Scribble at 2023-05-06 08:27:48 Last modified: 2023-05-06 14:55:55

添付画像

背側はステンレスならではの光沢を持つが、逆の先端側は鋭利になっているため、光を反射することがなく、黒く見える。この時、少しでも光っていれば、刃先は鋭利な角度を保っておらず、不良品となる。

検査(刃)

剃刀がうまく研げない理由なり原因というものは、もともと予想はついている。

第一に、研ぎ過ぎで両側のバリが交互に出来てしまうことに気づいていないからだ。僕がやっていてうまくいかない原因は、恐らくこれだろうと思う。金属を研ぐと、ちょうど十分に研げたと言える段階で終えることはできない。なぜなら、人には刃物の本当の先端など見えていないし、指先で感じることもできないからだ。人間国宝なら感じられるかもしれないが、何度も言うように髭剃りは水飲み百姓でもやっていた生活の一部であって、北斗神拳の伝承者でなければできないような秘儀ではないし、そうあるべきでもない。僕は、才能とか金で可否が決まるようなことは「生活」ではないと思う。そういう生活と関係のないことは勝手にできる人間だけがやっていればよく、そんなことでどれほどの成果が出ようと人類の叡智や存続にとって本当のところ大した影響はない(これは学問や技術についても言える。民生化は通俗化というリスクもあるが、学者や職人だけのものは人類の発展に寄与しない)。ともあれ、そういうわけで研ぐと知らないあいだにバリが生じる。そして、バリが生じることを前提にして、まともな(つまり自分たちが本当は刃先など見えてもいないし感じてもいないことを謙虚に弁えている)研ぎ師は刃物を研ぐはずである。そして、どのていど研いだら両側のバリを最小限にできるかは経験によっておおよその目安をもっていることだろう。他方、僕らのような素人は、そういう経験が不足しているため、要するにどれだけ研げばどれくらいのバリが出るかに気づかない。確かめるとしても、せいぜい指先で触ったていどの感触でしか分からないため、指先で分かる以上に微細なバリを無視して、片側を研いだら今度は反対側と、どちらを何度でも交互にバリを残したまま研いでいるだけなのである。

第二に、これはいきなり金にものを言わせて名倉だ京都の山で採れた石だとバカみたいな初期投資をする嬉しがりに多いわけだが、ぜんぜん研げていないということである。#10,000 の番手を越えるような細かい石で研いでも、そう簡単に刃先が削れるものではない。しかし、どれくらい時間をかけて研げばどれくらい削れるかという経験も知識もないままにやっていると、まるで冗談のような話だが、「1年くらい練習したら研げるようになった」などと動画やブログ記事で語っている人々のように、1年くらいかけてやっと髭が剃れるていどの刃先まで(1年がかりで!)削れたということがありうる。そして、その後は剃れるようになった刃先を再び馬鹿みたいに少しずつ削っているだけなので、それ以降も剃れる状態を(幸運にも)維持できるわけである。

そして第三の理由として、切れ刃と関係のない箇所を研いでいるからだ。これはここでも何度か説明したように、剃刀の刃先は何段階かに研ぎ方の角度を変えて作られており、刃先部分と刃背を砥面に密着させて研いでも、それは刃先の先端よりも内側しか研いでいないのである。これに気づかないでせっせと剃刀を研いでいる人々(中には剃刀を研いだ経験に乏しい、プロの研ぎ師すらいる)は、要するに小刃のない包丁を研ぐのと同じように切れ刃まで削って刃先を均してしまう。それで鋭くなったとか剃れるなどと言っているのだ。それからあとは、切れ刃が破壊されていることにも気づかないで、数か月ごとに研ぎ直せばいいだの、ふだんは革砥でいいだのと言うわけである。しかし、僕に言わせれば、そんなものは剃刀ではなく、剃刀の形状をした何か(razor shaped object)にすぎない。

適正に研いで切れ刃が鋭くなっているかどうかを確認するには、上記の貝印のページで検品作業として説明されている手法と同じことをやればいいだけである。つまり刃の先端(刃先ではなく edge ということ)を正面から眺めて、光学顕微鏡の場合は光を斜めからでも当てているのだから、光る面積が広いほど鋭さが足りないと判断すればよい。実際、全く剃れない Gold Dollar 66 に比べて、多少は剃れる Gold Dollar 100 と 208 は、光っている面積が 1/10 くらい狭い。それだけ先端が鋭いということだ。剃刀の顕微鏡写真を撮影した事例はたくさんあるが、正面から撮影している事例が殆どないのは不思議なことである。当サイトでも、まだ掲載していないので、今日はこれから外出するが、帰宅したら撮影して掲載しておこう。

  1. もっと新しいノート <<
  2. >> もっと古いノート

冒頭に戻る


※ 以下の SNS 共有ボタンは JavaScript を使っておらず、ボタンを押すまでは SNS サイトと全く通信しません。

Twitter Facebook