Scribble at 2021-10-03 11:00:18 Last modified: 2021-10-03 18:20:53

その業者は、あらかじめネット経由で発注しておけば、段ボール箱やガムテープも送ってきてくれる、一見手厚いサービスがありました。そこで、段ボールを三つとガムテープを頼みました。宅配業者の配達員が後日、それらを持ってきてくれました。段ボール箱三つにぎゅうぎゅうに本を詰めて業者に発送しました。その中には、上下巻で計7000円の学術書のほか、2000~3000円のハードカバー本もたくさん入っていました。これまで、古本屋に本を売ってきた経験から、少なくとも1箱5000円、三つで合計1万5000円では売れるだろう、ひょっとしたら2万円かなあと、考えていました。

本をネットで売る時に気をつけること

実店舗で営業している昔ながらの古書店と、アマゾンや楽天で古本を売り捌いている転売業者とでは、評価の基準が違う。どれほど重要な古典的と言える著作物であろうと、「売れない」本の評価は低い。簡単に言えば、売れるまでのあいだ在庫として抱えるコスト(倉庫の費用と管理コスト)が差し引かれるので、バリューブックス、買取王子、もったいない本舗といった業者の引取価格は、実店舗の古書店よりも安くなるに決まっているのだ。上下巻で7,000円だろうと、売れない本を掴まされる業者にしてみれば、管理コストだけでマイナスである。それが明日にでも売れるようであればともかく、アマゾンを頻繁に利用していればご承知のとおり、それなりの古典的な著作物が何年も売れずに「アマゾン専用在庫」の商品として掲載され続けている。出版当時なら、それなりに売れたかもしれないが、それから40年以上が経過した翻訳書を買ってくれる者など該当分野のプロパーですら少ないものだ。例えば僕の専門である科学哲学でも、カール・ヘンペルの『科学的説明の諸問題』(長坂源一郎/訳、岩波書店、1973)を古書店で探してまで読もうとする学生、いや大学院生でも、国内に片手の指で数えられるほどしかいないだろう。それどころか、この本の原著である Aspects of Scientific Explanation (1965) を読もうとする人でさえ殆どいない筈である。僕は、訳書を探していた変わり者の一人として、たまたま四天王寺の古本市で見つけて手に入れた。これがアマゾンで3,000円くらいで売っていても買ったかもしれないが、そういう人は数えるほどしかいないので、僕が既に所持している以上(もちろん、原著を先に買っていたので目を通している)、もったいない本舗やバリューブックスが誰かから買ってアマゾンで販売するとしても、売れるまでに何年かかるのかは分からない。確かに、そういう変人が現在も他にいて、出品したとたんに5,000円でも買う可能性だってあるが、一般的に転売事業者が書籍を値踏みするときに、そんな可能性は期待しない。在庫として5年以上は抱える前提であれば、やはり引取価格は数十円だろう。そして、それを3,000円ていどで販売して、やっと管理コストが回収できて利益が出るのである。

僕がこれまで、もったいない本舗に送った本の大半は、相当に古い技術書やビジネス本や洋書が多かったため、原則として売れない本ばかりだ。10年前の JavaScript の本なんて、「インターネット考古学」に、しかも JavaScript の歴史にでも関心がない限り、誰が2021年の現在に買い求めようとするだろうか。O'Reilly の技術書だからといって、古くてしかも洋書を買うエンジニアなんて、アメリカや韓国から日本にやってきて働いている人たちであろうと、そうはいないだろう。彼らの大半は〈いまできること〉のゆえに採用されて働いているのだから、10年前の技術書を読んで得た知識(マイクロフォーマットだの、Java を使ったウェブサービスだの、XSLT だの、ActionScript の仕様だの)など、彼らを採用した企業にとってはどうでもよいはずである。

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