Scribble at 2020-04-11 07:42:28 Last modified: 2022-10-03 10:16:18

円錐の場合はこの図のように考えることは難しいですが、今回調べた四角錐と同じ底面積と高さをもつ円錐を考えて、比を用いて計算していくことで説明が可能です。

なぜ「錐体」は3で割る? 簡単な説明を「正多面体」から伝授します

なんだ。結局、類推と機械的な計算でしか説明できてないじゃないか。

かようにして、単なる機械的な計算を覚えて適用できる範囲の「理解」でしか数学を語れない人間が「理系」を自称して、論理的でも何でもない理屈で他人を煙に巻いてきたのが、日本の自然科学教育や科学ジャーナリズムだ。そして、我が国の多数のノベール賞の受賞者は、こういう雑な啓発や通俗書を子供の頃から完全に無視してきたからこそ、まともな業績を上げられたのである。実際、僕らのようなレベルの人間ですら、「サバイバルの哲学」と称したり、アドラーがどうのと馬鹿げた自己啓発書を売りまくったりしているバカの書くものなど、手に取ったことすらないが、ちゃんと能力を認められ迎えられて国公立大学の博士課程に入れているわけであり、哲学の概説書を読んでいるかどうかなど才能には何の関係もないことは、実は古今東西を見ても事実として明らかだ。

しかし、ブルーバックスをはじめとする教養書や入門書の類が不要でゴミみたいなものだと断定しようとは思わない。そういう著作物にも、言わば民度を維持したり一定の範囲に世論を抑制するための社会政策的な(もちろん自然科学的な研究や評価のくだらない邪魔を凡人にさせないという意味での)効用はある筈だ。つまり、バカはスタンダードな知識だけを知っておればよく、それどころか世の中で起きるバカげた騒乱の大半の原因は、民衆のクリエーティブで自由な発想ではなく、実はスタンダードな社会心理や経済や科学の知識を欠いた妄想や非科学的な思考に基づいている。それは、新型コロナウイルスによるパンデミックという現今の状況で、愚かで自分勝手な理屈から噴き上がったり、公衆衛生という社会統計のスケールで対応するべき話を理解できずにデタラメな行動をとる人間がいまだに多いという事実からもわかる。また、東日本大震災で一斉に現れた「放射能ママ」、あるいは自然科学を理解しない「自然派」と呼ばれる人々が、いまだに東北の農産物や魚介類について風評をまき散らしている現状を見ても明らかだ。

こういう人々に必要なのは、クリエーティブでもなければ自由でもなく、まともな科学の考え方や知識や情報を正確に提供して、少なくとも出鱈目な結論を勝手に引き出さない程度に理解してもらうための教養なのである。それゆえ、自分たちだけで分かったような理屈をこねくり回しているだけの日本の出版社や科学ライターやプロパーが書いている教科書や通俗書には、専門家としてではなく、そして僕らのように科学哲学や科学史を専攻しているという事情とも別の意味で、厳しい批評が求められなくてはいけないし、逆に素晴らしい著作には学術研究の成果に匹敵するだけの称賛を向けるべきなのである。上記のような記事に、その資格があるのか。それは、ここまで丁寧に僕の言わんとすることを説明した後なら、ほぼ自明であろう。

それから、一点だけ最後に書いておくと、上記の記事がダメな理由は円錐の体積について説明を単に省略していることだけにあるのではない。逆に、余計なことを書きすぎていることにも問題がある。

「積分を使って計算することもできますが、それはここでは省略させていただきます(とはいえ筆者自身、高校生のときに積分を使って求めることができたときには感動したので、気になる方にはぜひご自身で調べてみてほしい話ではあります)」という説明において、積分はこの記事の読者として想定されている《文系》には理解不能な魔術である。それに対して、上の記事は、おつむの良い、あるいは神から才能を与えられた「理系」と称する優秀な人種が、「文系」と呼ばれる劣等種の人間にもっと「わかりやすい」説明を与えてやろうという発想で書かれている。どのみち、日本の大学で数学の博士号を受けたていどの科学ライターや出版人には、そういう発想しかない。それゆえ、これまでにも述べてきたように、日本の教科書や参考書や通俗本は、その大半が非論理的で教育上の有効な力もない、科学や数学という観点から言っても、ものを考える役に立たない紙屑なのである。結局、丁寧かつ(真に)論理的に説明すればわかるはずの初等的な積分を「おまえたちにはわかるまい」と省略し、それどころか「おまえたちには過ぎたる知識だから省略した」などと余計なことまで示唆している愚かさが、正確で適切な説明を自分自身で投げ捨てた理由になっているのだということに、啓蒙家ないし教育者を名乗りながら自分で気づいていないということだ。厳しいことを言うようだが、このような人物が数学教育を語る資格はないと思う。

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