Scribble at 2018-09-05 21:54:10 Last modified: 2022-09-28 10:56:40

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圏論入門 (数学のかんどころ)

いくら Google Plus の圏論コミュニティのオーナーが日本人(僕)だからといって、日本語の本ばかり紹介していてはいけないと思うので、『圏論入門 (数学のかんどころ) 』(共立出版)は書店で見つけた後は放置していた。まぁ結果としては良かった。

だいたいアマゾンのレビューでも指摘されているように、この本は装丁だけを見れば初心者に学習の「かんどころ」を指南するような体裁なのだが、実は玄人が同僚の通俗書執筆の苦心する様子を面白がるネタでしかない、数学コミュニティの内輪本である。つまり、圏論の初心者には全くお勧めできない。それに、そもそもここ1,2年で続々と出版された圏論の本は、どれもこれも数学科の学部課程(つまり解析学や代数系)を終えた人が別のアプローチとして学ぶものであって、大学の数学をそもそも学んだことがないような人が読むものではないし、読む必要もない。開成高校の生徒が圏論の論文を読みこなせるのは、単に彼らが学部レベルの数学を既に勉強しているからにすぎない。

実際に、この本を先週の末にジュンク堂で見かけたときにも感じたのだが、この本は圏論について学んだことがある人を対象にした本である。そして、復習するにあたっての要点を並べていると思ったらいいだろう。したがって、そういう本として学部の数学科に所属する学生が読むには問題がないと思う。

それにしても、どういう分野の本にも言えるのだけれど、初心者向けだとか予備知識は不要だと称していながら、冒頭から定義もなしに専門用語をまくしたてて「このていどを常識として知らない馬鹿がいるとは思わなかった」などとうそぶく教科書の著者というのは、どうにかしてもらいたい。昔から、それこそ高校時代から、そう思っている。著者は代数幾何学が専門なので、圏論を論じるには適しているとは思う。それに、河合塾の講師でもあるわけなので、相手が何をわかっていないかについても理解力がある筈なのだが、こういう看板に偽りのある本を書いてしまう。

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