Scribble at 2024-12-25 10:12:06 Last modified: unmodified
会社の問い合わせフォームの運用方針というのは、僕がなかば決めていて、それは僕自身がフォームのシステムを書いて実装し、ウェブ・サーバも運用しているのに加えて、取得した個人情報の扱いについても Chief Privacy Officer として取り扱い方針の策定・起案について全権を握っているからでもある。つまるところ内部監査や最終承認を除いては、ほとんど僕の裁量によって運用されている。大袈裟な言い方だが、たいていの中小企業で「ワンオペ情シス」になっていれば、誰だってこうなる。僕のようにシステム開発からビジュアル・デザイン、果てはプライバシーマークに準拠した情報管理にいたるまで、桁違いの技術力とデザイン力と知識と実績があれば、なおさらというものであろう。
んがしかしだね。企業の問い合わせフォームをどう運用するかという話題について、情報セキュリティから UX デザイン、PR やマーケティングや個人情報の管理にいたるまで、言っちゃ悪いが僕と同じていどの広範な管掌をカバーして解説している人など、古今東西を探してもいないわけである。フォームの開発とか、フォームの UI デザインとか、そういった個々のテーマについては各論を書いている(たいていはレベルの低い)人はいるが、それらも何らかの見識なり経験なり実証的な根拠があってのものではなく、言わば場末のデザイン会社で積み上がっただけの些末なノウハウにすぎない。なので、もう2005年くらいには、問い合わせフォームに関する体系的な運用の知見というものは、何を調べて考えたらいいかというポイントについては殆ど exhaustive に列挙できる状況だったにもかかわらず、それから20年が経過しても、日本なんていう辺境国家の実務家どころか海外でも碌な業績が積み上がっていないという状況にある。現に、
・Jon James, Andy Beaumont, Jon Stephens, and Chris Ullman, Usable Forms for the Web. (2002)
・Caroline Jarrett, Gerry Gaffney, Forms that Work: Designing Web Forms for Usability. (2008)
あるいは国内でも一冊だけフォームについて書かれた本があったはずだが、いずれにしても数は非常に少ないし、これだけ UX だなんだと世界中で言われていながら誰も論じようとしない。だが、それは仕方のないことでもあろう。いままで述べてきたように、問い合わせフォームの運用と言っても広範な知識や技術が必要となるため、実装技術や情報セキュリティや個人情報保護について無知なデザイナーに議論できるものではないし、逆にデザインなどかけらも興味がないコーダにだって議論できない。あるいは JIS の書類や社内規程の文書をいじくりまわしている事務屋にはフォームを作る実務工程に関わるスキルすら欠落しているわけで、これらを十分に全て兼ね備えている人など殆どいないわけである。僕は、もちろんそういう話題についてなにか書けるかもしれないが、いまのところ二つの理由があって書いていない。
まず、僕自身が自分の仕事で関わる以外に自分の知識や技術を他人に説明し解説する必要を感じていないということ。しかも無償で解説するとなればなおさらだ。かといって、電子書籍にして販売するかと言われても、そもそも僕は他人に解説する必要を感じていないのだから、書く気もない。ただ、問い合わせフォーム一つを論じるにも、これだけの準備が必要だと説明するていどのことはできる。しかも無償でだ。こういう文章を参考にしてインチキな本をインチキ(どころか、例の FUNAI の一件で反社の舎弟疑惑すら噂されている)経営者の秀和システムあたりから出そうとする人間がいるかもしれないが、ありがたく思ってもらいたいね。
そして二つめに、僕がどれほど素晴らしい文章を書いても、たぶんこの業界は何も変わらないし、正直なところウェブ制作業界の大半の業務は数年のうちに生成 AI が担うこととなるので、とりわけコーディングやデザインについて書いたところで、もうすぐ蛇足になろう思われる。もちろんだが UI なり UX デザインについても方針を伝えて適正なビジュアルやレイアウトや操作方法やコンポーネントやメニューのアンカー・テキストを提案できるようになるだろう。大半の凡庸な人々が1日がかり、いやビジネス・アーキテクツのデザイナーが数時間で提案できていたような内容ですら、要件を与えるだけで数秒とかからずに大量の提案を出してくるようになるだろう。そして、これは僕は良いことだと思っている。なぜなら、その際に生成 AI へ与える要件は与件によって色々と異なる可能性があり、それを顧客から聞き出してプロンプトなりデザイン・カンプなりとして入力する役割というものがデザイナには残されているからであって、実は「デザイン」の本来の意味はそこにあるからだ。Photoshop をいじくり回すことがデザインだと思っているような、上場企業を適当な理由で退職しクラウド・ワーカーとして長野や山形みたいな僻地に引っ込んで余裕綽々で仕事をしているような凡人は一斉に業界から排除するべきなのである。