2021年10月13日に初出の投稿

Last modified: 2021-10-13

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鈴木隆祐『「通販」だけがなぜ伸びる』(光文社、2003)

本書は、みなさんご存知のジャパネットたかたやセシール(ライブドアに買収された後、経済犯罪を起こした親企業を見習ってか、郵便制度の不正利用事件を起こした末に消滅)や日本直販(既に倒産)といった、通販専門事業者なり通販を営む事業者を取り上げたルポである。正直言って、僕の所属企業の業態や事業とは関係がないし、僕がビジネス書を読んでいる理由の一つである、自らの生活なり考え方に役立てるという観点から言っても、かなり迂遠な話題だ。とは言え、毎月のようにアマゾンで本を買っているのだから、僕もネット通販のヘビーユーザの一人ではあろうし、そもそもネット通販だけに絞っても、いまや大半の人が利用者であろうから、生活者としての一般論から言っても無関係ではないのだろう。

でも、その経営手法やサービス展開やブランディングといったビジネスの観点は、正直なところ読んでいて感心はするものの、それ以上の価値を感じない。また、どれほど「理念」だとか経営「哲学」を語られようと、哲学者としての僕が読む限りでは虚しいというか空々しいという印象が強い。寧ろビジネスの話だけに専心するタイプの取材相手が語る、明け透けな商売人根性を眺める方が清々しい思いがする(人としては全く尊敬に値しないが)。

例えば、いかに『通販生活』で環境に配慮した商品を売っていようと、しょせんは群雄割拠する通販業界のプレイヤーであることに変わりはない。本当に無駄に商品を量産して廃棄するようなムダを地球の規模で減らしたいなら、皮肉なことに答えは社会主義の体制をつくって国家的な独占企業を作ることではないのか(少なくとも『通販生活』がお好きな左翼は、昔からそう言ってきたではないか)。自由主義経済の市場においてプレイヤーとしてとどまる限り、どこまで行っても制度的なフリーライダーもしくは寄生虫として「フェア」だの「ロハス」だの「反しかじか」を語る、高校生の弁論みたいなものでしかあるまい。

あと、ネット通販としてはアマゾンが巨大であるせいで、殆どアマゾンについて書かれていない本書は、もう現在では通販業界や市場を描くルポとしての価値がないと言えるだろう。おまけに、いまでは通販での売買を完全に侵食している「フリマ」もある。また、本書に登場する幾つかの企業は、僕もオンライン・コンテンツの制作を請け負った経験はあるクライアントだったので、実はこの業界と全く無関係ではないのだが、とにかくテレビ業界のサイト制作に匹敵するくらいの短納期と低予算だから、売上がなくてしがみついているような零細ウェブ制作会社ならともかく、売上に困っていない会社なら相手にしないような業界である。よって、本書では「自前主義」などと書かれているが、現実には発注の条件が悪すぎてどこもコンテンツの制作を請けてくれないのだ。そういうことは、はっきり言って通販会社の役職者にインタビューして表面をなぞるていどのライターには絶対に分からないことだろう。

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