Scribble at 2022-01-02 22:37:04 Last modified: 2022-01-03 10:41:13

アマゾンのカスタマー・レビューは注意深く参考にしなくてはいけないなんて、既に10年以上も前から多くの人たちが指摘している。いまさらこんなことは言うまでもないだろう。とりわけ「★★★☆☆」のように表記される評価はコメントなしでも登録できてしまうため、発売している側の当事者が複数のアカウントを作って幾らでも高評価を登録できてしまう。試しに日本で発売されている〈まともな新書〉(つまり中公新書、岩波新書、集英社新書、ちくま新書、平凡社新書、講談社現代新書、ブルーバックス)を発売日の新しい順番で並べてみたら、その大半が星の数で4以上となっていることがわかるだろう。出版された書籍の殆どが読者に有益だったということである。

そんなことは、はっきり言ってありえない。

読者が「参考になった」と勘違いしているか、高評価をつけるためのハードルが低いか、いずれにしても何らかの信用に足りない事実があると思える。そもそも、そんな優れた著者ばかりが揃っているのに、もはやアニメや小説やサービス業ではアダルト業界しか世界に誇る文化がないほどの零落、不景気、無能な官僚、知恵のない企業家、クズ同然の政治家、蛆虫と同じくらい無数にいる大学教授、ほぼ学部卒しかいない素人集団のマス・メディアといった、笑ってしまうような無知・無教養の人間ばかりが育ち、表舞台に立っているのはどうしてなのか。新書をてがける人間だけが何故か有能な人材ばかり揃っている国家なんてものがあるなどと、およそ信じられるわけがない。

もちろん、すべては是々非々でしか評価できないとわきまえるならば、やはり自分自身で手に取って目を通すしか(少なくとも僕ら自身にとって)納得できる手段はなかろう。しかし、人には必ず色々な点で限界や制約がある。第一に、僕らは何冊でも本が買えるわけではない。第二に、すべての新書を買えるか図書館で借りられるとしても、僕らは何冊でも本を読む時間があるわけではない。そして第三に、すべての本を読む時間が仮にあったとしても、僕らはあらゆる分野について興味があるとは限らない。

よって、ここから逆に考えて取捨選択する方針を決めてコミットするしかないのである。

まず、あらゆる分野について興味があるとは限らないのであるから、いま現在の自分にとって興味がない本は無視しなくてはいけない。なお、俗にロシアの教育心理学の成果として大昔から吹聴されてきた、「何か後で役に立つかもしれないという、一見すると無駄な知識や勉強にこそ意味がある」という理屈は、確かに嘘ではないかもしれないが、しかし巨大な時間とお金と労力の浪費というリスクを無視している。そして、そういう理屈はたいていにおいて、強迫神経症の人間が口にする妄想とか、「僕はこれを読んでないから判断できない」と言い続ける無能な学者が口にする弁解と区別がつかない。しかし、いまや自分にとって興味がある分野だけでもフォロー・アップしきれないほどの膨大な情報が公開されている昨今、そんな理屈に付き合っている暇などない。

次に、いくらでも本を読む時間やお金があるわけではないのだから、やはりコスト・パフォーマンスという観点は切実だし、それを適切な判断基準に洗練させるプロセスにも意味があろう。興味がある新書を見つけたからといって、手当たり次第に購入したり図書館で借りてきたところで、たいていの人には人生でそんなことだけをしているほど余裕はない。そこで重要なのは、新書という限られた紙面の著作物を読むことで何を求めているかをはっきりさせることだ。或る分野についての(著者自身の偏った理解や未熟な理解ゆえの限界はあろうと、少なくとも読者である自分よりはマシな見識や知識で書かれた)概観を得たいのか、それとも重大な事件や出来事の総括と言えるような情報を得たいのか、あるいは著者自身の思想について知りたいのかなどと、どういう基準で新書(もちろん他のサイズの著作にも当てはまる話だが)を読むのかを決めて、その基準に見合っていないタイトルは、いかに面白そうな分野を扱っていても無視することだ。

こうして、相当な数のタイトルに絞り込めるとは思う。もちろん、後から読んでみたいタイトルが見つかるかもしれないので、ひとまず最初の段階で残した興味深い分野のタイトルはリストとして残しておいてもいいだろう。こうやっていくと、過去に遡ってゆくと分かることだが、岩波新書でも中公新書でも内容が陳腐化したり古くなっておらず、現在でも読むに値するタイトルというものは、せいぜい1割ていどにとどまるという実感がつかめるだろう。そしてさらに、その中でも読むに値すると言えるようなタイトルともなると、ほんの僅かだと言ってよい。僕自身の経験からしても、毎月のように評価の星が平均して 4.5 も並ぶような新書ばかりが続々と出版されるなどということは、およそ実態を正確にあらわしていない。

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