Scribble at 2023-05-11 23:56:59 Last modified: 2023-05-12 09:55:51

以前、弊社にいたデザイナーが「ウェブのデザインは殆ど出尽くした」と言ってたけど、おおよそ僕も同感だ。しかも、彼がそのセリフを口にしたのは15年くらい前である。最近のショウケース・サイトを見てても、未熟な人材がベテランと入れ替わりで卒業制作レベルのサイト・デザインを投稿してるに過ぎないんじゃないかと思えるほどウンザリさせられる。実際、もう何年も前の WordPress 用のテンプレートが最新の投稿事例に混在していても、あまり区別ができなくなってきている。

もちろん、だからといって、これが一概に悪い事だとは限らない。タイポグラフィなんて印刷物だろうとウェブだろうと、最初から自由度なんて限られているからだ。また、ビジュアル・デザインにしたって、何度も言っているように、ウェブのデザインがプロダクト・デザインであるからには、一定の制約があってしかるべきなのは当然である。寧ろ、15年ほど前に一部の自称デザイナーが(しかもクライアントの発注費で)面白がって7ポイントなどという文字サイズで本文を表示させていた「自由」や「クリエーティブ」の方が、未熟で愚かだったのだ。

学生や素人が練習にあれこれと好き勝手に作るのは幾らでもやっていい。なぜなら、彼らもどのみちプロになれば、同じ規制の下で仕事をしなくてはいけないわけだが、それがどうしてなのかという根拠を、仕事に就く前に身をもって知る機会だからだ。本文の文字サイズを7ポイントで制作したら、幸運な人は「こんなの、読めないよ」と他人に言われるチャンスに恵まれる。そういう、他人に文句を言われたり批評されるチャンスに恵まれていない、つまり失敗の経験がないエンジニアやデザイナーというのは、仕事についたら簡単にバカな失敗をするし、しかも繰り返すのだ。なぜなら、誰も失敗の原因なんて簡単に指摘したり教えてはくれないからだ。たとえば、経理の人がデザイナーにデザインについて何かアドバイスできると思う人は多くない(実は、それは正しくない)し、営業の人がエンジニアにプログラミングについてバグを教えられると思う人も少ない(これも正しくない)。かといって、ウェブの制作会社の大半はデザインもプログラミングも「ワンオペ」とまではいかなくても複数のスタッフが各人で単独で作業するという会社が多いし、フリーランサーやクラウド・ワーカーの場合は、そういう意味では自らワンオペになっているようなものだから、それに起因するリスクにおいては致命的である。たとえ一人になった時点ではいくらか仕事ができようと、殆ど誰もフィードバックしてくれない環境で、自分の過ちや偏向や限界に気づくチャンスがないまま仕事をし続け(そして、たいていは失敗し続け)ることになるからだ。当社もフリーのデザイナーやクラウド・ワーカーに仕事を発注しているが、次の発注はないと評価した理由を当人にわざわざアドバイスなんてしない。単に発注しなくなるだけだ。

ともあれ、そういうわけでウェブ・ページのデザインというものは既にレイアウトもビジュアルの制作手法としても出揃っていると見做して良い。よって、CSSMania が更新を止めてしまうのも道理だし、いまでも新しい投稿事例を掲載している site inspire にしたって殆ど見る価値がなくなっているわけである。国内の似たようなショウケース・サイトについても同じことが言える。そして、もちろんだが AI がページ・デザインの提案をするようになる時代は秒読み段階である(このほど公開された Bart の解説でも、Adobe のデザイン生成サービスである Adobe Firefly との連携が予告されている)。

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