Scribble at 2024-05-24 19:03:35 Last modified: 2024-05-24 19:38:56

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Webデザイナーへの就職が厳しいといわれる6つの理由と成功させるコツを紹介

いまでもウェブのデザイナーとかディレクターとかエンジニアを志望する人というのはいるだろうし、ウェブ・コンテンツの制作という業種なり事業がワープロ入力業のように消滅しない限りは、今後も志望する人は出てくるのだろう。したがって、上のようなページを鵜呑みにしないまでも参考にする高校生や大学生や専門学校生、あるいは転職とか「クラス・チェンジ」、あるいは定年後に携わろうと考える人だっているかもしれない。ちなみに、検索しただけで上のページを見た人は誤解するかもしれないから説明しておくと、上のページは「年寄り向け」に書かれている。新卒の諸君は、書かれている内容を括弧にくくりだして受け取るほうがよいだろう。

このような状況について、もちろん僕も一部を見ているだけだから一般論は言えないし、しかも広範に業界を調べたりしているわけでもなければ、この業界の人々と付き合いを保ったり広げているわけでもない。なので、僕がここで書いていることも話半分に眺めてもらうくらいでいいと思うのだが、やはり原則とか常識から言っておかしいだろうと言えることはある。そして、こう言っては身も蓋もないが、この手の業界話を書いてる人たちというのは、コタツ記事とまでは言わないまでも、たいてい話題にしている業界での就職経験がないか短い人が大半を占めているし、そもそも業界を語るほどの地位や職位になっていた人が殆どいない。かつては、Movable Type 関連で純生氏のような経営者がブログ記事を書いたりされていたけれど、もう彼のような経験と技術と見識をもって書いている人は少ない。したがって、幾つかのウェブ制作会社でマネジメントを預かってきた、ささやかながら20年ていどの経験(と、もちろん実績)をもつ一人として、上の記事ついて幾つかのコメントを加えておこうと思う。

純生氏のようなスケールなりレベルでものを書ける人が少ない理由は、書こうとする人が少ないというだけではなく、そもそも書けるだけの経験や知識を持つ人が少ないからだ。そして、その理由は僕に言わせればはっきりしている。

ウェブ制作会社の平均的な「寿命」は、他の業界に比べて極端に短く、だいたい1年から2年である。他の業界では、労働分配率から言っても銀行から借りたり自分で用意した資金から逆算しても3年くらいは事業を継続できることが多いのだが、ウェブ制作会社の場合は、元営業が横滑りで適当に作ったとか、あるいは専門学校生が起業したとか、そういったファイナンスという点で圧倒的に弱い状況で起業する事例があまりにも多く、正直なところ事業の設計が甘すぎる人が簡単に会社を作ってしまっている。よって、1年か2年で会社をたたむと、大多数の人々は社員だろうと経営者だろうとクラウド・ワーカーになったりフリーランサーとなったり、あるいは既存の制作会社に就職することになる。なので、「元社長」であろうと会社経営の経験が1年や2年の素人なのだ。そもそもそんな未熟者に、この業界どころか会社や事業とか経営というものを語る資格など無いのである。

ということなので、上の記事でも、ウェブ制作会社にしばしば見られるような事情から言って、いささか違和感を強く持つ説明がある。まず最初に押さえておくこととして、このサイトは40歳以上の中年が転職するというテーマで運営されている求人・求職サイトである。よって、このページのターゲットは僕らのような中年である。もちろん、学校を出てすぐに結婚して専業主婦だったとか、必ずしも就職経験があるとは限らない人もターゲットにしているとは思うが、そもそも就職経験がなければウェブどころか就職全般が非常に難しいわけで、ウェブに特化した話などしてもしょうがないというところはある。

