Scribble at 2021-11-12 08:59:36 Last modified: unmodified
アメリカの歴史を職人なり職工と呼ぶべき人たちの仕事ぶりや組織化など、色々な観点を組み合わせて論じていて勉強になった。最後の章では著者のアプローチが丁寧に解説されていて、更には従来の雑な産業史の説明が多くの点で間違っていることを説得力をもって展開している(本論にも砕けた言い回しで著者のニュアンスが示唆されている箇所が幾つかある)。
僕は、アメリカ史の一つの見方というだけではなく、経営史、それからアメリカの科学哲学を支えた精神の一部がどういう経緯で用意されたのかを本書に読み解こうとしていた。もちろん、本書に書かれた事柄を以て単純に思想や哲学との関係を考えたり論じようとは思わないが、少なくともこうした史実についての理解を欠いては、当地での精神史なり学問が成立したり展開する様子を満足に描けるとは思えないのである。
それから今年の夏頃からたくさんの経営書やビジネス本を読んでいて、とりわけアメリカでこれほど経営学が発達したり、ビジネス本が続々と書かれている由来を以下のような一節でも理解できた。
「アメリカの職人が伝統的に広い職種や技能への応用力をもっている強みは、工程の変化や専用機の導入に際しても、柔軟な対応として発揮された。個々の工程に専用機械が配されていっても、親方や職長は簡単に技能上のリーダーシップを失うことにはならなかった。しかし個々の機械と作業を越えて、全行程の流れを編成したり全体の規律を設けて管理するということになると、そうした職能はもう、職人社会から出てきようがない。そのような管理職能は、ほんらい親方職人ではなく他にゆだねなければならなかったのであるが、それが容易にできなかったところに、やがて管理問題がアメリカの経営者にとってどの国より切実に意識されるようになる一因があった。」(p.156)
本書は既に品切れとなっていて古本でしか手に入らないようだが、その後の研究成果によるアップデートなり修正の必要はあろうと一読の価値があると思う。