Scribble at 2021-09-30 15:26:54 Last modified: 2021-09-30 16:01:17

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本邦初!プロダクトマネジャーの全職務マニュアル

本書は、近年製造業などで熱い注目を浴びる「プロダクトマネジャー」のミッションと仕事内容を包括的に解説する職務マニュアルである。「プロダクトマネジャー」とは、新製品/サービスを開発→商品化→販売→販売後までのすべての責務を担うマネジャーを指す。つまり、個々の製品プロジェクトとマネジメン

トをあわせた職務である。プロダクトマネジメントとは何かに始まり、プロダクトマネジャーが身につけるべき知識(情報収集、トレンド予測、競合分析、商品開発、顧客セグメンテーション、ブランディング、マーケティング、コスト管理)から、プロダクトマネジメントの考え方を組織に導入するためのポイントまで体系的に学べる実務書である。新人マーケターやコンサルタントにも必携のスキルが満載!

プロダクトマネジャーの教科書

15年くらい前に、西新宿にある会社からの受託案件に関連して、プロジェクト・マネジメントの勉強がてらとして簡単に眺めた本を久しぶりに引っ張り出してきた。しかしながら、いま改めて読み返そうとすると強い違和感がある。学術研究の現場で数多くのテキストや体系的な解説書に触れてきた経験をもつ者であれば、本書のように総覧的で単純に分厚い書籍には、一定のリスクがあるということを弁えているだろう。つまり、必要と思われる事項が抜け落ちていても、初心者(これを初めて読んだ当時の僕も含めて)には分からない。それに気づくのは皮肉にもプロパーや、それなりに素養を積んだ者だけなのである。

本書にも同じリスクを指摘できる。カスタマー・レビューで "kaizen" を名乗る有名なレビュアーが指摘しているように、本書には商品開発、マーケティング、財務、ロジスティクスというプロダクト・マネジメント全般にかかわる「リスク・マネジメント」という観点が完全に欠落しており、現代の企業におけるマネジメントの教科書としては許されない「過失」の類とまで言ってよい。著者はビジネス・スクールの「プログラム責任者」であり、恐らく学者ではないために体系的な知識がなくて〈熱意〉だけで分厚い本を書いて満足したのかもしれないが、欠陥は欠陥である。いまや、こんなスケールの議論ができる大企業や上場企業のプロダクト・マネジャー(事業本部長クラス)で、この手の瑕疵とも言える欠陥を残したままの本を使って社内研修している人がいたら、それこそコンプライアンス違反を問われるだろう。

こういう風に書くと、システム開発の本についても言えることだが、すぐに「いや、まずは基礎としてこれだけの知識があれば十分だろう。リスクの話は後でしっかり教えたら良いのではないか」と言う人がいる。そして、そういう人たちが本当に商品の原材料や物理的な機構について product reliability なりリスクという観点でものを教えたり、システム開発では非機能要件としてのパフォーマンスや情報セキュリティや個人情報保護について、金儲けの話をした後に本当に教えている証拠など全く無いのである。バカというのは、自分自身がやってもいないことを前提に口先だけで反論するものだ。

実際には、そういうことを言って「世の中に貢献する」などと戯言を言いながら金儲けのことしか教えない連中は、安全性どころか将来の問題として自分の会社の財務やブランドにとって安全かどうかすら気にしない。目先の自分の部署の業績さえ出せたらいいという発想をするのが「サラリーマン」なのである。そもそも、体系的な知識も思考もできない凡俗に、後から不足している知識を補って十分な素養を身につけるインセンティブなんてないだろう。凡人というものは、自分の身の回り 2m 以内の〈セカイ〉が理解可能で制御可能であれば幸福なのである。もちろん、それはそれで構わない。社会科学のリアリティというのは、凡人が元来からして合理的経済人などという紛い物ではなく、認知的には〈そういうもの〉だという前提でモデルをつくるのであるから、その事実について善悪や是非を言っても無意味である。しかし全く何の期待もしないというわけではない。それだと社会科学を学ぶ効用なんて、どの理論が正しいかではなく、誰が大衆を制御するかという政治の話に集約されてしまうだろう。ただし、ミルグラムの実験やハンナ・アレントの著作が物語るように、凡人というものは、どれほど各人が個人として善良かつ誠実な人物であっても、組織において所定の決まった習慣やルールにもとづいて愚かな判断や行為をしてしまう傾向にある。

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