Scribble at 2022-02-24 10:55:36 Last modified: 2022-02-24 13:32:16

ガンダムの原案作家でもある富野由悠季という人物が、機会あるたびに「アニメばっかり観てるんじゃない」と言ってるのは、色々な理由なり意図があると思うけれど、一つにはこういう事情が考えられる。

僕は、歴史小説というものを好んでは読まない。もともと小学生として考古学者を志望していた頃も、森浩一先生は付き合いがあったようだけれど、たとえば松本清張氏が書いていたような「古代のロマン」を描くような〈お話〉の類は、彼の他の作品についての評価とは別に、考古学徒の一人として迷惑に感じていたものだった。それは、「素人が適当な想像だけで好き勝手に書くな」という権威主義というかアカデミズムのようなものも動機としてあるにはあったが、作品自体の内容だけではなく、それらが流布すると(もちろん考古学者の著作よりも流布しやすいだろう)多くの人々にとって先入観を植え付けてしまいかねないと思ったからだ。つまり、それと同じように、物事を他人の storytelling によって誘導されたり先入観として植え付けられたり、そこまでに至らない場合であっても、theme-setting の影響に置かれてしまうのは、アニメ制作においてクリエイターを志す人間にとっては致命的なリスクだと言える。何事かを誰かからの単純で無自覚な影響によってではなく、自らの理解や解釈で表現したいというなら、最初から客観的な観点なんて持てる人間はいないのだし、未熟な制作者にできることと言えば、先行する実績から距離を置くことだろう。

もちろん、伝統や先人の実績を無視するだけで「クリエーティブ」になれるなどと、愚劣な御伽噺を推奨したいわけではない。そうしたものに学ぶこともまた、何事かを生み出すためには必要であろう。特にたいていの凡人には。無視するのではなく、それらを相対化するために多くの異なる文学作品や芸術作品に触れたり、関連する科学や技術の知見にも広く手を伸ばしておくことが、先行する業績に行き先へのレールを引かれたまま上を走らなくて済む方法なのだ。

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