ということで上の記事を読むと、中年の人物が転職としてウェブ制作の企業に入るとなると、はっきり言えば殆ど不可能だと言ってよいと思う。どこかに就職してウェブ・デザイナーとして働きたいのであれば、自分で勉強して多くのページを作ったりブログを運営してみて、クラウド・ワーカーとして数年を過ごしてから、かろうじてポートフォリオを見てもらえるチャンスが出てくるというくらいの実状だと思う。「30歳で未経験」なんて人を雇うウェブ制作会社など、ゼロだと言ってもよい。そもそも、大手の制作会社であっても未経験の人を採用して研修して育てるなんてことはしない。大手は専門学校からいくらでも若い人を採れるし、学生が立ち上げたベンチャーなどの場合は教える余裕なんてない。弊社でも、新卒を採用したことが何度かあるが、採用実績として「成功」と言える事例はゼロである。デザイナーとしての研修などしているお金も時間も、上長や同僚の余裕もないわけで、いきなり電通案件に雑用として投入したところで慣れたり何かを学んだりすることはない。現実には OJT なんてものは余裕のある会社がやっていることであって、新卒を実戦投入する事例なんて大半が旧日本軍の愚行と同じである。(その結果として新卒がどうなったのかは、やはり色々と問題があるので書けないけどさ。)

次に、「賃金構造基本統計調査」なんていう、国家官僚が暇潰しにやってる統計調査をもとに、年収の平均が478万円などと書いているが、こんなバカな話を真に受ける人は、企業勤めしてきた人にはいないだろう。これは、言ってみれば大谷翔平の年収を調べて「野球選手の年収は90億円である」と言ってるようなものだからだ。DODA のような会社が2023年に調べた結果として公表されている356万円という数字ですら、実態を表していないと言える。企業経営、特に管理系の部署で働いていた人なら分かると思うが、こんなアンケートに本当の回答なんてする企業は限られているからだ。そして、実態として給与が低い会社ほど、こんなアンケートに答えるわけがないのである。敢えて、管理系の部署で働いている僕の感覚で言わせてもらえば、平凡なウェブ制作会社にしか就職できない大多数の平凡な人材がもらっている給与なんてものは、DODA が出している数字から更に100万円くらい低い、せいぜい200万円台の後半だろうと思う。そして、これは「給与」である。手取りの額面は、ここから社会保険や雇用保険や年金や地方税などを引いた、月額で15万円前後だと思う。なお、殆どのウェブ制作会社にはボーナスとか退職金なんてものはない。

次に、やはり「未経験からWebデザイナーに必要なスキルを身につけるには、3ヵ月~半年程度の時間が必要になると言われています」などとデタラメなことを書かれると困るので、こういう雑なことを書くなら条件を明らかにしてもらいたいと思う。専門学校ですら、最低でも2年は学んでから、それでも「ずぶの素人」として就職するわけである。たかだか半年ほど本を読んだり Photoshop をいじくり回したていどで、いったい他人様からお金をもらって仕事ができると思い上がれるような根拠はどこにあるのか。こういっては嫌味になるが、国公立大学の博士課程を出た僕ですら、PHP を仕事で使うまでに3週間はかかっている(天才と呼ばれるようなエンジニアは、おそらく3週間どころか3時間で書ける筈だと思うが)。特に学歴も才能もない凡人が、なんで3ヶ月や半年で仕事に携われるスキルや知識が身につくなどと言えるのか。いくら妄想で記事を書いているとしても、同じていどに凡庸な他人が何年もかかって習得し携わっている仕事をバカにしすぎている。

凡人が半年で身につけるていどのスキルというものは、せいぜい高校の「情報」課程で教えている HTML と CSS の基礎や、ブルーバックスに書いてあるレベルの色彩心理学や情報設計の初歩くらいであろう。プログラミングの経験がない限り、JavaScript なんて全く書けるようにならないだろうし、WordPress のテンプレートも殆ど理解できないと思う。そして、たいていのウェブ・デザイナーというのは、僕が自分の会社で接してきている、大企業の電通案件や博報堂案件に従事しているような人々が10年ほど経過した後であっても、そのうちの8割くらいは、僕らと同じ品質と生産性で HTML, CSS, JavaScript のコーディングをまともにできるようにはならなかったのである。まさしく、Photoshop や Illustrator でお絵描きするだけでスキル・アップできずに、言葉は悪いが切り捨てられていったわけだ。

