Scribble at 2023-06-04 21:54:28 Last modified: 2023-06-04 22:10:37

単語集というものは、それぞれの人にとって必要な学習材料が何であるかを特定することが難しいからこそ、色々な種類の本が発売されている。つまるところ、どんなに奇抜なアイデアが盛り込まれていようと、単語集を買う最大の目的は「覚えやすく習得すること」ではなく、「自分がどの単語をまだ知らないかを突き止めるため」だからだ。

実は単語の覚え方なんて別に秘訣やコツがあるわけでもなんでもない。何度も覚えようとしたり何度も自分で使う他にないからだ(そのことだけを実直にできるからこそ、Ankiroid を始めとするスマートフォンのアプリケーションが好評を博しているのだ)。それを、緑や赤のシートで隠すだの、挿絵を色々と使うだの、あるいは「イメージしやすい」ような図表を使うだのと、あれこれと工夫したものが出ているけれど、実はああした奇妙なアプローチの単語集は全てまやかしである。そもそも、そうした単語集に収録されている単語は1,000や2,000くらいだが、ではみなさんが大学院を受験するために50,000ていどの単語を覚える必要があるとして、残りの48,000語をどうやって挿絵や図解してもらうというのか。出版社や著者に残りの単語を図解してもらうように Twitter で要望を述べたり、あるいは AI に出力でもしてもらえばいいと考えるだろうか。そんなイラストを集めたところで、英語の勉強にとって大切な原則を考えたら単なる気晴らしでしかあるまい。それとも、あと残り48,000語がイラスト化されていないからといって、大学院の受験を諦めるというのだろうか。そこまで言わなくても、他のやり方で単語を覚えると極端に効率が下がるとでも思っているのだろうか。

他の話題についても同じことが言えると思うのだが、イラストを挿絵として付けたり図解すれば覚えられるとか、あるいは効率が上がるというのは、はっきり言って錯覚である。それは、文章として的確な言葉を使っていない無能が単語集を作ったり編集しているからにすぎない。無能の仕事を基準にして、同じ程度のイラストを使うしか能がない無能の仕事と比べても、たいていはどうでもいいデタラメな結論しか出てこない。たとえば、知らない花があったとして、その花のイラストや写真を添付してもらうとしよう。たいていの人はそちらの方が「わかりやすい」と言う。それゆえ、全く同じ方針のもとに(実際、それは全く同じ発想の編集センスなのだ)、スカートの短い女子高生やアダルト女優まがいの衣装を着た魔術師や女戦士の漫画を描くのが、高校参考書や大学テキストのトレンドになったりする。しかし、実は花の写真を示されたところで、殆どの人は実物の花を正しく同定できないので、それを英語でどう言うか分からないのだ。そして酷いことに、多くの人は言葉よりも視覚イメージの方を優先して記憶してしまうことがあるため、視覚イメージとして似ているかどうかでしか花を同定できず、ちゃんと「三枚の花弁」などと書いているにも関わらず、何々色の花というだけでぜんぜん違う五枚の花弁をもつ花を似ているのどうのと言い始めたりする。

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