Scribble at 2023-05-13 09:27:03 Last modified: unmodified

添付画像

剃刀の刃がどう作られたり(正しく)メンテナンスされているかを正確に理解すれば、世の中に出回っている「研ぎ」の動画やブログ記事の大半がデタラメであることが分かる。これは、この数ヶ月にわたって何度か書いてきた話だ。そして、つい先日も書いたように、研ぎ師やマニアの中には顕微鏡で刃先を数百倍に拡大した写真を掲載したり、あるいは10倍から30倍ていどの「老眼鏡」(それがカールツァイスやニコンの高級品であろうと)で刃先を眺めたりする人もいる。しかし、それらを使った解説の多くも、なにやら「科学」だの何のとおかしな自意識を背負っている人もいるようだが、科学哲学者でもある僕に言わせればインチキ科学というか科学の名に値しない中学生の自由研究(もちろん本当に科学としての業績を出す中学生もいるわけだが)に近いものだ。

いちばん分かりやすい事例は、刃の先端を何倍であろうと横から眺めて解説している記事や動画だ。これは僕も当サイトで掲載したことがあるから、ここで半分は自己批判や反省という趣旨としても書き留めている。要するに SR の「切れ刃」(人によっては「小刃」とか「糸刃」と言うが、研ぎ方やメンテナンスの方法など違う意味が関連している場合がある)というものは、髭と最初に当たる最も端が鋭く研げているかどうかが重要であり、その次に角度が重要である。しかし、刃を横から眺めていては刃の先端(切っ先という意味の言葉と勘違いしやすいので、当サイトでも用語集で良い表現を提案したいのだが、先っぽとか刃先という意味ではない)がどれくらい鋭くて薄くなっているかは分からないのである。

上の画像は、その模式図である。左と右では、刃の先端としての鋭さには大きな違いがある。しかし、これらの刃を横から眺めているだけでは、この違いは殆ど分からない筈だ。立体をちょうど横から見るだけだと、その物体にどれくらいの奥行きがあるのか全く分からないのと同じ話である。北斗神拳伝承者や人間国宝みたいな研ぎの達人なら、横から刃を眺めても違いが分かると言うかもしれないが、そんなことはありえない。左の刃と右の刃の違いは、右の刃の先端部分を切り落としたのも同然と言えるような刃先が左の刃であるから、これら両者の角度は全く同じだからだ。角度が等しければ、光の反射する様子は物理的に同じであって、両者を区別する根拠はない。したがって、刃の先端を横から眺めるだけで、研げているかどうか、鋭くなっているかどうかを確認することはできないのである。

剃刀の先端部は、安全剃刀の製造業者が解説している論説では 0.03㎛~0.05㎛(0.00003mm~0.00005mm)という、数十万円ていどで市販されている1,000倍の倍率がある顕微鏡で観察しても 0.03mm の厚みにしか見えないほどの微小な構造である。仮にこの刃を横から眺めて何かが分かると言うなら、それは先端部の鋭さに極端な違いがあって、それこそ正しく研げている先端部と比べて桁違いの厚みが残ってしまっている場合だけだろう。そして、そんなに極端な違いがあれば、横から、ましてや顕微鏡で眺める必要などないのである。

  1. もっと新しいノート <<
  2. >> もっと古いノート

冒頭に戻る


※ 以下の SNS 共有ボタンは JavaScript を使っておらず、ボタンを押すまでは SNS サイトと全く通信しません。

Twitter Facebook