Scribble at 2022-03-25 10:09:07 Last modified: 2022-03-25 10:21:05

さきほど書いた話の続きとなるが、たとえば ssh あるいは実装としての OpenSSH でもいいが、これについてしっかり書かれている書籍やオンラインの日本語のドキュメントというものは、利用されている実績の数に比べて「異様」と言ってもいいくらい貧弱だ。

まず先に言っておくと、ウェブ・ページとしては検索結果で分かる通り「ssh とは」みたいなガラクタ、もしくは SEO 効果というスケベ根性しか頭にない「お得情報」みたいなページが大半を占めている。クズどもが。ssh オタクでもなんでもいいが、これだけで一つのサイトを作ってるほどの人材なりリソースは皆無だ。それどころか、最近は "ssh" だけで検索すると結果は「スーパーサイエンスハイスクール」のページが半分くらいを占めるようになっている。

次に日本語の書籍として ssh を専門に扱っているものを調べると、『OpenSSH[実践]入門』(2014)と、実務家ならご存じのとおりオライリーから翻訳が出ている『実用SSH ―セキュアシェル徹底活用ガイド』(第2版, 2006)くらいのものだろう(「この本のここにも書かれている」なんて下らない指摘は無視しよう。そんなものがまともな分量や質の解説になっている試しなど一つもない)。他にも絶版になっている本がいくつかあるようだが、古本のレベルで使い物になるのは ssh の原理に関する解説だけであり、それらは(これも既に品切れか絶版で書店にはないようだが)『実用SSH』でカバーされている筈である。僕がたまにやっているような、いわゆる「インターネット考古学」に関心があって何かの逸話とか経緯を調べているわけでもない限り、われわれ実務家が歴史的な蘊蓄をオタクよろしくほじくり返す必要はない。

しかし、海外では書籍が充実しているのかというと、そうでもない。せいぜい、"Implementing SSH: Strategies for Optimizing the Secure Shell" (2003) が出ているていどであり、ssh を専門に扱った書籍は他に殆どない(いわゆる "independent publishing" として出ている、玉石混交というか石だらけの自称出版物はいくつかあるようだ)。それでも、プロトコルの一つを正式に使っていて、RFC も数多く出ているという英語の文書としての豊富さという利点があるため、書籍としてまとまっていなくても十分に体系的な知識を無料で簡単に読めるという事情があり、英語が読めない日本の学生に比べて圧倒的にカジュアルに情報に触れたり話題にできる。

RFC などの文書は最初から英語で書かれている。そのため、リリースした時点で必然的に競合と情報を共有することになるので、文書を公開するまでの経緯についてはともかく、公開された文書に関しては全く何の優劣もない。しかし、日本では特定の企業やコンサルが RFC を翻訳するとなると、それは自社のリソースを使って競合を利する情報を普及させることになるため、どうしても二の足を踏むわけである。それに、いくら日本の大企業に勤める IT 人材が東大の修士ていどの腑抜け揃いでも英語くらいは読めるのだろう。自分たちが最初から英語でも読める文書を、CSR のような企業パフォーマンスでもあるまいし、わざわざ翻訳「してやる」必要などないというわけだ。大学教員ともなれば、その傾向は更に強いだろう。経済産業省の助成金でも出るならともかく、なんで学者が技術文書を無償で翻訳なんかしないといけないのか。アメリカの大学で研究してる連中はそんなことしない、というわけだ。

これでは、英語が読めるというだけの取り柄しかない有象無象ばかりが未熟な結果をばらまくことになりがちなのは、社会科学的なスケールの議論としても仕方のないことである。

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