Scribble at 2023-04-02 10:48:35 Last modified: 2023-04-02 10:53:25

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既にまともな研ぎ師や金属学者は誰も言わない話だが、「切れる刃物は刃先が鋸歯状になっている」などという迷信をいまだにブログ記事に書き続けている人もいる。これは、刃物の工学では古典的とされている岩崎航介氏の『刃物の見方』という著作で50年以上も前に否定された俗説だ。そして、これもクリティカル・シンキングの教科書などで知られるようになった "correlation versus causation" という錯覚の一種であろう。

鋸歯状という幻想を口にする人々の理由は、「切れる」と評されている刃物を顕微鏡で拡大すると鋸歯状になっているということでしかない。しかし世の中にはもっと切れる刃物があり、そしてそれは顕微鏡で更に拡大しても鋸歯状になんてなっていないという観察がある。これを実行したのが冶金学の研究者で刃物の技師でもあった岩崎氏であり、明白かつ膨大な事実にもとづく結論と言える。それを、素人が数万円ていどで買える玩具の顕微鏡で眺めようと、そもそも「切れる」という判断において間違っているのであるから、切れない刃物の刃先が鋸歯状になっていようと、それはそれだけのことでしかないのである。「切れる」と言われているだけに過ぎない事実と、その刃物の先端が鋸歯状になっていることは、仮にそれが或るていどは「切れる」刃物だったとしても、それらの関係は単なる correlation(相関関係、あるいは偶然の一致ということもある)でしかなく、鋸歯状になっているからこそ切れるという causation の関係ではない。しかも、この手の幻想をいまだに語る人々が「切れる」と見做している刃物の多くは、実際には細部の欠けた未熟な研ぎ方の刃物でしかないということが分かってきたわけである。

よく切れるかどうかはともかく、現代の工業製品として世界中で髭を剃るために使われている、DE (double-edged blade) の刃について尖端を拡大してみると、決して鋸歯状になどなっていないことが分かる(写真は Derby Extra Blue)。僕は、せいぜい50倍から100倍ていどの倍率しかない2,000円くらいで売っている子供向けの顕微鏡で見ているのだが(スマートフォンへアダプタで組み合わせて、カメラの倍率も上げて撮影しているから、実際には200倍ていどの倍率で写したのが上の写真である)、もっと倍率を上げたら鋸歯状になっているかもしれないとはいえ、鋸歯状という幻想を語っている人々と大差ない倍率で刃先を見ているのは事実である。

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