Scribble at 2023-04-20 18:07:19 Last modified: 2023-04-21 14:48:45

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#1,000 + #3,000 の砥石も使ったりしてみたのだが、いまのところ実用的なレベルの切れ刃を作れたのは、上記のような道具を使ってからだった。検索すると、国内でも海外でも研磨フィルムを使って剃刀を研いでいる話は色々と出てくる。ただ、そういう記事の大半は、結局は「研磨フィルムを使う」ということしか分からない。初めてストレートの剃刀を手にして、しかもそれが全く剃れなかったときに参考とするべきページは、実は殆どないのである。記事の中身も、それから僅かに加えられたコメントの類も、しょせんは「俺はこんな剃刀を持ってるぜ」とか、「俺はこんな京都の天然砥石も持ってるけど、貧乏人の真似をしてみたら意外に良かったぜ」とか、あるいは「俺はちゃんと剃れる剃刀で剃ってるぜ」という、道具や結果の話ばかりでクソの役にも立たない連中である。それこそ、チラシの裏とか便所で独り言でも話してろというレベルのものだ。僕は、もちろん当サイトでご紹介している、そういう手合いとは違う尊敬すべき人々のように、何らかの参考には(正解ではないかもしれないが、最低でも反面教師には)なるよう心掛けたい。

ということで、用具なんてホーム・センターで幾らでも揃う。たとえば、僕が使っている上のような用具は、まず 98mm x 48mm のアクリル板とステンレス版(同じ大きさならサイズはこれ以上でもいい。これより小さいと剃刀を動かす範囲が狭くなる)、そしてこれらを貼り合わせる強力な両面テープを用意して、真ん中の写真のように貼り合わせるだけだ。アクリル板は平面を保つために使う。最初は安い木の板を使っていたのだが、やはり小さな凹凸が邪魔になる。どのみち剃刀を研ぐのだから、軟弱ロハス的な木製品より血も涙もない工業製品がいいわけだ。冗談はともかく、こうして台を揃えたら、あとは研磨フィルムと紙やすりを何枚か用意すればいい。紙やすりは番手の低いものが多いため、せいぜい #1,000 か #1,500 のものが限度だろう。それ以上は、紙やすりに比べたら高額だが研磨フィルムの方が種類も多い。ただ、写真で示したように番手の細かいステップを幾らでも揃えたらいいかというと、そういう問題ではない。異なる番手が必要なのは、徐々に目を細かくしていくと研いだ結果としての表面を削るのに時間がかからず、削った結果に偏りが生じにくいからだ。これを、小さい番手で研いだところからいきなり大きな番手に移ると、要するに大きな凸凹を細かいヤスリで削るような話になるので、研いで凹凸をなくすのに時間がかかるし、研いでいるうちに研磨フィルムが擦り減りすぎて砥げなくなってしまうからだ。こういう基本的な理屈を丁寧に説明すれば、こんなことは無形文化財級の技法や北斗神拳みたいな一子相伝の技なんてなくても、その辺の小学生にでもやれると分かるはずだ。

そして、多くの研ぎ師のブログ記事や動画でも殆ど説明されないのが、何を基準に研ぐのを終えるかとか、何がどうなれば次の番手の砥石や研磨フィルムや紙やすりに入れ替えたらいいのかという話である。僕が思うに、その理由の大半は、実は研いでいる当人にも分かっていないからだ。そして次に、なんとなくわかっていても説明する言葉を知らない、それから言葉は分かっていても説明する必要を感じない、そして最後に、わざと説明せずに自分たちのマウントや研ぎのビジネスを維持するというクズどもだ。実は、こういうことは説明されても分からないか、実際に何度もやらなければ実感として理解できないという人が多いわけで、だからこそ研ぎ師の商売も成立するのに、説明するだけで儲からなくなるとでも思っている人が多いのだろう。そして、自分たちでさらにビジネス・チャンスを逆に減らしているのだ。僕は剃刀で剃るという趣味を持つ人が増えたら面白いと思うし、自分だけがやっているということに何も優越感は覚えないので、情報は可能な限り公開したいし共有したい。これで商売を始めるつもりもないし、何かのメディアや出版社から声をかけてもらうなんてスケベ根性もないので、髭剃りについては GORO さんでも誰でもプロの理容師がちゃんとアウトリーチしてくれたらいいと思う。

さて、僕のやり方としては、まず刀背と刃先をフィルムに密着させて、いわゆる「8の字研ぎ」というのをやる。刃を8の字を描くように旋回させながら研ぐわけである。このとき、刀背と刃先とでは刃先の方に軽く力を入れて、もちろん研いでいる状況を振動とか音というフィードバックから判断する。初めて研ぐときは、ザリザリとして感触が暫く続くし、そういう音も出る筈だ。したがって、#1,500 くらいの紙やすりなどで暫く削ることになる。そして、ザリザリという音がしなくなって、僅かなピリッという摩擦音がたまに出る程度になり、それから刃を単純に擦っている音しか聞こえなくなったり、刃線と垂直に(つまり髭を剃る向きに)動かしても、何か細かい物体が当たって砕けるような感触がなくなったら終わりである。そして、これを幾つかの番手について順番に繰り返す。力の入れ具合を弱くすると言う人もいるが、そんな必要はない。#10,000 の番手で研ぐときに力を入れたら刃先が壊れるなんて繊細な刃先が剃刀の bevel であるというなら、そもそも革研なんていう雑な表面の材質に当てたら切れ刃が簡単に壊れてしまうであろう。それだと、切れ刃としては鋭利かもしれないが、先端が薄すぎて刃持ちしないのである。

ただし、ここでは何度か書いたように、剃刀の切れ刃はこういう研ぎ方だけでは作れない筈であり、最も尖端部は、こうして研いでいる状況よりも角度が大きいのである。よって、最後に最も番手の高いフィルムで角度を付けた研ぎ方をしなくてはいけない。何度も刃をフィルムに当てる必要はないが、これをせずに研いだとか切れ刃と作ったなどと称しているのはみんなデタラメである。

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