Scribble at 2025-06-24 12:23:59 Last modified: 2025-06-26 19:47:38
Liquid Glassを採用したiOS 26は2025年秋頃配信予定となっていますが、開発者向けのベータ1がいち早く利用可能となっています。しかし、この開発者向けベータ1を利用したユーザーから、「Liquid Glassで見た目が進化したコントロールセンターが見にくい」という苦情が寄せられていました。
Liquid Glass スキームが発表されてから、もちろん多くの人々がスキューモーフィズムへの回帰だとか Windows Vista のモノマネだとか言っているわけだけど、こうしたデザインの方針とか基準というものは、現実の物質的なユーザ・インタフェイスや器具や部品を模倣する効用があれば採用して構わないし、なければ特に採用しなくてもいいというだけの話にすぎない。フラットにするべきとか、立体化すべきとか、何の基準も効用の見込みもなしに議論すること自体、僕らのようなプロのデザイナーから言えば、UI なり UX にかかわる知覚心理学とかアフォーダンスとかユーザビリティを知らないか、あるいは語るだけの背景知識もなければ、それを語ることでデザインの良し悪しを判断しようとする意欲や動機がない人達の床屋談義にすぎない。また、当サイトでは15年以上も前から言っていることだが、ユーザビリティ上の効果を判断しないで、こうしたビジュアル・デザインについて黄金比だの美しいだのという見た目だけの感想を投げつけ合うだけで本質的な課題や方針や要件について何の関心もない連中の bikeshedding と言うべき議論も、結局は時間の無駄である。
上のような事例では、コントロール・センター(iPhone ユーザでない人に説明すると、Android なら「クイック設定パネル」に相当する画面のこと)の視認性が良くないという問題なのだが、これは Liquid Glass がまさしく液体やガラスのように透過した UI コンポーネントを画面上に配置するというコンセプトである以上、他の画面でも生じ得る問題だろう。そうなると、次に考えるべきことは、それらのコンセプトを維持したまま混乱が生じないように微調整を繰り返していくか、あるいは従来のフラット・デザインの UI も選択して使えるような余地を作るかだ。
僕は、20年ほど前に Windows のデスクトップ環境、とりわけウインドウやタスク・バーなどの UI デザインや使い勝手を自由にカスタマイズできる「互換シェル」というのを使っていたので、こういう選択の余地があることは良いことだとは思うので、一つの UI スキームに固執してユーザに押し付けるべきではなかろうと言いたい。のだが、やはりそれは一定のリスクを弁えたうえでの話なのである。最も大きなリスクは、もちろん見た目が格好いいだけで、実は読み込まれているモジュールから外部のサーバにマシンの情報を通知しているとか、ショートカットをクリックするとプログラムが起動するだけでなく、同時に或る YouTuber のランダムな動画に「いいね」ボタンをクリックする RPA が動く小さなブラウザが起動するとか、そういうありとあらゆる情報セキュリティ上のリスクがありえる。他人が開発したり動作設定のファイルを「テーマ」として配っている環境でコンピュータを使うというのは、そういうリスクを背負うことなのだ。もちろん、だからといって「馬鹿はエクスプローラを使っとけ」みたいに傲慢なことを言いたくはないので、自由や選択の余地は作ったほうがいいと思うのだが、その自由や選択の余地を手にしても、それに見合う責任や努力を負う気がある凡人がどれくらいいるのかは、現実の政治や経済や教育などを見れば、国や地域や時代がどうあれ、暗澹たる気分になる。なので、カスタマイズそのものは支持するけれど、僕自身は不見識なガキや馬鹿や無能のサポートや尻拭いをするつもりはない。互換シェルのサイト(crossedge.net とか "InterfaceWorkshop" というサイト名だったのを覚えている方がどれくらいいるかは知らないが)でも、必要以上に理屈を全面に出して「初心者お断り」の雰囲気を作っていたのは、そういう事情なり気分があったわけである。
なんにしても、この Liquid Glass について一般論だけを言わせてもらうなら、この「透ける」ということ自体に何の効用があるのか、いまいち見た目の美しさを除外すると強力な理屈が見えてこないんだよね。Apple のデザイナーは、そのあたりを真面目な HCI なり知覚心理学なりの議論として示すべきだと思うんだよ。もちろん、Apple や Microsoft など GAFAM レベルの企業で R&D やプロダクト開発の部署に所属している人たちは、学術研究者と同じレベルの人々なので(実際、日本とか言われている東アジアの僻地にある殆どの IT ベンチャーや IT ゼネコンとは違って、大半の社員が博士号をもっているどころか、れっきとした研究者として色々なところで発表したり論文を書いたり本を出している。いわば、Preferred Networks のエンジニアみたいなレベルの人達が海外では普通なのだ)、SDK のような文書で天下り式に仕様を公表するだけでなく、きちんと議論を展開してもらいたいものだと思う。