Scribble at 2021-09-07 10:22:12 Last modified: 2021-09-10 17:46:20

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ジャック・ウェルチ わが経営(上)

あれこれと毀誉褒貶のある人物なり経営方針ではあるものの、まず第一に本書は読み物として面白い。いま上巻の半分(ウェルチが GE の会長に選ばれた時期)まで読んだところだが、翻訳も全く違和感がなくて誤字脱字の類も殆どない優れた翻訳書だと思う(上巻だけで言えば、307ページの「次の研修で生かす(「活かす」が正しい)」という誤字一つしか見当たらなかった。下巻には292ページの「エグゼクティグ」と303ページの「難かしい」と、他にも1箇所を見つけたが、それでも大した数ではないし、文法から言っても致命的な誤解を招くようなタイプミスではない)。そして、原著にはライターが付いているから当然なのかもしれないが、人物描写やエピソードの叙述が活き活きとしている。

昨日は残念ながら酷い評価を与えたが、『アメーバ経営』を読んで感じた設計図を見せられているような文章と比べて、『わが経営』では企業のダイナミクスを描くにあたり本当に人が中心となっている印象が強い。そもそも、経営について「哲学」という言葉をよく使う稲盛氏には失礼だが、企業人である前に本物の哲学者であるわれわれを相手に、素人が「哲学」という言葉をどれほど振り回してみせたところで無駄である。われわれは、そういう言葉が何を言わんとしているのかという趣旨や概念に集中するのだから、言葉だけ「哲学」と語ってみせただけでは高尚さや深遠さなど感じたりしない。そして、ただの言葉の彩ではなく、経営という営みについて真に哲学的な思索をどうやって加えられるのかを検討するのであれば、アメーバだの何のと喩え話だけで済ませようとするのは感心しない(僕が、分析哲学の著作によくある通俗的な喩え話を嫌うのも、同じ理由である)。

話を戻すと、本書は逆に言えば著者本人が言うとおり、経営書やビジネス書とは言えない。もちろん参考にはなると思うが、ジャック・ウェルチという人物をめぐる大きな組織の物語と言ってよいのだろう。したがって、本書から何か「経営方針」のようなスローガンだけを抜書きしても、殆ど役には立たない。したがって、読み物として面白いためか、ずっと読んでいられるのは事実だが、ビジネス書を読み重ねるというプランには当てはまらないため、これはひとまず並行して読み続ける本として扱うことにしたい。それにしても、単行本はもとより文庫本としても品切れになっているのが不思議だ。純粋にビジネスの物語として素晴らしい本だと思うので、著者あるいは実行された施策についての評価は色々あるが、アマゾンのレビューやブログ記事で企業勤めの経験すらあるのかどうか怪しいコンサルや若造が書く文章を読んでむやみに是非を判断する前に、ぜひとも一読をお勧めしたい。

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