Scribble at 2023-03-14 10:58:02 Last modified: 2023-03-14 18:52:29

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ChatGPT には、おおよそ専門家は否定的か懐疑的な評価をしていて、比較対象である正確な知識をもっていない素人の大半は肯定的か希望的な評価を下している。もちろん、マスコミは表面的には「両論併記」だが、実のところ何の素養も見識も興味すらない人々なので、結論を出そうにも出せないだけでしかなく、ああした手合いが報道することなど無視して良い。見識があって、具体的に使ったうえでの感想を書いている専門の研究者が言ったり書いていることから眺めていればいいと思う。もちろん、彼らプロパーだって(新聞記者や雑誌のライターよりは遥かに)学識があっても凡庸な生物には違いないのだから、過信するには及ばない。しかし、馬鹿やマスコミよりも遥かに正しく正確で(失礼! 同語反復だ)、誠実であることも多くの場合において事実でありコミットするだけの価値はあると思う。

さて、僕は学者ではないから素人の一人ではあるが、新聞記者なんかよりも遥かに学識や素養はあるため、新聞や雑誌なんかを買って読むくらいなら、僕の書くものを読むべきだ。そういう前提で ChatGPT についての実例をご紹介すると、確かに簡単な調べものなら使えるかもしれないし、剃刀の記事でも「他にどういう言い方をすればいいかな」といった雑談の相手にはなるが、はっきり言って学術研究に近いレベルの調査については信用できないと思う。よって、学生がレポートを書いたり、ましてや研究論文を書くための調査ツールとしては使い物にならないというのが僕の評価である。もちろん、いまのところという但し書きはあるが。

その証拠として、ソヴェト連邦の時代に straight razor の工場や産業がどのようなものであったかを調べた資料を ChatGPT に調べてもらい、どういう著作物が出ているかを紹介してもらった。

・"Shaving and Razors: A History" by Robert Waits. This book provides a comprehensive history of shaving and the development of the straight razor from its earliest days to modern times.

・"Razor's Edge: The Unofficial History of the Soviet Union" by Daniel Kalder. This book explores the hidden corners of the Soviet Union, including the history of the straight razor industry.

・"Soviet Men's Grooming and Hygiene" by Susan Reid. This paper examines the Soviet government's attempts to promote good hygiene and grooming habits among its citizens, including the role of the straight razor in Soviet culture.

・"The Straight Razor: A History of its Development and Use" by John Birnie. This book provides an in-depth look at the history of the straight razor and its use in different cultures throughout history, including the Soviet Union.

・"The History of the Razor" by Jon S. Battles. This paper explores the evolution of the razor, including the development of the straight razor and its use in various cultures.

非常に残念なことだが、これらの回答はどれも使えない。

まず最初の "Shaving and Razors: A History" は、改めて検索すると RAZOR EMPORIUM というシェービングの EC サイトがヒットしたけれど、該当する著作物は見つからなかった。安全剃刀については、Robert Waits 氏の600ページを超える著作があるけれど、なんにせよこれは自費出版であり、常にというわけではないが、最低でも大学院を出ていて論文を書く訓練を受けていない人物の著作物は典拠表記や文献表がなかったりするので、おおよそ学術研究の典拠としては使えないと思う。

次の "Razor's Edge: The Unofficial History of the Soviet Union" は、ダニエル・カルダーの著作物にはなく、ChatGPT が捏造した書名である。カルダーはこんな本を書いてないと指摘すると、単に平謝りだった(ソフトウェアの「平謝り」というのも滑稽だが)。

スーザン・リードが書いたとする "Soviet Men's Grooming and Hygiene" は、更に ChatGPT に尋ねると、Oxford University Press から出ている Social History of Medicine という専門誌に掲載されたとか、あるいは論文の概要まで説明してくれたのだが、彼女にこういうタイトルの論文はないし、この専門誌にも該当する論文はない。スーザン・リードは、確かにソヴェト連邦時代の生活史などを研究しているので、興味深い人物を紹介してくれたこと自体は ChatGPT を使った成果だけれど、ありもしない論文を紹介されるのは困る。

そして "The Straight Razor: A History of its Development and Use" という著作物も存在しておらず、何と著者として紹介された John Birnie は、オーストラリアで妻と一緒に放浪しながら連続殺人を犯していた人物である。

最後の "The History of the Razor" も、詳しく尋ねると「何の情報も見つからなかった」と謝罪するばかりである。要するに、これもウェブ・スクレイピングを元に捏造された書誌情報である。

つまり、回答した全ての著作物が存在しないのだ。これは笑うに笑えない。恐らく、スクレイピングしたデータを組み合わせたのだろうが、著作物として書誌情報を捏造してしまうとは困ったものである。

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