Scribble at 2021-09-07 18:21:41 Last modified: 2021-09-07 19:04:08

高校までの生徒、特に英語の勉強を積み上げたい生徒へアドバイスする文章には、しばしば洋書を手に取るのがよいと書かれている。その場合は、頻繁に辞書を引かなくてはならなくなって、読み続ける意欲が減退しないよう、適度の語彙で読める本が良いとされている。僕らの時代なら Ladder というブランドの学習用に編集された読み物を勧める先生が多かった。いまでは更にたくさんのブランドが多くの出版社から発売されていて、英語の学習進度に応じた適切な選択ができるよう配慮されている。もちろん、そういう学習用の本を読んでもいいのだが、僕は高校生の頃ですら、どうもその手の誂え物というか意図的に編集された出来合いの副読本というものが好きになれなかった。

確かに、読みたいからといって分厚いペーパーバックを買って読み始めても、通読するだけの意欲を維持するのは難しい。日本語の本ですら三分冊などの歴史書ともなれば、読み通すのに幾らかの(お金だけでなく)奮起というか熱意が必要だ。ましてや、学習用として編集されているわけでもない成人向けの著作物を中高生が読み始めるとなれば、恐らく1ページに知らない単語が10や20は出てくるため、読み通すのは非常に面倒だ。ましてやネットで検索もできない時代なら、辞書に掲載されていない言い回し(単語が簡単でも、組み合わせると特殊な意味になるビジネス用語やスラングなど)を調べるのは非常に難しい。それどころか、当時のアメリカの生活文化の中でしか理解出来ないフレーズだと、恐らくは公共図書館で大部の辞書を引いても意味は分からなかった可能性があるため、事実上は理解不能だった可能性すらある。

よって、読まされている違和感を持たずに一つの文章を読み通す成果を手にするという堅実な学習効果をもつには、選択肢は殆ど限られていたように思う。それは Japan Times や Newsweek の短い記事を読むことである。僕は全ての記事に目を通していたわけではないが、Newsweek を2年ほど購読してもらっていた。これは確かに効果的だった。この手の雑誌、とりわけ "international edition" として編集されている雑誌だと、アメリカ国内のテレビ番組を見ていなければ意味が通じないようなフレーズをヘッドラインや本文に使うことは編集方針として許されていないため、字義通りに理解できる。現在は、これらの雑誌や新聞はオンラインで安く読めるのだから、絶好のチャンスだ(もうネットがあれば今後は誰でも同じ恩恵を受けられると思うかもしれないが、そのチャンスがオンライン・サービスとして永続する保証があると思ってはいけない)。

んがしかし、現代の成人に対してなら、お好きなペーパーバックを手にとってザクザクと読み進めることをお勧めしたい。正直なところ、世に出回っている単語集の本を使った学習というのは、或る程度の英語力や語彙が身につけば必要ないと思う。そもそも自分が読みたいわけでもない文を延々と読まされ、覚え込まされるというのは、勉強としては問題がないにしても、それ自体に知識として何の得るものもないわけだからだ。だいたいにおいて、単語を覚えること自体も素養や知識の獲得に比べたら時間の無駄であることに加えて、単語を覚えるために文を読むことも時間の浪費であるとなれば、仮に50歳から英語の勉強をやり直すような人にとっては、比較するだけの値打ちがあるとは思えない。実際に読むべきもの、読みたいものを読んで、その中で覚えたり学ぶべき単語やフレーズを身につける方がよい。その時点で、英語としての基礎的な語彙や運用能力が不足していたり(たとえば TOEIC のスコアが800にも満たないレベルの語彙しかないとか)、それらを〈日本語に翻訳した上での語彙として意味が理解できない〉ような人は、もう英語で何かを学ぶよりも、日本語で読める本を読んだ中で何事かを考えたり成果を出す方が有益だろうと思う。こういうことに不安を感じるとすれば、それは宇宙の真理が英語の本にしか書かれていないという妄想に陥っている証拠だ。もちろん日本語の本にも、そんなものは書かれていない。もしどこかにあるとしても(その多くは、もちろん偏見や思い込みや錯覚にすぎないが)、それはあなた自身の思想や思索によってしか到達できない筈だ。

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