Scribble at 2025-06-25 08:03:48 Last modified: 2025-06-26 19:31:29

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Cloudflareのマシュー・プリンスCEOがフランス・カンヌで開催されたイベントに登壇し、「AI生成の要約」によってパブリッシャーが「実存的な危機」に直面していると語りました。

「AIの要約を信頼する人が増えてサイトへのトラフィックが急落しパブリッシャーは危機にある」とCloudflareのマシュー・プリンスCEOが警告

Google 翻訳なんかだと、"existential threat" は「実存的脅威」と翻訳されるから、AI 並の編集能力しかない、あるいは AI の自動翻訳を校正する英語力や関連する知識もない人間が訳すと、上に引用したような文章になってしまう。もちろん、AI の性能が向上すれば可能な限り避けられるようになる間違いかもしれないのだが、しかしその「性能の向上」は、いまのところひとりでになされるわけではない。つまり、不自然な表現や言葉の誤用を訂正できる人間が実際に指摘しないといけないという明白な条件なり限界がある。よく、生成 AI の活用という話題についても、RAG だチューニングだという話はあるのだが、そもそも生成 AI をチューニングして「向上」させられるような知識や経験や判断能力をもつ人間が御社にいるんですか、という致命的な問題をクリアしていない企業が大半であり、実は業者が用意したモデルをまともに追加学習して最適化できる企業なんて殆どないんだよね。だから、その手の追加学習なりチューニングを手伝うコンサルとか AI 業者がゴロゴロと出てくる。

で、本題に入ると、もちろん "existential" を「実存」なんて訳すのは、とりわけ僕らのように大学院で哲学を学んだ人間からすれば失笑する他にない誤訳だ。もちろん、昨今はガキが「言説」などという表現を使って「表現」とか「議論」とか「主張」と言う代わりに、なにか気取った意識高い系のお喋りをしているかのような自意識プレイをするのが流行しているから、"existential" も「実存」と訳して何か高尚な話題を扱っているかのような自意識プレイに興じたいのかもしれないが、スタンダードな英語の勉強をして最低でも英検2級をとって大学へ進学するくらいの高校生であれば、次のように考えるだろう。

まともなレベルの英語教師であれば、英語を訳すにあたって、まず日本語に置き換えるような作業を避けて「英語として理解する」ことを生徒に勧めるはずだ。つまり、"existential" は日本語ではこれ、"threat" は日本語ではこれ、などと逐語訳させるのではなく、"existential threat" というフレーズで「何のことを言っているのか」というニュアンスを掴み取らせるわけだ。もちろん、そのためには個々の単語の意味を知っていなくてはいけないのだが、重要なのは個々の単語を日本語へ翻訳させることからではなく、意味を知っている単語のニュアンスどうしをつなげて、ひとまとまりの表現としてニュアンスを受け取るか自分の頭で組み立てさせることから始めることなのである。これが、俗に「英語で考える」ということなのである。そうすると、"existential threat" のニュアンスとして、ここではメディアが配信しているコンテンツよりも生成 AI のレスポンスが利用されるようになって、メディアのサイトで記事を読もとする人が減っているということなのだから、これは言わば「事業継続の危機」ということなのだなと理解するであろう。これを翻訳として「事業継続の危機」と訳したのでは意訳であろうから、適切かどうかは分からないが、原文を読むならそういう理解で良いだろう。寧ろ、「実存」などという多くの人にとっては見慣れない言葉を使われる方がニュアンスとして理解しがたいであろう。

もちろん、「いまここに有ること」という平たい意味で「実存」という言葉を使う事例もあるから、日本語として完全に間違っているというわけではないが、偏差値80以上の大学を卒業している人たちであれば、これが「本質」という言葉とセットになっている哲学用語だという素養くらいはあるだろう。そういう話は、もうここではしない(当サイトにわざわざアクセスして僕の文章を読んでいるような方であれば、ここから先は自分で調べるだろう)。

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