳というストレージにしっかり保存されるはずで、記録メディアなど不要というものだ。しかし、100年の保存が利くストレージなら10年で簡単にデータが失われたりしないとか、1,000年の保存ができる記録媒体が10年で劣化することはないといった、或る種のトリクル・ダウンが期待できるという想定で技術革新は続いていく。1,000万画素のスマートフォンで撮影する方が10万画素のデジタル・カメラで撮影するよりも〈良い〉写真が撮れるかどうかは別だし、綺麗に撮影できたからといって被写体が(どの意味においても)〈良く〉なるわけでもないが、10万画素の解像度では分からなかったことが1,000万画素なら分かるということもあろう。たとえば最近は衛星写真を使った民間の地図サービスでロシア軍の展開状況や北朝鮮のミサイル工場がバレたりする。Kinky タクシーのドライバーが深夜に公園の脇で立ち小便する様子が世界中に配信されるのも時間の問題だろう。なんにせよ、色々な意味で大は小を兼ねるというわけである。ここ最近だと、冒頭でも紹介したが、100年はデータを保存できるという M-DISC 規格の記録メディアが登場している。しかし、政府や公共団体の記録メディアであれば、これでも不十分だ。50年や100年が経過しても簡単にはデータが復旧不能とならないようなメディアなり記録方式が登場するには、まだ技術の進展は途上と言ってもよいのだろう。

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