Scribble at 2021-09-28 15:21:25 Last modified: 2021-09-28 15:26:05

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マックス・H・ベイザーマン、マイケル・D・ワトキンス『予測できた危機をなぜ防げなかったのか?―組織・リーダーが克服すべき3つの障壁』(奥村哲史/訳、東洋経済新報社、2011)

本書は、特に 9/11 のテロとエンロンの倒産という二つの事件を詳細に解説したり、あるいは実例として色々な論点で引き合いに出しながら、どうして事前に危機の兆候を知っていながら、それが生じるのを防げなかったのかを分析している。そのうえで、それぞれの事件が起きる前に組織や個人として色々な問題があり、特に幾つかの強力な認知バイアスが作用していたことを示す。それらのバイアスに対抗するには、もちろん「腐ったリンゴ」のように特定の個人をマスコミと一緒に叩いているだけでは駄目であって、やはり組織や手順といった仕組みに手を付けて、不作為や間違った作為を事前に是正できるようにしないといけない。タイトルにある「3つの障壁」とは、事前対策を怠ってしまう不作為や間違った作為の要因として列挙されている三つの脈絡であり、「認知的要因」、「組織的要因」、そして「政治的要因」である。そして、それらの要因を克服するために、詳細なモニタリング、シナリオ・プランニング、そして組織全体での学習効果を高める工夫が求められるとともに、やはりリーダーシップという要にも改善が求められている。論旨の明快な、非常によく書かれている本だと思う。

ただ、9/11 テロとエンロンの破綻という二つの事件について相当に詳細な記述があって、既に事実関係を新聞記事よりも詳しく知っている人ですら、細かいという印象を受けるだろう。そして、そのときに生じていた政治的な駆け引きの描写に至っては、はっきり言って特定の事例にこだわりすぎていて普遍的な議論ができているのかどうか確証を持てない。他にも幾つかの事例は出てくるが、それらの扱いはかなり淡白に思える。

結局、失敗しても違法でない限りはペナルティがなく、為政者のように直接の指示をしないという不作為ていどでは責任を問えないという点に大きな問題があるのかもしれない。それはそれで専制を防ぐという民主主義の特徴でもあるわけだが、責任の所在がはっきりしなくなる。連帯責任として全員がペナルティを負うとしても、その人数が膨大だと個人のペナルティはさほど大きくなくて、そういう責任のために何かをやろうとする責任感なりインセンティブは醸成されない。それどころか、民間企業だと無能で業績を悪化させた CEO ですら、解雇されたら即座にリタイヤできるくらいの退職金を手にするのだから、雇われ経営者には限界があろう。

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