確かに、このレベルで比較するのは厳しいかもしれないが、ウェブの業界が別の意味で厳しいのは、そのへんの中小企業案件でも同じレベルの生産性がなければ事業として成立しないということなのだ。コーポーレート・サイトの構築でたかだか数十万円という低予算の案件だからといって、工期が長いわけでもなければ、ページやサイトの情報設計が簡単なわけでもない。逆に言えば、大半のウェブ制作会社が、起業してから3年と事業継続できないのは、そういう会社の多くが携わる中小企業や個人事業主から発注された案件が、電通案件と比べて桁が二つほど少ない予算なのに、実際にやってることは殆ど同じだからなのだ。となると、固定費つまり給料が二桁ほど安い社員なんているわけがないので、大半の制作会社はほぼ確実に固定費が財務状況を圧迫する。営業代理店のように丸投げだけやってるような、内製部門という実態がない制作会社でもない限りは、案件を安く受けるしかないとしても、それには限界がある。そして、大半の制作会社は低予算の案件しか受けられなくても、社員を(安いにしても)一定の給料で雇用する必要があるので、銀行などからお金を借りる。もちろん、銀行が常に、いくらでもお金を貸してくれるわけではないから、そのような状況から抜け出す必要がある。

しかし、殆どのウェブ制作会社には無理なのだ。なぜなら、高額な案件はそれに比例して巨大案件でもあり、もっと多くの社員あるいは外注を使わなければ捌けないのだが、それに対応できるウェブ制作会社というものは少ない。多くの外注を、巨大案件で要求される品質と納期で受注できる実力がないし、仮に受けられても外注費という変動費を押さえて限界利益率をまともな水準に保つ財務的なスキルのあるディレクターなんて殆どこの業界にはいないからである。ウェブのディレクターというのはその多くが「デザイナーあがり」や「コーダーあがり」や「営業上がり」で、財務の知識どころかプロジェクト・マネジメントのようなディレクションに関連する知識すらないし興味もないという人が多い。なので、簡単に言えば全くコスト感覚がない大物芸術家やポストモダン建築家のように仕事を進める。儲かるわけがないのである。

次に、これもまた明らかな嘘を書いていて困るのだが、「Webデザイナーの仕事に活かせる資格を取得しておくのもおすすめです」なんてことを書くのは、はっきり言って無責任だと思う。採用活動において、求職者の資格を重視しているウェブ制作会社なんて、実際には殆どないと思う。仮に、あなたが芸大や専門学校の首席だったとか、色彩検定に合格したとか、あるいはクズみたいなウェブ制作関連の資格を持ってるとか、そんなことをエントリー・シートに記入したとしても、はっきり言って無意味である。ここまでに書いてきたように、新卒を育てる動機や体制や財務的な余裕が無い限り、ほぼ全てのウェブ制作会社は明日からでも同じレベルで仕事ができる人材を求めているのであって、何の実績もない、資格があるだけのペーパー・ドライバー、つまりは自分でウェブサイトを制作して運営したことすらない、そんな人をわざわざ雇う理由も必要もないのだ。正直なところ、現在のウェブ制作案件の多くは外注やクラウド・ワーカーに投げて終わることも多い。会社に雇って固定給を払ったり社会保険料を折半するなどという、企業としての責任を負うに値する人材でもない限り、大企業で企画営業をやってたから、定年後は暇潰しにウェブのプランナーでもやって食っていこうとか、これまで大手の出版社で装丁に携わってきたから、次はウェブのデザイナーとして高給をもらいたいとか、そんな甘いことを考えているような、転職しようという業界についての調査能力もない無能な老人が門を叩こうと、そんな連中に付き合う制作会社の経営者というのはバカだけである。

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